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    剣 隼兎

    @rabbitsord

    第五人格の機械技師トレイシー最愛最推しです。S1よりの古参エンジョイ勢。
    4周年にしてトレイシー受けにもハマる。
    トレイシー受け読み専でしたが、小説も書いていこうと思っています。
    プロフカード
    https://profcard.info/u/ie7bmsWHwThehzEsYEtlheOI3y32
    作品はこことpixivとprivatterに上げていく予定です。

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    剣 隼兎

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    エミリーとマリーのティータイムにやってくる女の子達のお話。
    みんなみんな、自分にないものが羨ましい。

    デミはお姉さんキャラだけど実は22歳で、公式で少女扱いのエマとトレイシーと歳変わらないんだよなあ、と思ったことから書きました。
    デミちゃんもエマもトレイシーも女の子!

    #デミバーボン
    demi-bourbon
    #バーメイド
    barmaid
    #庭師
    teacher
    #エマウッズ
    emmaWoods
    #機械技師
    mechanicalEngineer
    #トレイシー
    tracy.
    #医師
    physician
    #血の女王
    bloodQueen
    #第五人格
    fifthPersonality
    #IdentityV

    あおいのは?ズズズとストローでジュースを啜るデミは、ぼんやりと花壇に顔を向けている。
    肘をついてそんなことをしているので、マナーは悪い。が、指摘する人間は誰もいなかった。しても無駄な事を分かっているからだ。
    向かいに座るエミリーは、頬に手を当てて溜息を零す。
    「もう、お酒はほどほどにって言ってるのに」
    「休肝日はちゃんと守ってる……」
    「だからって浴びるほど飲んでいい訳じゃないのよ?」
    「まるで陽を浴びた吸血鬼の様ね」
    二日酔いのデミを見やり、マリーが楽しげに笑う。
    庭に植えられた花々を一望出来る、少しだけ高く作られた白の東屋。そこの円卓でティータイムをするのが女王様のお気に入りの時間だ。一人の時もあれば、勝手に来るもの、招かれるものがいたりとその日その日で雰囲気が違う。それがまた楽しい。
    今日は花を見ていた先客のエミリーと一緒に紅茶を楽しんでいたのだが、そこにふらふらとデミがやってきた。二日酔いに効く薬を求めてエミリーを探していたらしい。
    「分かってるけどぉ……つい、盛り上がっちゃって」
    「仕方ない子ね」
    円卓に突っ伏すデミに、エミリーはポケットに入れていた胃腸の薬を差し出す。恐らくこうなるだろうと思って用意していたのだ。
    デミは礼もそこそこに渡された薬を一気に呷る。そして味を認識する前にと急いでジュースを飲み干す。酷い苦味は感じはしたが、この不快感から逃れられるなら安いものだ。
    「うへぇ……」
    「……美味しくはなさそうね」
    「反省してほしいから、味の調整は一切してないの」
    顔を顰めて舌を出しているデミを、マリーは興味深げに眺めている。そんな女王に、エミリーはにっこりと笑う。
    デミは苦味に耐えきれずに、再びテーブルに突っ伏してしまう。ジュース程度では誤魔化しようがなかった。
    「ううう……分かってる、分かってるんだけど、つい」
    「飲み比べ禁止よ、もう」
    「はーい……」
    エミリーに逆らっていい事など何一つない。素直に返事をして、デミは顔だけ花壇に向ける。まだ胃の不快感は消えないので動く気が起きないのだ。
    花壇ではせっせと花の手入れをしているエマが見える。陽があるから暑いだろうに、彼女は気にする事なく作業に勤しんでいる。
    麦わら帽子に作業の為の服なんて、本来なら野暮ったく見えるだけだ。でもエマは汗を拭く仕草も可憐で可愛らしい。
    昨日、一緒に酒盛りしたメンバーにエマもいたはずなのに、彼女は溌剌と動いている。エマは付き合う程度しか飲んでいないので当然なのだが、こうやって潰れている自分との差はなんだろう。
    デミは二日酔いの辛さもあって、悲観的な気分になってしまう。
    「あー……エマはいいなあ。エマならお淑やかだし飲み比べしようなんて言わないし、二日酔いにもならないのに」
    「あなたが無茶飲みをやめたら即解決することよ」
    エミリーは二日酔いの戯言をばっさりと切って捨てると優雅にティーカップに口をつける。笑顔のままなので怒っているのかは分からない。
    デミはむっとした顔で「そうじゃなくて!」と起き上がる。
    「男どもと来たら!私には遠慮ないのに!エマには柔らかい対応するじゃない!確かにエマはそばかすも可愛いし女の子な感じだけど!同い年なのにこの差はなに?」
    「……突然どうしたの?この子」
    「体調不良からくる不安感、かしら。薬が効いてきたら収まると思うのだけど」
    いつもは元気印の看板娘の情緒不安定な姿に、マリーが首を傾げる。しかしエミリーはやっぱり素っ気ない態度のままだ。
    酔っ払いは二日酔いの間だけ反省したり嘆いたりするものだ。症状が治ればけろりとしているのだから、いちいち相手にしていたらこちらが疲れるだけなのだ。
    「エミリー冷たいー!優しくしてよー!エマばっかりー!」
    「診察嫌いの癖に、こういう時だけ甘えてくるんだから。ダメよ」
    「……童顔エミリーにはどうせわからない……」
    「次のお薬にはせんぶりをたくさん追加するわね」
    せんぶりは整腸の効果はあるが、とても苦いことで知られている民間薬だ。
    笑顔だけど間違いなく怒っているらしい。弱点皆無に見えるエミリーにも密かに気にしていることはあるようだ。
    誰もが羨ましがるスタイルのデミが、ないものねだりをしている。マリーは面白い見せ物を眺めながら、気分よく紅茶の香りを吸い込む。ちょっといつもより賑やかだけど、これはこれで退屈しない。
    「もう、お酒に誘えばみんな応えてくれる人気者の癖に、欲張りすぎよ」
    「みんなお酒飲みたいだけだもん」
    「拗ねないでちょうだい」
    円卓に顎をつけてうだうだし始めたデミに、エミリーは深いため息をつく。甘えてくれるのは悪い気はしないけども、今日のデミは中々機嫌がよろしくない。
    「なんのお話をしているの?」
    「ぴ!」
    「うふふ……」
    背後からのエマの声に、デミが飛び起きた。思わず出たデミの奇声に、マリーが耐えきれずに笑い出した。まるで木から落ちたひよこのようだ。
    バネのように跳ね起きたデミと笑っているマリーに、エマは不思議そうな顔を向ける。
    「デミさんどうしたの?」
    「あ、ああ!なんでもないわよ!エマは休憩?お疲れ様!」
    「うん。一区切りしたから、休憩なの!楽しそうだけどなんのお話をしていたの?」
    「え?あー……うん」
    聞かせてほしいと言う表情のエマに、デミは言葉を濁す。まさか当人を前にあなたを羨ましいとごねてました、とは言えない。
    なんと言って誤魔化そうかと思っていると、エミリーがニコっと笑うのが見えた。まずい。
    「デミはね、エマが」
    「エマ‼︎喉乾いたでしょ!ね!」
    デミは椅子を蹴倒す勢いで立ち上がると、エミリーの言葉を遮りエマの両肩を掴んだ。その勢いに押されるようにエマが頷く。
    「そ、そうなの」
    「だよね!じゃミントのノンアルコールなにか作ってあげる!みんなの分も作ってあげるから!」
    「え、ちょ、デミさ」
    「ちょっと待っててねー!」
    返事を聞かずに、一目散に本館へと走り去るデミ。エマは慌てて声をかけたけれども、デミはあっという間に見えなくなってしまった。
    「……行っちゃったなの」
    「すぐに戻ってくるから気にしないでいいわ」
    「二日酔いは治ったみたいね、彼女。良かったわ、面白いものも見れたし」
    マリーはくすくすと笑う。
    姉御肌といった風情の彼女が少女のように我儘を言っている様は、なかなか珍しい光景だった。今頃は正気に戻ってのたうち回ってるかもしれない。

    エマは二人に勧められるがまま、デミの座っていた席に腰を下ろす。新しいカップにエミリーが紅茶を注いでいると、東屋の外側から声がする。
    「あー!マリー!こんなところにいたー!」
    「あら?」
    名前を呼ばれたマリーが振り返ると、東屋の階段下に仁王立ちしているトレイシーがいた。頬を膨らませている彼女を見て、マリーは「ああ!」と声をあげる。
    トレイシーにお願い事をしていたのを、今の今まですっかり忘れていたのだ。トレイシーもマリーの反応でそれはわかったらしく、いつもは下がっている眉毛が吊り上がっていく。
    「もー!オートマタ直せって言ったのはマリーでしょ!」
    地団駄を踏むトレイシーはいつもの作業着ではなく少年に見える「目盛り調整」を着ている。マリーが「小汚い格好じゃ駄目」というので、作業の出来る及第点の服をわざわざ選んで来たのだ。
    だけど約束した場所に行ってみれば、マリーはいない。どこにいるのかと探し回ってみれば、優雅にティータイムをしていたわけだ。怒りたくもなる。
    ところがキーキー怒るトレイシーに、マリーは申し訳なさそうにするどころか、うっとりした目を向ける。
    「あらあら。あらあらあら」
    「……マリー?聞いてる?」
    「うふふふふふ」
    マリーは椅子から立ち上がると、いそいそと東屋の階段を降りていく。嫌な予感を覚えたトレイシーが逃げ出すより早く、マリーはトレイシーを両手で抱き上げた。
    「うふふふふ、お人形さん捕まえた」
    「あーもー!またこれか!」
    ジタバタ暴れるトレイシーに構わず、マリーは満足げに捕まえたトレイシーに頬擦りをしている。
    マリーとジョゼフは10代の姿をしているせいか、時折姿に引っ張られた言動をとることがある。特に幼い見た目のマリーはそれが顕著で、「人形」に目がないのだ。ぬいぐるみにビスクドール、オートマタと部屋には蒐集されたものが並んでいる。
    そして本物の人形だけでなく、稀に小柄なトレイシーも人形判定を受ける。普段の作業着の時は全く反応しないのだが、キャンディー少女や枯れない花といった特定の衣装を着ると、マリーが目を輝かせて捕まえようとするのだ。
    「エマー!エミリー!助けてー!」
    「トレイシーちゃん、なんでそれ着ちゃったの!」
    「ズボンなら大丈夫だと思ったんだもん!」
    脱出を諦めたトレイシーが助けを求める。慌てるエマの肩に手を置いて、エミリーが穏やかな声で告げる。
    「マリーさん、お気に入りのお人形さんが壊れたままになってしまうわ」
    「!」
    ぴくんとマリーの肩が揺れた。
    「直らないと遊べないんじゃないかしら」
    「……そうだったわ、いけないいけない」
    すとんと地面に降ろされたトレイシーが、マリーから距離を取る。マリーはと言えば、頬に手を当てて悲しげな顔をしている。
    「お人形さんはまた今度にしないとね」
    ――もう2度とマリーの前でこの服着るもんか。
    トレイシーはマリー禁止リストの衣装を脳内で更新する。
    「で?忘れてたってことは人形はマリーの部屋ってこと?」
    「そうなるわね」
    「もー、じゃあ部屋まで行くしかないじゃん……」
    移動が面倒くさいと顔に書いてあるトレイシーに、マリーはふふと笑う。
    「あら、そんなことはないわ。一瞬よ」
    「え?」
    「こうすればいいの」
    トレイシーを片腕で抱え、鏡を出したマリーが鏡像と位置を入れ替える。途端にぱっと二人の姿が消えた。本当に一瞬だった。
    東屋から身を乗り出していたエマがポツリと呟く。
    「それ出来るなら、マリーさんが人形を持って帰ってきた方が早かった気がするの」
    「うーん、結果的にトレイシー持ってかれちゃったわね」
    エミリーはティーポットに差し湯を足しながら、苦笑する。
    見たところ修理の道具をトレイシーは持っていなかったので、人形を回収したら部屋に持ち帰るつもりだったのだろう。だったら今回は無事に帰って来れるはずだ。次は分からないけど。
    「待ってれば戻ってくるわ。お茶でも飲んでましょう」
    「んー……」
    エミリーにそう促されたエマは、生返事をして椅子に戻る。温かいお茶を淹れ直してみても、エマはカップを手に取らない。円卓に両肘をついて、どこか心ここに在らずだ。
    「どうしたの?エマ」
    「トレイシーちゃんはいいなあって思ったの」
    ――あら、どこかで聞いたような流れだわ。
    エミリーはそう思いはしたが、表情には出さなかった。
    「金髪だし、ちっちゃいし、何着ても可愛いの。男の子に間違われても可愛いのはずるいと思うなの!」
    「私はエマの髪の色が好きよ。チョコレート色で」
    「ありがとうなの。ないものねだりなのは分かるけど、偶にそう思っちゃうの……みんなに頼りにされてるし、羨ましいなの」
    「ふふ」
    デミのように円卓に突っ伏すエマに、エミリーは思わず笑みがこぼれた。若い子の悩みって可愛い。
    エマのお陰で場の空気が和むし、誰にでも話しかけられる愛嬌はこの荘園ではとてもありがたいとみんな思っている筈。
    にこにことしていたエミリーだが、エマが続けた言葉には真顔になる。
    「変な人に、付き纏われないのは一番羨ましいなの」
    「そうね、変な人に付き纏われるのは困るわね、本当に」
    ピアソンの対策はエミリーも頭を悩ませているので、深く頷く。
    「お待たせーって、あれマリーは?」
    盆を片手に戻ってきたデミは、一人減っていることに首を傾げる。カップはそのままなのでいなくなったわけではないのは分かる。
    「今、ちょっと外してるけどすぐ戻ってくると思うわ」
    「そう?じゃあここに置いておくわね」
    マリーの分のモクテルを置いて、デミはエミリーとエマにグラスを差し出す。二人は礼を言って受け取り、早速口をつける。
    見たところ、デミはすっかりいつも通りに戻っている。
    「二日酔いは抜けたかしら?」
    「ばっちり。エミリーの薬は効くね!」
    「次はもっと苦くするわね」
    「ううっ……気をつけます」
    盆で顔を隠すデミに、エミリーは溜息を漏らす。いつもそう言って同じこと繰り返すんだから。
    「デミさん、ご馳走様なの!」
    脱いでいた麦わら帽子を手に取り、エマが席を立つ。いつの間にかグラスは空になっている。
    「あら、もう飲んだの?おかわりいる?」
    「ううん、まだ作業の途中だから。またご馳走して欲しいの」
    「いいよ。いつでも言って」
    すっかりいつもの調子を取り戻したデミは、さっきまでうだうだと落ち込んでいた姿は欠片も見えない。エマに快活な笑顔で答えている姿は、頼りになるお姉さんだ。
    温室へと去っていくエマを見送っていると、入れ替わりにマリーとトレイシーが帰ってきた。
    トレイシーは何故か髪がぐしゃぐしゃになっており、疲れ果てた顔をしている。
    「あれま、どうしたのトレイシー」
    「もー!人形の修理箇所見てるのにマリーが邪魔してくるの!」
    「だって可愛いんだもの」
    両手を頬に当てて愛らしい仕草をする女王様に、エミリーは、ああと思う。何故か掻い繰りたくなるのよね、あのトレイシーの頭。
    デミはトレイシーの髪を整えてやりながら、マリーを見やる。
    「何がどうしてトレイシーがマリーと一緒に移動して来るのよ」
    「オートマタをマリーが直せっていうからさ、オルゴールかカラクリが壊れたのかと思ったんだけど。見に行ったら人形の腕が欠けてるだけだったから、取り外してアニーに渡して来たんだ」
    「なるほどね。玩具ならアニーの方が得意分野だ」
    「そういうこと。そして私はただマリーに撫で回されただけだった……」
    「あはは、災難だったね」
    デミがトレイシーの乱れた髪を手櫛で直して、帽子を乗せてやる。むっすりした顔で見上げてくる姿にちょっとむずむずする。これは撫で回したくなる、確かに。
    機嫌が悪そうなトレイシーの頭を軽く叩いて、顔を覗き込む。
    「ほら、機嫌直して。お姉さんがモクテル作ってあげる」
    「……子供扱いしてない?」
    「してないしてない。ほら、エミリーとマリーの分もあるし」
    デミに応えるように、エミリーは持っていたグラスを軽く掲げる。マリーも置かれていたグラスを手に取ったので、トレイシーの吊り上がっていた眉が少し下がる。
    「じゃあ、お願いしようかな」
    「なにか味に希望はある?」
    「オレンジがいいなあ」
    「分かったわ、そちらに掛けてお待ちくださいな」
    戯けて家令のようなお辞儀をするデミに、トレイシーは思わず笑ってしまう。
    言われた通りにトレイシーが円卓についたのを見届けて、デミはまた本館へと向かった。彼女は働いてる時が一番輝いて見える。
    そんなデミの背中を見つめて、トレイシーが大きな溜息をついた。
    「あー、デミはいいなぁ」
    ――あら?どこかで聞いた流れだわ。
    目を瞬かせているマリーの隣で、エミリーはカップで口元を隠し、漏れそうな笑いを堪えた。そして何食わぬ顔で問いかける。
    「どうして?」
    「だって格好いいし、美人だし、頼りになるし、それに胸大きいもん」
    「あらあら、頼りにしてるわよ、修理屋さん」
    「んんんん!嬉しいけど!そうじゃなくて!こう、人間として頼りになるというか!」
    「うふふ」
    マリーはトパーズ色のモクテルを口に含み、その香りと味を楽しむ。ワインの方が好みだが、偶にはこういうものも悪くはない。
    それにしても、女の子はどうしてこう欲張りさんが多いのかしら。
    エミリーは、円卓に片頬を押し付けむくれるトレイシーに茶菓子を取り分けてやる。
    「トレイシーも可愛いわ」
    「……どうせチビだもん。わんこ扱いだもん」
    むうと膨らませたトレイシーの頬を、つんつんとマリーが突く。その手をトレイシーはぺしりと叩いた。
    トレイシーは不必要に撫で回されるのは好きではない。だからって突かれるのも嫌だ。どうも子供か動物にするような対応をされてる気がしてならない。
    それに引き換えデミは、男性相手でも引けを取らないし、いつも余裕があるしで本当に格好いい。
    「ないものねだりなのは分かってるけど!それでも羨ましい……一歳しか違わないのにこの差はなんなのー!」
    「あらまあ」
    突っ伏して円卓をだんだんと叩くトレイシーに、マリーの口からふくくと笑いが盛れる。
    ――同じようなことをあなたが羨ましがってる人が言っていたのよ、そこで。
    隣の芝は青いというけれど、全て美しい緑色をしているのに当人達には分からないのだ。手中の映える色に気付かずに、嘆く姿は側から見れば喜劇のようだ。
    マリーは隣に座る女医師を見やる。悠然とした態度で紅茶を嗜む淑女に、マリーは小首をかしげて問いかける。
    この態度を崩さないエミリーへの、ちょっとした好奇心だ。

    「貴女にも青い芝があるのかしら?」
    「うふふ、どうでしょう」

    白衣の天使は、いつも通りにおっとりと微笑むだけだった。


    END
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