【承仗】憎しみを贖うもの(1)そんな瞬間は何度もあった。
きっかけはいつも、些細なことだ。
女の柔らかい衣服の端が肌をかすめる。
承太郎の男らしい匂いが女の鼻先をくすぐる。
その瞬間、二人の間に何かが芽生えて同時に気付く。
始まってしまったことを。
そんな時、承太郎は雄の本能のままに躊躇せずに手を伸ばした。
こんなことは何度もあった。
妻の時もそうだった。
彼女は植物のように物静かな女性だった。
美しいが慎ましやかで、野に咲く花のように可憐だった。
彼女は最初は承太郎の大きさや圧倒的に強い威圧感に慄き怯えて震えていたが、そんな二人の間でも、ふとした瞬間に始まってしまった。
それは恋と呼ぶには、あまりにも原始的で本能的な、男と女の間に昔から普遍に起こる共鳴だ。
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