Recent Search

    アンドリュー(鶏)

    @KpaM9hx9

    たまに字や絵を投げます。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    アンドリュー(鶏)

    DONE2025年5月30日~6月1日開催の『星の祝祭Ⅵ』に併せて公開の新作です。
    ビネ・デル・ゼクセに住む絵描きの少年とクリスのお話。

    この絵描きの少年は、ゲーム本編ビネ・デル・ゼクセのクリスの邸宅近くにいるモブの少年がモデル。名前などの設定は個人の妄想ですが、彼が絵を描いていてクリスに見てもらっているらしいセリフは本編で見られます。
    よかったら幻想水滸伝3のゲーム本編で確かめてね!リマスターほしいね
    女神の愛する庭で 少年が瞬きをしたそのとき、目の前の猫がごろんと転がった。白猫はとても心地よさそうな様子で青々とした芝生に四肢を伸ばしている。少年はあっ、と声を上げた。そして黒炭を持ったままの右手で、汚れるのにも構わず自身の金髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。そしてまだ余白の多い自らのスケッチと眼前の白猫を交互に見た。集中して書き込んでいた背中側の毛並みは、今はすっかり芝生に埋もれて隠れてしまっている。というより、もはや彼が描き込んでいたポーズとは端から変わってしまった。少年は深いため息をついた。
     少年と白猫の出会いは数十分前のことだった。港町ビネ・デル・ゼクセ生まれのごく普通の少年──リアンは、その日路地裏で一匹の白猫を見つけた。緑の目をした真っ白の猫で、その細身でしなやかな身のこなしから雌の猫だろうと思われる。ほの暗い路地裏の、建物のすき間から昼下がりの陽光が差している一角に白猫はごろんと転がって毛繕いをしている。彼は白猫が逃げないように少し距離をとり、そして脇に抱えた自分の顔くらいの大きさのスケッチブックを取り出してその場にしゃがみこんだ。
    13250

    アンドリュー(鶏)

    DONEルックがセラ、アルベルト、ユーバーと出会ったときの話。それからほとんど言葉を交わすことのないまま彼らが別れたときの話。
    私の夢と願望を特盛りにしたルックの断髪ネタやレックナートさまとのやりとりも出てきます。

    記念すべき2冊目の同人誌。相も変わらずⅢと破壊者への愛だけはせいいっぱい込めました。
    彼らの業ごと愛している破壊者推しとして、個人的に書いておきたかったお話でもあります。
    邂逅Ⅰ: If one believes in the path before them,
    they follow it.
    As this is human nature.

     あるときは、栄華を極めた黄金の都が。
     あるときは、人々の手によって文化を興隆してきた大きな都市が。
     またあるときは、密やかに隠れながらも生活が営まれてきた小さな村が。
     自分の記憶にある場所も、まだ見知らぬ場所も。その『夢』の中ではただ平等に、安らかに、静かに停止していた。確かにそこにあるはずなのに、生命の存在も色彩も流れるはずの空気も全く存在しない灰色の世界が瞼を閉じるたびに眼前に広がってくるのだ。かつて、隆盛を誇った都や都市が戦によって荒廃する様を見たことがある。自分勝手に拓いておいて自分たちの手でまたそれを壊す人間の心理に共感こそしなかったが、それでも人の手によるものであったからその在り方は理解できた。しかし『これ』は違う。人の手による破壊でも、自然が猛威を振るった跡でもなく、そもそも純然たる破壊ですらなく。ただそれまで脈打っていたはずの鼓動を止められたような、そもそも『生命』という概念が奪われてしまったような。そんな光景だった。
    50147

    アンドリュー(鶏)

    DONEⅢED後の大統領2主が15年ぶりにかつての本拠地を訪れるお話。
    (2主→リオウ、ぼっちゃん→ティル)
    Ⅱ軍師組やぼっちゃん、フッチなどが出ます。タイトルと時系列で察せられるかもしれない、あの人の話でもあります。

    令和になって突然小説を書き始めたわたしの、人生初同人誌だったりします。Ⅲの結末への愛と祈りをせいいっぱい込めました。
    そういう意味でも個人的に思い出深くて好きな作品です。
    風の在る理由 斜陽が草原を明々と染める中に草の香りを孕んだ風が舞っている。デュナン共和国、サウスウィンドゥ市に続く街道を青年はただ一人で歩いていた。風が優しく包み込むように過ぎて行って、彼の黒髪を包んだバンダナが宙に舞う。
     突然、穏やかだった風が鋭さを増して青年に襲いかかった。一瞬の出来事であったが、その風に立ち止まった彼──ティルの表情は少しばかり翳ったように見えた。
    「……そうか」
     街道の先にあるデュナン湖を見据え、ティルはぽつりと呟いた。
    「君も、逝ってしまったんだね」
     彼はしばらくその場で風に吹かれるまま佇んでいた。そしてまた、一人でゆっくりと街道を進んでいく。これから訪れる夜を思わせるような冷たさが降り掛かってくる。風はただひたすらに彼の背を押すような追い風だった。
    59561

    アンドリュー(鶏)

    DONEⅢ本編5年くらい前の赤毛軍師兄弟の話。
    シーザーから見た兄の話と、アルベルトから見た弟の話の2本立て。
    実在する某超有名推理小説が作中に出てきますが、ゲーム本編にもロミジュリとかが脚本として出てくるのでいいかなと思ってやりました。細かいことは気にしないスタンスで見ていただけると嬉しいです。
    いつか来る瞬間のためにⅠ.いつか来る瞬間のために 目の前の本を開くと黴臭い埃の匂いがした。鼻の奥と喉がむずがゆくなって、ごほごほとむせ返る。舞い上がった埃が窓から射し込む午後の陽光に白く照らされていた。

     シーザー・シルバーバーグは生まれ育った家の自室でひとり机に向かっていた。目の前には先ほど開いた一冊の本と、広げられた一枚の紙。開いたままのインク瓶の隣には、なかなか書くべきことが思いつかずに投げ出されたペンが転がっている。開いた本から舞い上がった埃に出鼻をくじかれたシーザーだったが、めげずに開いた本を文字を追い始める。ある国の興亡が記された何十年も前の歴史書はところどころページが黄ばんでいて、書かれている言葉遣いもそれはそれは古めかしいものだ。普段の彼なら望んで手にしないようなその本は、彼の家庭教師が手渡してきたものだった。指で一行ずつ、ところどころ掠れた文字を辿る。が、開いたページの次もめくらないうちに十二歳の少年は椅子の背に勢いよくもたれかかった。
    24925

    アンドリュー(鶏)

    DONE幻水1のエルフたちがエンディング後に自分達の故郷に帰るお話。
    幻想水滸伝1のエルフたちは四者四様といった趣で個性豊かですが、彼らに共通して眼前に横たわっている悲しみあるのだと思うとなんだかしんみりしてしまいます。特にあんなに明るいスタリオンにもおそらくは表には見えづらい切なさや寂しさがあるのかな、なんて思いながら書いた作品です。
    また会う日まで 戦いは終わった。
     けれど僕たちの戦いはまだ終わらない。
     ひとりのエルフの青年は、焼け落ちた故郷の大樹を見上げた。焼け焦げた枝々の隙間から見える空が真っ青だったから、その暴力の跡がひどく浮かび上がってくるようだった。
     『赤月帝国』というひとつの国が滅び、この地が『トラン共和国』と称されることが決まった頃のこと。解放軍の一員としてその終焉を見届けた青年──キルキスは、戦いのさなかに喪われてしまった故郷を訪れていた。度重なる争いに訪れる時間すらなかったのは事実だけれど、やはり生まれたこの地の変わり果てた姿を見ることを避けたい心があったのもまた事実だった。それでも、今は向き合わなければならない。エルフの、いやこの世界で暮らす存在の一員として、新たな生活のためにこの一歩を踏み出さなければならない。この地に残る同胞たちの無念に引き込まれそうになるのを、キルキスは自身を鼓舞することでそれに耐えようとしていた。
    5755