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    mmmori0314

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    mmmori0314

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    エイプリルフールネタ。
    蒼月時空、四月一日の蒼真くんと有角さん。日常色々捏造。
    蒼真くんは騙されやすい子。

    ##悪魔城ドラキュラ

    四月一日、嘘つきな貴方 目蓋を開けると、自分の部屋のものではない天井が目に入った。
     ごろりと寝返りをうって、自分の匂いがしないベッドに顔を押し付けて息を吸えば、なんだか微かによい香りがする。居心地が良い。安心する。惰眠を誘う肌触りを何とか断ち切って、もぞもぞと身を起こす。
     蒼真の部屋とは趣の違う、落ち着いた雰囲気の洒落た部屋。ぼんやりした頭に浮かぶ違和感に少し遅れて、そういや昨日は有角の家に泊まったんだったな、と思い出しながら蒼真はベッドを抜け出した。まだ少し眠い。
    「おはよ……」
    「ようやく起きたのか。おはよう。さっさと顔でも洗って来い」
    「ああ、うん……」
     のろのろと部屋を出れば、寝ぼけ眼のまま追い立てられて、ぺたぺたとフローリングの床を踏む。じゃぶじゃぶと冷たい水を浴びたところでようやく目が覚めた。幾分はっきりした頭で踵を返す。
     リビングまで戻ると、暗い部屋でコーヒーの匂いが鼻をくすぐった。
     うん、暗い。外はとっくに日が昇っているというのに、やたらごつい遮光カーテンが部屋の暗闇を守っている。こうして薄暗い中で見ると、落ち着いているとも沈んでいるとも言える内装は、どことなく家主に近い雰囲気がある。家も住んでいる人間に似るのかもしれない。
     まあこのワンルームマンション、正確には有角の家ではなく機関の拠点らしいのだが。でも大体有角はここにいるので有角の家で良いと思う。
    「カーテンくらい開けろよ」
     暗いほうがいいのか節電なのか電気すら点いていない。せめてカーテンを開けようとすると、眩しい、と文句を付けられたので有角に日が当たらないよう半分だけ開けた。ついでに換気の為に窓も少し開ける。何も言われなかったので、これは許容範囲内なのだろう。
    「……よっぽど苦手なんだな、朝」
    「あまり得意ではないな……」
     夜の眠気にしがみつくように、有角は光を避けてソファの隅でだらりと身を投げ出している。艶やかな長い黒髪が顔に影を落とす一方、白い肌は薄闇の中で仄かに浮いている。普通の人間がやったらだらしないだけなのに、人間離れした美貌と相まってやたら退廃的な雰囲気を醸し出しているの、何かのバグじゃないだろうか。
     というかあんたの前にあるコーヒーは何だよ、飲んでも目が覚めないのかよ、と喉まで出かけったのを飲み込んで、ソファの向かいに腰かけた。それと同時にどうぞ、と小さな妖精に差し出された、彼女からすれば一抱えほどもあるマグカップを受け取る。一見大変そうに見えるがそうでもないらしく、妖精は翅をひらめかせて軽やかにパンの袋も追加していった。
     あの妖精は有角の使い魔らしい。最初こそ驚いたものの、この家では使い魔が当たり前のように生活していて、もうすっかり見慣れてしまった。テーブルの向こうでは有角が組んだ足の上に乗せたゴーストを気怠げに撫でている。丸くて撫でやすそうだが見た目は頭蓋骨撫でてるやべー奴である。それですら絵になるんだから反則だ。足が長い。まあ、撫でられて機嫌良くカタカタしてるゴーストはちょっと可愛いと言えなくもない。
     甘えるようにすり寄って来る蝙蝠──これも有角の使い魔──を指先であやしながら、コーヒーを口に運ぶ。ふわりと鼻に抜けていく香りとしっかりした苦味。インスタントじゃない良いやつなんだろう、多分。
    「もう春か……」
     ふと思い出したように、有角が呟いた。
     冬の鋭い冷たさは過ぎ去り、春の柔らかな風が頬を撫でる。四角く切り取られた景色の隅で、薄紅色の花が揺れている。
     色々とあったが、時は進み季節は流れている。雪の舞う中乗り込んだあの場所で味わった痛みも今は薄れつつある。
    「時が流れるのは早いな」
     どこか、遠くを眺めるような目。ここではない何処かに想いを馳せるような。有角も何か思い出していたのだろうか。しみじみとした言葉の裏には、種々のものが埋まっているように思えた。
    「時間経過が早く感じるようになったら年寄りの証拠だって、ユリウスが言ってたぞ」
     気にはなったが、追求するのも無粋な気がして、適当に混ぜっ返す。ちなみに、ユリウスがそう言っていたのは本当だ。『年を取るごとにそうなる、年々早くなるぞ』だそうだ。蒼真にはまだよくわからないが、すごい実感が籠っていそうだった。
    「年を取ればそうなるものだ。お前もいつかわかる」
    「あんたいくつなんだよ……」
     そして有角もユリウスと同じようなことを言うものだから、思わず有角の顔をじっと見つめる。
     見た目は蒼真と十も離れていないように見えるが、十年ほど前から容姿が全然変わらないと弥那が言っていた。実際はもっと上なのかもしれない。
    「さぁ……随分昔に数えるのもやめてしまったが……五百か六百か、それくらいだった気がするな」
    「………はい?」
     想像していたより遥かに上だった。予想の天井を突き破って成層圏まで行った。いやおかしいだろ。文字通り桁が違う。
    「まあ三百年ほど寝て過ごしたからその年数の記憶はないな」
    「三年寝太郎の百倍寝てんじゃん……もう人生の半分だろそれ……」
     色々と突っ込みたいところはあるのだが、とりあえず口から出たのはどうでも良い感想だっだ。現実感のない話だ。だがそれにしたって時間の使い方がおかしいだろう。
    「えっと、人間……?」
    「人間がそんなに生きる訳ないだろう」
     何を当たり前のことを、とばかりに言われて釈然としない気持ちになる。非現実的なことを言ってきたのはそちらなのに、どうしてこちらが常識を説かれているのか。というか、とんでもないこと言ったぞこいつ。
    「あんた、人間じゃないのか」
     悪い冗談のようだ。こんな街中で、何の変哲もないマンションで普通に朝食を共にしていた相手が人間じゃないなんて、そんな衝撃の事実があるか。
     信じられないものを見る目で、有角の顔をまじまじと眺める。蒼真はこの上なく驚かされたというのに、有角ほいつも通り涼しい顔をしていて、なんだか少し悔しい。
    「魔物だが?」
    「そ、そうなんだ……」
     一方で、何となく納得している自分もいる。
     だってそうだろう。この恐ろしいほどの美貌と浮世離れした雰囲気だけでも、人間じゃないという言を信じさせる力がある。蒼真と同じ闇の力を持っているというのも、魔性であるなら当然だ。
     全てが終わった時に、蒼真は全ての力を手放した。その状態で向き合っている相手が魔物だと言われても逃げようともせず固まっている蒼真を見て、有角がすっ、と目を細める。物憂げな長い睫毛の向こうに、金色の月を見たような。ああ、やっぱり綺麗だ。こんな綺麗な生き物が人である訳がない。
    「蒼真」
     形のよい唇がゆっくりと動いて──
    「……お前の純粋さは好ましいが、騙されやすいのは玉に瑕だな。詐偽には気をつけろ」
     告げた言葉に、思考が停止する。
    「………………は?」
     なんて?
     耳を疑う。ちゃぶ台をひっくり返して全部台無しにするような発言。ここまで他人を揺さぶっておいてそれはないんじゃないのか。
    「ところで蒼真、今日は何月何日だ?」
    「え?えーと……」
     唐突に会話の流れと何の関係もない質問をされて戸惑う。急に言われても咄嗟に思い浮かばず、壁にかかっていたカレンダーをちらりと見る。昨日の夜見た時とは何か違うそれの曜日を追いかけ、
    「四月、一日………あっ!」
     ようやく状況を把握した。同時に、どっと脱力する。
     完全に、騙された。迫真すぎる。質が悪い。
    「エイプリルフールかよ……」
     嘘をついても許される日。
     つまり、やたら凝った嘘で騙された訳だ。真顔でそういうことするの、やめて欲しい。普段の有角は意味もなく嘘をつくようなタイプではないし、まったく疑っていなかった。
     いいように手の平の上で転がされていたと思うと悔しくて、テーブルを回り込んで、有角の横にどかりと居座って肩を揺さぶる。
    「騙された」
    「そういう日だろう」
    「性格が悪い」
    「そうか」
    「あんたはそういうの興味ないと思ってた」
    「たまにはな」
     ゆっさゆっさと揺らしてみても、有角は悪びれる様子もなくいつも通り淡々としている。そんなに力を込めている訳ではないので堪えていないのはわかるが、少しは何かリアクションしろ。
    「は~、やだやだ。やっぱり俺、あんたのこと嫌い」
    「……そうか。だろうな」
     有角の肩から手を離し、そのままずるずるとソファに沈み込む。相変わらず反応は薄い。何となく腹が立って、身体を倒すと有角を枕にするように思い切り体重をかけた。
    「嘘」
    「………なに?」
    「嘘だよ。エイプリルフールだろ?」
     見上げると、有角が目を白黒させているのが目に入って、してやったりと溜飲を下げる。いつも物憂げに伏せられている目を見開いた有角の表情は、珍しく人間らしい。
    「なあ狭いんだけど。もうちょい詰められないか?」
     気分をよくして、有角をぐいぐい押してと自分の領土を増やす。
     呆れたような溜め息が上から降って来たが、押し返すのも面倒なのか抵抗はなかった。ひらりと肩に乗って頬にすり寄ってくる蝙蝠と、有角の膝から移動して来たゴーストと戯れながら、遠慮のえの字もなく有角にもたれかかる。
    「この体勢に無理があるだろう。広々と使いたいなら向こう側に戻れ」
     そう冷たく言い捨てながらも顔の下にクッションを捩じ込んでくれる辺り、態度は悪いが意外と面倒見は良い。腹立たしい所は多々あるが、こういうところがあるので嫌いにはなれないのだ。
    「というかさ、嫌いな奴の家なんか泊まるわけないだろ」
     そもそも何故この家に泊まっていたかと言うと、近所に出没する不審者について相談していたからである。
     まあ結局、それについては幸いなことに魔王信奉者とかではなく単なる不審者だったのだが。いや嫌だけど。単なる不審者にも関わりたくないけど。それでもあの時のような事件が起きなかったのは喜ばしいことで、安心しながら夜も遅かったのでこの家で寝た。
     最近ほぼ形骸化している気もするが、有角は蒼真の監視だ。大体いつでも近くにいるし、自分を監視している奴に遠慮とかする必要性は感じないし、頼ることに罪悪感もない。何というか楽な相手だ。仕方がない事とはいえ、蒼真のプライバシーは多少犠牲になっているのだ。それくらいは許せ。
     そういう甘ったれた意識は伝わっている気もするが、有角は気にした風もなく全力で寄りかかる蒼真を好きにさせているので、許されているのだろう。たぶん。
    「……よくよく考えるとあんたが魔物だとしたら、やってることが意味不明だよな……」
     そういえば、と先程の話を思い出す。魔物の王たるドラキュラの復活は、闇のものたちが望む事だろう。だが蒼真が魔王とならないよう、誰より助けてくれたのは有角だった。そして今もこうして、魔王として覚醒すれば失われる『来須蒼真』という人間と馴れ合っている。
    「………。俺が人であれ怪物であれ、お前を魔王になどさせたくないがな」
     ぽん、と軽く頭に手を乗せられる感触。有角の声はいつも通りのようでいて、その奥に何かを孕んでいる気がした。抑えられ隠された感情が何だったのか、それを追うのは何となく憚られて黙って耳を傾ける。
    「破壊と混沌を求める心によって呼び覚まされ、永遠に終わることのない闘争に身を投じる。そしてその果てに殺されても、安息はない。眠りについた魂はいずれまた呼び起こされ、同じことを繰り返す。そのような生き方を、俺は肯定したくない」
     これはきっと、有角の嘘偽りない本心だろう。今日は嘘の日で、この男は蒼真を平気で騙すやつだが、それくらいはわかる。
     魔王復活の阻止に費やす執念、宿命に対する憎しみのようなもの。それは余人が容易く触れてよいものではないのだろう。何より、その宿命は蒼真が拒絶し、背を向けたものなのだから。
    「ドラキュラも大変だな……。じゃあ俺が魔王になった暁には、配下全員スケルトン・ボーイにして城に来たヴァンパイアハンターにカレーでも振る舞うよ。平和的だろ」
     代わりに、他愛ない嘘をひとつ。
     もたれかかった有角の身体から、微かな震えが伝わる。ついでに必死で何かを堪えるような、おかしな呼吸も。素直に笑えばいいのに。
     というか、これ結構楽しそうじゃないか?
    「香辛料臭そうな城だな……、っ」
     カレーが支配する城を想像したのか、まだ整いきってない息の下で有角が言う。確かに、ヨーロッパじゃなくてインドみたいになるかもしれない。シュールだな。
    「流石に全員スケルトン・ボーイはやりすぎかもな。カレー置く用のターンネートテーブルと、出前用のこうきどうほねばしらも付けよう」
    「………っ、結局カレーだろうそれは」
     建設的な提案に、有角がソファの肘掛けの上に突っ伏す。ツボに入ったらしく、しばらく起き上がって来なかった。呼吸困難になりかかっているので、軽く背中を叩いてやる。
    「いいだろ、カレーの城。まあ、嘘だけど。俺は魔王になんかなる気はないし」
    「……そうだな。お前は魔王になどならなくていい……ならないほうがいい」
     ようやく戻ってきた有角が真面目くさって言う、この『ならないほうがいい』はさて、蒼真の為なのか城の尊厳の為なのか。どちらだろうと蒼真は疑問に思ったが、放っておいた。どうせ魔王にならないなら、どちらでもいい。
    「蒼真、お前は嘘の才能があるな」
     褒め言葉なのか何なのかわからない言葉と共に、有角が機嫌良さげに目を細める。
    「そうかな。俺はあんたのほうが詐欺師の才能があると思うけど」
     何しろまんまと騙された。態度がいつもとまったく変わらないのが罠だった。あとは雰囲気でごり押せる。諸々揃っているし才能があるんじゃないかと思うのだが、有角は向いていない、と断言して首を振った。
    「どうでもいい人間と話すのは億劫だ。俺は詐欺師にはなれん」
     なるほど。もっともだ。
     身も蓋もない理由だが、この上なく納得した。それと同時に、こうして話していても有角がそれを億劫がっていないことの意味に、自然と口元が緩む。
    「蒼真。ずいぶん楽しそうだが、そんな面白いことがあったか?」
     よほどにやけていたらしい。訝しげにこちらを見る有角に、なんでもない、と慌てて表情を取り繕う。別に知られて困る事もないが、なんとなく気恥ずかしい。
    「エイプリルフールも悪くないなって思ってさ。それより、嘘の日だから嘘か本当かわからない事言うけど」
     適当に誤魔化して、強引に話題をねじ曲げる。まあ騙されたのは腹が立つが、それなりに楽しいのは嘘じゃない。
    「……あんたが助けてくれたから、俺は今こうしてここにいる。幸せなんだ。あんたに会えて良かった」
     詐欺師のように朗らかに、というには少しぎこちない笑顔を向ければ、有角は面食らったように目をしぱたたかせた。けれどすぐに、穏やかに笑みを見せる。こちらはもう、完璧なまでに美しく。
    「そうだな。これほど満ち足りた日々は久々だ。お前に会えて良かった」

     四月一日、今日は嘘の日。
     これは嘘、あれも嘘。全部嘘だ。全部嘘だから、遠慮なく吐き出してしまっても良いのだ。今日はそういう日なのだから。

     どうせ嘘なら、どうか幸せな一日を。
      
     
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