失楽園プロローグ ~主、こんなのってないですよ!~
「長谷部のそれは刷りこみみたいなものだと思うなあ」
お慕い申しあげております、となけなしの勇気を振り絞って伝えたところでこの台詞。しかも冷ややかな視線つき。その場に崩れ落ちなかっただけでも上等だ。泣きださなかっただけでも褒めてほしい。長谷部は蒼白な顔で目が乾くほどに自らの主を見つめ、哀れに震える唇をいたずらに何度か開閉させた。
長谷部がこの本丸に顕現したのは、おりしも藤の花咲く季節であった。迎えた審神者はこれといった特徴のない凡庸な女である。巫女服に身を包んでいたが、率直に言えば服に着られているようなありさまで、神職の者が持つ凛とした厳かさもなにもない。
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