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    いなや

    @popu_M99

    書きかけが解凍される瞬間をまっている
    推敲しない場所 無濾過

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    いなや

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    米出
    大学生 一緒に暮らしてる
    2016年とかの書き残り 未完のため肉付け前、後半はほぼ台詞プロット

    12/8のQA見た?私は見た「よーすけ、ちょっと」

    --驚いた。
    台所から聞こえてくる食器の擦れる音。弄っていた端末をテーブルに置き、スリッパをつっかけつつそちらに向かう。洗剤香りと蒸気が混じった空気がくすぐったい。

    「……呼んだ?」
    「呼んだ呼んだ」

    振り返った出水は普段通りの澄まし顔だった。狼狽えているのは米屋だけらしい。皿洗いをしている出水はすっかり見慣れた姿だった。料理が米屋で、後片付けは出水。生活と水のあるがままの流れ。
    ツンと出水の顎が手元を指す。

    「なんかさ、捲ってた袖落っこちてきたから上げてくんね?」

    なんてことのないお願いだ。泡まみれの指がずり落ちたシャツの袖を示す。米屋より寒がりな出水は、既に長袖を着用し始める季節になっていた。
    袖は既にちょっと手遅れだったらしい。グレーの生地は端の部分だけであるが、水を吸って濃い色になっていた。それを肘あたりまで上げてから、二回折り返してやる。鳥肌立っている色素の薄い肌に、思わず吹き出しそうになった。今日はそんなに寒くもないだろう、勿論口に出したりしない。同じように反対側も袖を捲り、ついでに給湯器の設定温度を少しだけ上げた。

    「よっと、これでおっけ?」
    「おー、さんきゅ槍バカ」

    槍バカ。いつもの呼び名だ。弾バカ呼びを出水は否定するが、米屋は案外それを気に入っていた。

    「?どしたよ」
    「いやー、なんつーか……とりあえず拭くの手伝う」
    「なんだそれ」

    まあ、手伝ってくれるのはありがたいけど。
    よっぽど腑抜けた表情だったのだろう。愉快そうに笑う出水へ手を出すと、ほいっと平皿を渡された。真っ白な布巾でそれの水分を吸い取っていく。この皿は何に使ったんだったか。昨夜のホッケ開きの皿だったけ。綺麗に拭ったら、そのまま食器籠の中に放り込む。ガシャンと音を立てた皿に、出水はちょっとだけ眉を顰めたようだった。

    「なー」
    「なんだよ。つーか、皿もっと大事に扱えよな」
    「なーって」
    「だからなんだって」

    左隣から流れてくるサラダボウル。これは今朝レタスをちぎっただけサラダに使ったやつ。サラダといえば。出水が好きなシーザードレッシングがそろそろ切れることを思い出し、脳内にメモを取った。そのメモが果たしていつまで残るかは米屋自身にも謎であるが。そう深くは考えなくていいだろう。米屋という人間はいつもそうであったし、今もこれからもそれでいいと思っていた。

    「出水クン、ちょっとオレのこと呼んでみ」
    「はァ?」
    「いーからいーから!」
    「え、普通にやだわ。なんで」
    「ヤダっておい。減るモンじゃないし、ほら」
    「槍バカ」
    「槍バカはオレの名前じゃねーぞ弾バカ」
    「弾バカ言うなって。訳わかんねー米屋クン」
    「ありゃ?」
    「さっきからなんなんだよ、おまえ!」

    出水は、結構気が短い。
    米屋が甘やかしたせいでもある。

    「おまえさー、さっきオレのこと陽介って言ったの気づいてる?」
    「は?」
    「よーすけー、って」
    「んなアホな」
    「いやマジマジ」

    マグを濯いでいた出水の手が止まる。ザーー。湯が意味なく流れていくのを、環境に悪いかなと思いながら横目で見ていた。マグがお湯を過多に浴びて、泡がだらだらと落ちていく。
    出水はと言えば、こちらを凝視したままパチリ、パチリと二回大きく瞬きした。ゆっくりとした動作がなんとなく可愛いなと思えてしまう。

    「……マジ?」
    「うん」
    「うわーマジかー……」

    彼なりにショックだったようで、がっくりと項垂れていた。
    すっかり泡の落ちたマグを受け取る。

    「おまえさー、もしかしなくてもオレのこと名前で呼ぶの避けてたよな」
    「あー……やっぱりわかってた?」
    「まぁなんとなく?さすがにな」

    この際だ、聞いてしまおう。ずっと気になってはいたのだ。


    (中略)


    「おう、アレするとおまえ余裕なくなるから楽しいんだわ」
    「そっかー」

    そっかー。意味もなく二回繰り返してしまった。
    しかし、今のが出水の照れ隠しであることもわかっている。なんでもない様を振舞っているが、頑なに視線から上げようとしない。

    「なんつーかさ」
    「うん」
    「下の名前で呼ぶのってコイビトですーって感じするじゃん」
    「えっ、オレ秀次達とか名前呼びなんだけど。三輪隊って……!?」
    「バカ言ってんな馬鹿」

    肩で容赦なくど突かれて、思わず吹き出す。見れば出水も笑っていて。恋人は自分だろとでもいうかのような無意識の自信ある表情がなによりも可愛く思えた。
    両手が塞がっていたので、その鼻頭に噛みついた。あぐあぐと甘噛みしてやれば、擽ったげにますます身体を揺らして笑うものだからどうにも楽しくなってくる。

    「これでも良いカレシのつもりなんですけど」
    「まぁ確かに。友達?友達でいいのか?要はそのへんの枠から外れる感じがなんて言うか--……あー、ちょっと待って。こっちの方がはずいかも」

    おれ何言ってんだ、つーか何の話だっけ。
    さっきの話題ではなんでもない顔をしていたのに、こちらでは照れるらしい。
    米出と出水の健全な付き合いは、長くもないが割り切るほど短くもない。高校生という潔く去った3年間は厄介に燦いて、良くも悪くも強く二人の間に残っていた。
    米屋にも、なんとなくわかる。親友と呼ぶには照れくさく、同僚よりはずっと近いけれど、ライバルにしては切磋琢磨という訳でもない。自分たちは別に意識して競い合ったのではなく、ただひたすらに楽しかっただけだった。ランク戦になれば互いに別隊、切磋琢磨はチームメイトとしていればいいしそうすべきだ。何戦もしたことで強くなってもそれは結果論で、自分たちにはラッキーな儲けものくらいでしかない。二人の模擬戦は悦楽を求めたくらい邪まで、純度の高いものだった。
    だから米屋だってずっと今まで出水のことを出水としか呼んでなかった。だって、伝えたいことはなんとなくわかるのだ。

    「でもおれ呼んでたんだろ」
    「すっげー自然だったから正直ビビった」
    「んじゃ、もういっかな」
    「へっ?」
    「だめかよ」
    「だめじゃないけど。えーそんなモン?」
    「や、おまえが嫌なら別にしないけど」
    「ぶっ、なんだそれ!だめじゃないって!はーっ気味悪ィの!おまえ今更オレのこと伺うようなたまじゃねーだろ」
    「弾バカだけに?」
    「やめろって!」

    弾バカって言うんじゃねーよ。自分で言ったんじゃん。あーあ、理不尽!

    「おまえそれ好きなー」
    「うっせーよ、それこそ好きにしとけって話だろ」

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    いなや

    MAIKINGジェイフロ

    クルエラ見たあとに最高のクルーウェルが見たくなって書いたやつ。双子まだ出てこない。未完によってただの講義記録になっている。あともう半分くらいある。
    結構毛だらけ犬灰だらけ「仔犬ども!」

    Mr.クルーウェルはなにをおいてもまずその一言から指揮を執る。
    しなる鞭の破裂音。
    教壇を踏み鳴らした高圧的な靴。
    制服がのろのろわらわら、一斉に席に着き始める地響き。
    至極真面目な最前層と、可能な限り後ろにいたい――そしてあわよくばバレず寝たい、そんな偉業はまず無理だが――層があるものだから不思議と中間あたりに隙間ができる。
    少し目立って、無難でソツないながらにやや当てられやすく、教師の印象に残る席。
    そんな空間の隣にアズールは滑り込んだ。すると、既に座っていたバイパーが無口に半身ほど隙間を空けたので、人魚はより嫌に笑んだ。バイパーはいつでも先んじて、集団のなかで絶妙なバランスを見定めるのが上手かった。アズールは彼のそういったところを気に入っていたし、活用できればとも思っていたし、こうして隙あらばあやかろうともしていた。そしてバイパーはアズールのことを毛嫌いしていた(つまりかの行為もなにもどれ席を作ってやろうなどという気遣いではなく、まぁそのような意味である)。
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