ごじれたけどやっぱくっつけ！！！！「覚えてないならいい」
　明け方のリビングでそういったダンデの顔は見たこともないくらい悲しそうな表情で、瞳には涙が浮かんでいた。
俺様が先ほどの自分を殺したくなるのと同時に涙の浮かぶダンデの瞳を見れなくて床に視線を落とせば。
「君と結ばれることが出来たと思って嬉しかったのに……」
とダンデがポツリと言った。
その言葉にキバナが顔を上げるよりも早くダンデが窓の方へ向かっていく。
そして自分の伸ばした指先が触れるよりも早くオレンジの風と共に空の向こうへ飛びさってしまった。

　キバナはダンデの事が好きだった。
はじめはいけすかないやつだと思っていたのにバトルをする度、素のあいつを知る度に惹かれていきいつの間にかダンデの笑顔が、甘いものが好きなところが、暗がりが怖いところが、キャンプで見た髪の毛を爆発させた姿がかわいいと思うようになり、最終的には恋に落ちていた。
でも、自分は臆病でとてもその思いを伝えることなんてできなかった。
　
　それが昨晩、ジムリーダー達の飲み会に顔を出したダンデと盛り上がりまだまだ飲み足りない騒ぎ足りないから俺様の家で二人で飲み直そうぜと言ったキバナの一言で状況が変わったのだ。
二人で肩を組んで酒の瓶片手に大いに盛り上がって、最終的にテンションがおかしくなり、下ネタ混じりの冗談が会話に混じり始めた頃ダンデが
「実は俺、自慰の時に後ろを弄るんだ」
と言った。
キバナはもう目玉が飛び出るくらい驚いて目を見開いた。
自慰……あのダンデの口から自慰って言葉が……それだけでもう興奮してしまうのに後ろを弄る？
そんなの想像しただけで立ってしまいそうになる。
実際にダンデの言葉だけでキバナのものは反応をしていたし、アルコールがなければ完全に戦闘状態になっていただろう。
大好きなダンデが、かわいいダンデが、清廉潔白なダンデが……そう思えば思うほど心拍数が上がっていき目がつり上がる。
そんなキバナを見つめてダンデが
「なぁ、キバナ俺を抱けるなら抱いてみるか？実は飲み会に行く前に準備してきたから多分入るぜ」
と言った。
「……いいの？」
そんなの断るわけがない。
ずっと好きだった子からのお誘いだなんて
そうして二人は身体をまさぐりあい寝室へと消えていった。
ダンデはキバナに揺さぶられながら可愛らしく喘ぎ、何度も何度もキバナに好きだ、愛してると言った。
キバナもそれに俺様もダンデが好き、大好き愛してると答え唇を重ねながらダンデのなかで果てた。
そのまま抱き締めあって眠った次の日、ダンデがまだ眠っているのを確かめたキバナは足早に浴室へ向かい頭を抱えていた。
まさかアルコールの勢いでダンデを抱いてしまうなんて。
こんなの身体目当てだと思われるじゃないか！
そんなことを考えながら頭を冷水で冷やす。風邪を引きそうな程冷水を浴びたキバナがふらふらと上半身裸でズボンだけを身に付けて浴室を出るとちょうどダンデが昨晩キバナが脱ぎ捨てたパーカーだけを身にまとって現れた。
そしてキバナを見つけるとぱぁっと表情を明るくしてキバナにかけより抱きついた。
「キバナ、おはよう！」
しかしキバナは何も答えない。
ダンデは不思議に思いながらも
「昨日は夢みたいだった」
と言った。
そんなダンデにキバナは
「昨日？…‥……何かあったっけ？」
っと言ってしまった。
言ってしまってからあわてて口を押さえたがすでに遅くダンデは、よろりとキバナから離れうつむいた。
そしてキバナがごめんとってダンデに触れようとするより先に顔を上げ
「覚えてないならいい」
と言った。
そしてもう一度先ほどより小さな声で
「覚えてないならいい」
　明け方のリビングでそういったダンデの顔は見たこともないくらい悲しそうな表情で、瞳には涙が浮かんでいた。
俺様が先ほどの自分を殺したくなるのと同時に涙の浮かぶダンデの瞳を見れなくて床に視線を落とせば。
「君と結ばれることが出来たと思って嬉しかったのに……」
とダンデがポツリと言った。
その言葉にキバナが顔を上げるよりも早くダンデが窓の方へ向かっていく。
そして自分の伸ばした指先が触れるよりも早くオレンジの風と共に空の向こうへ飛びさってしまった。

　それから２ヶ月ダンデとは１度も口を利いていない。
正確には仕事や、他人が周りにいるときの体裁を保つ為の会話以外で……ではあるが。
今日だってバトル後の二人で受けたインタビューの時は2、3言葉を交わした。
でも、インタビューが終わって周りから人がいなくなった瞬間ダンデは顔から笑みを消し呼び止めるキバナを無視していってしまった。
メッセージを送っても既読がつくだけで返信はこない。
罵倒でも軽蔑でも何かしらの反応があればどうにか出きるのに、ここまで徹底して会話を絶たれてしまうともうキバナはお手上げだった。
さらに2週間後、ダンデとの関係にばかり気を取られていたせいかでっち上げの熱愛報道をスクープされてしまった。
雑誌が世間に出てしまった次の日のダンデの表情といったら…‥……絶対零度よりも冷たかった。
そして今キバナはネズから送られてきたメッセージを前に死にそうな顔でソファに腰かけていた。
メッセージには

ダンデがお見合いって知ってます？

という物で……お見合い？ダンデが？そんなの知らない聞かされてない。
でもなんで黙っていたんだ？なんて間違っても俺様が言えることじゃなくて……
でもダンデがもしこのお見合いでとんとん拍子に結婚まで進んでしまったら？
嫌だ、そんなの絶対に嫌だ！！！！
ダンデは、キバナのダンデなんだ。
大好きで大好きで愛してる大事な男なんだ。
それが他のやつに取られるだなんて絶対に許せないし許さない。
キバナはすぐさまネズにメッセージを送りフライゴンをよび窓から飛び出した。
ネズから送られてきた時間と場所までフライゴンなら間に合う。
そしてダンデがお見合いをするというホテルに窓から乗り込み全力で走った。
途中スタッフ達に引き留められたがそれを無視して進みお見合いをしている部屋にたどり着けばノックもせずに扉を開けなかへと進んでいった。
部屋の中には驚いて固まるダンデとそのお見合い相手がいる。
つかつかとダンデの前まで進んだキバナは自分を見つめ固まるダンデをひょいっと抱き上げた。
キバナに抱き上げられたダンデは、え？だのは？だの意味のない言葉しか発することが出来ない。
そんなダンデを落とさないように強く抱き締めキバナはお見合い相手に
「俺様の好きな子だから今回はなかった事にしてください。」
そう言って相手が何かを言う前に宝を抱き締め部屋を飛び出した。
そしてまた走りながらダンデの服を漁りリザードンの入ったボールをとりだし握りしめる。
屋上で呼び出されたリザードンは一瞬キョトンとした顔を見せたが、すぐに背を向けフスッと鼻をならした。
「ありがとうリザードン。ナックルの古城の屋上まで頼む」
そう言ってダンデを抱えたままリザードンに乗り空へ飛び上がる。
空の上でようやくダンデは状況を飲み込んだようでジタバタ暴れたがキバナに落ちるぜといわれ抵抗をやめた。
しかし、城の天辺についてキバナが地に足をつけた瞬間また暴れキバナもろとも地面に転がった。
すぐさま距離をとったダンデは二人が転んだときに舞い上がった木の葉を見ながら
「好きってなんだよ」
と呟く。
好きってなんだよ、俺様の好きな子だからってなんだよ。
忘れた振りをしたくせに、無かったことにしようとしたくせに……
あの日俺がどんなに傷付いたかも、どれだけ泣いたかも知らないくせに。
忘れたくても君の体温が消えなくてどれだけ苦しかったかも知らないくせに！！
「俺は嫌いだ。君なんて嫌いだ」
そう言った自分の声は情けなく震えているし、視界はじわじわと滲んで瞬きをしてしまえば涙がこぼれそうなくらいになっている。
「アルコールの勢いだったって言われた方がどれだけましか……好きだって言ってくれたのに、愛してるっていって……抱き締めてくれたのに……」
そんなことを言いながら顔を上げればついに涙が瞳からこぼれ落ちて地面に小さな花を咲かせる。
一つ、また一つ増える花を見つめてキバナは一言
「ごめん」
と言った。
そしてダンデに近よりそのまま抱き締めた。
「ごめん、本当にごめん」
謝るキバナの声も震えていて、冷たい滴がダンデの首にあたった。
「俺様も、ずっと…‥……ずっとダンデが好きだったんだ。だけど思いを伝える勇気がなくて…‥……あの日俺様もすごく夢を見てるんじゃないかって位幸せだったんだ」
「じゃあ、なんであんなこと言ったんだ？」
「だって誘われてすぐ手を出すなんて身体目当てみたいで最低じゃん。俺様童貞だし、絶対に余裕なくてかっこわるかったし…‥……うわぁってなってとっさに言っちゃったんだ」
「…‥…」
「本当にごめん。俺様に出来る償いならなんでもやるから……」
「……じゃあ、俺の目を見てすきっていって」
そういったダンデの両頬に触れキバナがしっかり目を合わせて
「すき、すきだ。大好きだよ、あの夜を無かったことにしたくない。愛してる」
と言った。
ダンデもキバナの目を見つめたままその頬に触れ
「俺も、君がすきだ……愛してる。」
そういってまた涙を一つこぼしふわりと笑ったのだった。