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    kon_bnnu

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    出産祝いにフォロワーさんからナル●ヤインター●ショナルのギフト券をいただいてスタートした未来軸の妄想話です。いきなり銀唯の娘(中学生)が成宮にブチ切れるところから始まりますが、初恋泥棒の成宮が実は自分の母(ピナ)のことが好きだったんだとなんらかの事態で発覚して怒ってるんだなぁ〜という目で見てください🫶
    ネームレス娘と成宮の話ですが恋物語ではないです!銀唯もそんなに出てきません!ただの妄想です!

    #スタオケ

    大切なひと「全部ぜんぶ、わたしじゃなくてママに会うためだったんだ!」

     ほとばしる思春期、とでも言い表せそうな激情。
     もらった洋服を贈り主の彼へ叩きつけながら、中学生の私はけたたましく泣き喚いた。申し訳なさそうに困ったように眉を下げて微笑む成宮くんは、けれど『そんなわけない、誤解だよ』なんて否定の言葉を口にしてはくれない。それが彼の誠実なのだと痛いぐらいにわかってしまって、だからこそ涙はますます溢れてきた。成宮くんからママへの一方的な片想いだからフテイコウイというやつではないにしろ、パパだってショックに違いないはずなのに、パパは成宮くんに「悪いな。今日は帰ってもらった方が良さそうだ」と柔らかく告げるだけで、あとはずっとしゃくり上げている私の頭を撫で続けた。
     ママが不在だったのは幸いだった。けれど、この日を境に成宮くんはぴたりとうちに来なくなって、私の胸中には悲しさと怒りと自己嫌悪の煮凝りみたいな感情だけが堆積した。

    「だからねパパ、勝手に夢見させといて勝手にいなくなるなんて大人としてサイテーだと思うの」
    「うっ……それは、うん……ソウダヨネ……」

     お年頃、というやつだろうか。父親となんて口も聞きたくない、という友達は決して少なくなかったけれど、私はパパに対してそういったネガティブな感情はなかった。指揮者というやや特殊な仕事の関係で普段は家を不在にしがちで、その分だけ顔を合わせる時間が短かったためかもしれない。ママよりもずっと年上のはずなのに少々頼りないとは思うけど。
     パパが国内外での公演から帰宅するそのたびに、私は彼が寝ているベッドの横に一度も袖を通していない一着のワンピースを広げ、それを見下ろすようにどっかりと腰掛けながらしつこく毒づいていた。パパは起きてるんだか寝てるんだかわからないぐらい目元をくしゃくしゃにしつつ、妙に実感のこもった同意を示してくれるので、溜飲を下げる効果はそれなりにあった。

    「……成宮くんが、“お姫様”なんて言うから」

     勝手に夢を見ていたのも成宮くんの足が我が家から遠のいた原因も私だと責められれば言い返せないが、現在進行形で子供である私に正論を突きつける大人はいなかった。でも、その事実こそが自分がどうしようもなく子供である証左のようで、情けなさはかえって倍増した。
     灰がかったブルーの生地の光沢をつうと指で撫でてみる。泣きながら成宮くんに突き返そうとして、結局私の手元に残ったワンピース。
     物心がつくよりもずっと前から、それこそ多分私がこの世に生を受けたときから成宮くんは『事業の一環で子供服も手がけているので』という名目で、年に何度かふらりと我が家に現れては私に洋服をプレゼントしてくれていた。
     リボンやフリルがたっぷりあしらわれたドレスを贈られる時期はとうに過ぎていて、目の前のワンピースも大人っぽくて綺麗めのデザインだ。それが不本意かと問われればそうでもなく、ふんわりと膨らんだ袖といいたっぷりのチュールレースといい、腹立たしいくらいに私のツボを突いている。
     どうせサイズもぴったりで、着用してくるりと一回転でもして見せればきっと彼は『よく似合ってる。お姫様みたいだ』と頬をほころばせるんだろう。
     じゃあ王子様は成宮くんだ、なんて、二十歳以上も年上の男性を相手に長いこと滑稽な勘違いをしていたこちらの事情も知らずに。

    「あいつがしたことはお前にとって“サイテー”に見えただろうし、パパである俺を大切に想ってくれているからこそ許せなかったんだろうけどさ」
    「……それはあんまり考えてなかった」
    「うん、そうか……まあいいんだけどさ……でも、なあ、成宮は本当に“サイテー”な人間だと思うか?」
    「…………」

     そんなことはない、をあからさまに引き出そうとするパパの言葉に少し苛立ちを覚えて、でもパパが成宮くんを今でも好意的に見ていることに仄かな安堵もあって。私はうっかり緩みだしそうな唇をぎゅっと引き結びながら、無言を貫いた。
     夢からはもう覚めた。でもまだどんな顔をして彼に会ったらいいかわからないから、まだ答えは出したくない──。

    「やあ、久しぶり。お邪魔します」
    「なんか普通に来た……」

     ──だというのにそれから何日かして、成宮くんは再びあっさり我が家に現れた。最後に会ったときの修羅場を忘れたわけでもないだろうに、悪びれることもなければ空白期間について釈明をするわけでもなく、いつもどおりの笑顔で、当たり前のように。

    「受験生の邪魔になったら悪いかなと思って控えてたんだけどね。一般学科対策で力になってほしい、なんて一ノ瀬先生から直々に頼まれたから」

     星奏の音楽科を受験するなんてなんか嬉しいなぁ、と低めの声に喜びを滲ませながら、成宮くんがいかにも高そうな革靴から我が家のスリッパに履き替える。
     彼から顔を背けるように、ぎゅんっと音が出そうな勢いで背後を振り返れば、リビングに続く扉から恐る恐る顔を覗かせていたパパの姿が一瞬で消えて、代わりに「わあ、成宮くん! なんか久しぶりだね」とママが嬉しそうな笑みを浮かべながら出てきた。
     まったくもう。「先輩……! 相変わらず綺麗ですね」なんて、いい年した大人がわかりやすく表情筋を緩ませて。私の手前、抑えようと努めてはいるようだけれど、無いはずの尻尾をぶんぶんと元気よく振っている。こんなにもあからさまだというのに、例の一件まで気づかなかった私もつくづくどうかしていた。

    「はぁ……じゃあ、私の部屋でいいよね?」

     頼んだ覚えのないパパのお節介にも成宮くんの振る舞いにも少々腹は立ったけれど、先日のあれこれをママに悟られたくない一心で、さっさと彼を二階の自室へと促す。
     そう、間違いなく腹は立つ──のだけれど、成宮くんの背中をぐいぐいと押しながら階段を上る足どりはいつになく、自分でもわかるほどに軽快だった。

    「はい、今回のプレゼント」
    「……この間、もういらないって散々言った気がするんだけど」

     自室に入るなり、白地に金色のロゴが入ったお馴染みの紙袋を差し出され、つい刺々しい台詞が口をついて出た。先日のワンピースだって結局まだ着ていないというのに、続けざまに心遣いを受け取ってしまうのはどうにも居心地が悪い。

    「俺が君にあげたいだけだよ」

     この甘ったるい低音に、何度頬を熱くさせられてきたことだろう。もうその手には乗らないという強い決意とは裏腹に胸の鼓動は素直に逸ってしまう。
     冷めた表情に努めながらデスクに向かい、勉強道具を取り出すと、成宮くんは苦笑しながら紙袋をベッドの横に置いた。

    「受験対策なんて口実もさ、そんなのなくたってママは成宮くんが遊びに来たら普通に喜ぶよ」
    「ふふっ、口実と呼ぶにはなかなかの成績みたいなんだよなぁ」
    「え……あっ、わあぁっ!?」

     ポケットから小さな紙片を取り出したかと思えば、指先でつまんだそれに興味深そうな視線を注ぐ成宮くんから慌ててそれを引ったくる。先日の中間考査の惨憺たる結果は両親にしか見せていなかったはずなのに、おのれパパ、裏切ったな。
     自分で言うのもなんだが、私は両親に負けず劣らずの音楽バカだ。星奏の音楽科を受験するにあたり、専門科目や専門実技についてははっきり言って自信があるし、両親にも師事している先生にも太鼓判を押されている。
     問題はそう、国語、英語、数学のいわゆる一般学科試験であり、その対策に関する話になるとなぜかパパもママも目を逸らすばかりだった。だから、昔からそれはそれは成績優秀だったらしい成宮くんに依頼するというのは妥当な人選なのかもしれない、が。
     成績表に落としていた視線を成宮くんへと向けると、にこりと柔らかな笑みが返ってきて、悔しいほどの顔の良さについ眉根を寄せてしまう。三十歳をゆうにすぎているなのだけれど、おじさんっぽさは微塵もなく、端正な顔立ちと程よく筋肉のついた長身、柔和な物腰は陳腐に形容するなら『好青年』。
     ──その完璧な笑顔が、ふと切実さを帯びた真剣な眼差しに変わって、初恋をかなぐり捨てたはずの私の胸は不覚にも高鳴った。

    「全部、じゃないよ」
    「へ? な、なにが」
    「あのとき、君は『全部ママに会うためだったんだ』って泣いてたけど……それだけじゃない」

     しなやかな指先が、慎重に、慈しむように私の栗色の髪の毛を撫でる。少し気にしている強めのウェーブを優しくなぞる動きが妙にこそばゆくて、けれど私の全身は魔法をかけられたかのように硬直していた。

    「でもそんなこと、あの場では何のフォローにもならなかったし」

     このとき、成宮くんが言っているのが私が泣きじゃくっていたあの日のことだということに私はようやく気づいた。でも彼が示唆するとおり、私が何よりショックだったのは『成宮くんは私じゃなくママが好きだったんだ』という事実だから、あの場において『私にも少なからず情を感じてくれていた』のだとわかったところで私の癇癪は収まらなかっただろう。
     というかそもそも、もういいのだ。
     あれは私がしようもない勘違いをする子供だったというだけで、当事者である私自身にとってもう飲み下しきったただの恥ずかしい過去であり、成宮くんを責めるつもりもない──そう言おうと口を開いたタイミングに「あと、」とという成宮くんの声が重なる。

    「君を泣かせてしまったこと、思ったよりも堪えたみたいで。……結局何も言えなかった」

     堪えたみたい、なんて他人ごとのような言い方をしながらも、口元には変わらず柔らかな笑みを湛えていながらも、それは今まで見てきた成宮くんの表情の中で一番つらそうに見えて。私が発するはずだった台詞はずぶずぶと喉の奥に沈んでいった。
     やめて。やめて。いつもみたいに軽く笑っていて。
     悔恨を滲ませながらそんなこと言われたら、だって、まるで──。

    「……見くびらないでよ」

     ──恋心そのものが罪だと思っているみたいで、痛い。
     思い至ると同時に私の口からまろび出たのは、噛み付くような低い声だった。

    「わたしの……私のママはね、綺麗で元気でヴァイオリンがすごく上手で、心から自慢の母なの。成宮くんがママのこと好きなのなんか、全然意外でもなんでもなかったし」

     我ながらバレバレの虚勢。あのとき大泣きしていた自分を盛大に棚上げしての舌先三寸が成宮くんに通用するわけがないと頭の片隅ではわかっているのに、止められない。

    「それに、うちのパパは頼りないしズボラだしママにもしょっちゅう怒られてるけど……でも、何があっても二人の絆は壊れたりしないの。う……運命で結ばれてるから」

     運命、って。こんな幼稚な語彙でしか言いたいことを補強できない自分の国語力がうらめしくなる。やはり一般科目は苦手だ。後で成宮くんに責任取ってみっちり鍛え上げてもらわないと。
     捲し立てる私の勢いに成宮くんは若干目を丸くしつつも、静かに言葉の続きを待っていてくれている。

    「だから──成宮くんの気持ちひとつで揺らぐものなんてないの」

     だから想いを捨てる必要なんてない、という気持ちを込めて言い切った。
     なぜだろう、彼にとってはママを好きでいるという事実そのものがとても大切なのだと、不思議とそう感じられたから。
     瞬間、私を見つめる成宮くんの虹彩が色を変えた。

    「……ありがとう」
    「ど、どういたしまして!」

     張り詰めていた何かがへにゃりと緩んだように笑う成宮くんとは対照的に、私は冷や汗をかいていた。勢いで言い連ねてしまったけれど、もしかするとてんで的外れなことを喚き散らしただけなのではなかろうか。ぐるぐる考えている私の頭のてっぺんに、ふわりと大きな手が乗せられた。

    「……一ノ瀬先生と唯先輩は、」
    「? パパとママ?」
    「俺にとって、あの二人は希望の象徴みたいな存在だから。二人の子供である君も、生まれた瞬間から俺にとって特別な存在だった」

     大袈裟な表現にも聞こえるけれど、わかる気がする。成宮くんはずっと前からママが好きで、でもそれだけじゃなくて。決して楽ではない音楽の道で、私の両親が奏でる喜びを忘れず、輝き続けていることをいつだって誰よりも喜んでくれていた。
     私がそんな二人の子供だからこそ、成宮くんは会うたびにお姫様みたいなドレスを贈ってくれたし、目一杯甘やかしてくれた。この間まではその事実を虚しく感じることもあったけれど、今ならこの出自がどれだけ幸福なことかも理解できる。するべきだ。そう思いながら、私は目を閉じながら成宮くんに頭を撫でられる心地よさに身を任せた。

    「……でも今はそんな事実を抜きにしても、君のことはとても大切な……小さな友人だと思っているよ」
    「え……」

     続いた言葉の意外さに、思わず目を見開く。
     小さな友人。初めて形容されたその言葉はじわりと胸の奥に染み込んで、私の全身にやさしい熱を灯した。何万回と浴びせられてきた“お姫様”よりも心が躍る。どうしよう、嬉しい。
     なおも私の頭を撫で続ける成宮くんの表情をちらりと窺ってみれば、ばっちりと目が合ってしまったけれど、彼の瞳は私の中に誰かの面影を見いだしてはいなかった。

    「あ、えっと……ご、ごめん! この間……今日だってまた服をプレゼントしてくれたのに、私、ずっと態度悪くて」

     無言で見つめ合う状況の気恥ずかしさを強制終了させるため、私は慌ててベッドの横の紙袋へと視線を逸らした。不自然な早口に動じることもなく、成宮くんは「ああ、」とハンドバッグくらいのサイズのそれを手に取り、私の膝の上に乗せる。洋服が入っているにしてはややずっしりと重量がある気がして、私は小さく首を傾げた。

    「俺が君にあげたいだけだから、ってさっき言ったとおりだよ。それに今回は今までと趣向を変えて……」

     勿体を付けた口調で成宮くんが紙袋の中身を取り出すと、それは透明な保存容器で。中に入っているのは、これは、恐らく。

    「パウンドケーキ……?」
    「そう。勉強のお供にと思って。久々だったけどなかなか美味しく作れたと思うよ」
    「成宮くんが作ったの!?」

     ぱか、となんでもないように成宮くんが容器の蓋を開けると、甘い香りがふわりと鼻腔を刺激した。パウンドケーキ自体はそこまで作るのが難しいお菓子ではないけれど、プレーンとコーヒーの生地がマーブル模様に美しく混ざり合い、てっぺんにはドライフルーツとホワイトチョコレートで繊細なデコレーションが施されているこのケーキを、成宮くんが?
     お菓子作りが得意なんて知らなかった……というか、私は成宮くんに憧れていた割に彼のことを全然知らないのでは、という気がしてきた。都合よく王子様的な側面しか見ていなかったのかもしれない。

    「ふふっ、ついでに先輩の胃袋も射止められたらいいなぁ、なんて」
    「はぁ!?」

     ただでさえ驚きが冷めやらないところに成宮くんのとんでもない発言が飛び出してきて、私は素っ頓狂な声をあげた。
     いや、だって、成宮くんがママへの想いを断とうとしていると思ったからこそ、私はさっき不器用なりの励ましを一生懸命口にしていたわけで。あの時間はなんだったのだろうか。

    「決して叶わない恋だけど心に秘めて大切に想い続けるとか、せめてそういうのじゃ……?」
    「……百%叶わない恋なんてないんじゃないかな」
    「いや、そんな無駄に良い顔で言われても叶わないから! 百%だから!」
    「えぇー、確かに一ノ瀬先生は手強いけど、俺だってある面においては分があると思うんだけどなあ。……寿命、とか」
    「怖いこと言うのやめて! ただでさえパパ、風邪引くたびに『俺はもう駄目かもしれない……』ってすぐ弱気になるんだから!」

     ははっ、と、成宮くんがきゅっと目尻を細めて楽しそうに笑う。色素の薄い髪の毛は、窓から差し込む光で蜂蜜色に透けて、彼の笑い声に合わせて柔く揺れた。
     いつも完璧な大人の成宮くんの笑顔がこのときはどこか幼く見えて、パパの教え子でママの後輩、そんな表情に見えた。

    「もう、ほんとにサイテー……っ!」

     心底呆れているのに、私の口元はいつの間にか笑みの形に歪み、堪えきれないまま、成宮くんにつられるようにいつしか声を上げて笑い始めてしまって。
     階下にまで響く私の声に両親がにっこりと顔を見合わせていたことなんてつゆ知らず、私はこの日、とうとう眦に涙さえ溜めながら、お腹が痛くなるほどに笑い続けた。

     ──こうして親子でも兄妹でも恋人でもない不思議な友人関係を成宮くんとスタートさせた私は、この数ヶ月後、星奏の合格祝いとして両親が招待してくれた演奏会に彼と二人で出かけることになる。
     絶対に着ないと決めていたワンピースのチュールを軽やかに翻して、少し歳の離れた友人にエスコートされながら。
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     ほとばしる思春期、とでも言い表せそうな激情。
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