一緒に月を食べてもいい 衣装係として初めて与えられた仕事は、シャツのボタン付けでもなく、布の裁断でもなく、破れたクッションの補修作業だった。
やりやすい縫い方でいいから、と、ゼパルさんから手渡された、紫のクッションと縫い糸。青く塗られた地下の部屋で、初めて見る正方形のクッション。金色の糸で刺繍がされていて、一目でゼパルさんの手作りだと分かった。悪魔執事になって日は浅かったけれど、ゼパルさんが見せてくれた刺繍案の中に、その円形の模様とよく似たものがあったからだ。
触ってみると、長い毛足がとても触りごごちが良かった。けれど、よく注意して指先を這わせてみると、クッションの斜めや縦に縫い目が隠れているのが分かった。
そして、裏側は大きく引き裂かれていて、避けた布の間からボロボロと綿がこぼれ落ちていた。
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