つづき「たまには俺から言わせてみたいと思わないのか?」
「なんの話?」
「キスしたいって」
興が乗って、なんだかんだ最後まで突っ走ってしまった後のベッドの中。向かい合わせで寝ていたソーンズからの、唐突でまっすぐな問いを頭の中で転がす。キスしたいって言わせたいか、か。
振り返ってみれば、二人の関係に恋人の肩書きが加わって、キスやセックスの前には合意を取るきまりを作って判ったことだったが、そのお伺いを立てるのはもっぱらエリジウムだった。ソーンズにはそこが気にかかるらしい。
ーー別にブラザーが淡白だってわけじゃないんだよね。そういう雰囲気になれば、普段の薄情そうな態度からは想像のつかない情熱を見せてくれるから、つい激しくなっちゃうし、何回もしたくなるし……
いや、そうじゃなくて。
愛情表現や想いの熱量に二人の間でギャップがあるのではなく、単にコミュニケーションを取りたがるのは自分の方が多いだけなのだから、そこまで気にする話ではないと思う。が、かわいい恋人がそれが気になると言うなら改善すべきだとも思った。
「うーん、なしではないよ? 言われたら嬉しいし……でも僕は僕がしたいときにできればそれでいいかな」
普段は後ろでまとめている髪を一房すくって口付ける。それでもソーンズは不満げに顔を曇らせ、ふとひらめいた顔をした。
「ならゲームにしよう。先にキスしたくなった方が負けだ」
「いやいや、僕の話聞いてた? あとそれ僕が超不利じゃん」
「勝ち目が全く無いわけじゃないだろう」
「君からキスしたいって言い出すまで、我慢してれば勝てるってことはわかるよ」
ゲームというからには短期的なものではあるが、エリジウムにとってはお預けが続くことはほぼ見えているため、寂しくないと言えば嘘になる。しかし、裏を返せば彼がどれくらいコミュニケーションを取りたがるのか知ることのできる、良い機会とも捉えられる。普段、エリジウムの求めるスキンシップをソーンズが拒まないとはいえ、実は彼の負担になっていた……なんて判明するかもしれないのだけど。
「……うん、いいよ。ゲームに乗ってあげる」
「決まりだな。ゲームは明日からだ」
だからこれはノーカンだ、と続けてソーンズがエリジウムの身体の上に乗り上げる。しばらくお預けならばと思いきりがっついて、身体中に痕を残したソーンズに呆れられたのは、また別の話。