マロングラッセ 私、バーソロミュー・ロバーツと黒髭ことエドワード・ティーチはセフレだ。
セフレと言えどお互いの趣味が似たところもあり体を合わせるだけでなく休日にどちらかの家にあがりゲームをしたりアニメ鑑賞をしたりしている。
今日は黒髭の家に集まりすぐに飽きそうと言われるインディーズゲームを何本かプレイし、夕飯時になるとデリバリーをして到着したらそのまま食事休憩としていた。
「あ、誕生日ケーキ買っといたから冷蔵庫からだして」
今日は私の誕生日だが覚えてたのか、という驚きとそれなら主役をこき使うなという気持ちで文句をいいながら食後の紅茶を淹れるために席を立った。全部を任せたいがガサツな黒髭に繊細な紅茶の準備はまかせられない。
「誕生日なのに主役を使うな、まったく」
ここは黒髭の家だが遊びにくる時にティーバックでは味気ないからとティーポットを置かせている。同じく置かせているティーセットを出す前に冷蔵庫をあけると白い箱があり取り出すとその後ろに小さな赤い箱があった。
私はケーキ箱をワークトップに置くと小箱を取り出した。深い赤のベルベットのそれ。この形状といえば……。
「っ、黒髭!これ……」
「あー?ケーキは?」
「出した。じゃなくて、これ……」
ドタバタと近づく私から小箱を受け取った黒髭は太い指でコツコツと蓋を叩いた。
「なんだと思う?」
「何って、それは……」
この大きさ、形状と言えば……でもそんな、黒髭が私に……?
困惑している私を他所にソレを開けるとシンプルだが品のいい輝く石がついた円状のものが鎮座している。
「拙者と結婚してくだちい……ってなによその顔」
私は酷い顔をしていたのだろう。ふは、と笑うと大きな手でセットした髪をぐしゃぐしゃに撫でてきた。
「やめろ髪が乱れる。じゃなくて、こういうのはもっとちゃんとした……だってお前こんな……」
「あーはいはいごめんごめん、ロマンチストなバーティちゃんはおうちでプロポーズは嫌でちたか?よちよち」
「ゔぅ、なんで、プロポーズなんか……」
思考がまとまらない。まさかそんな、黒髭が私に?私たちは腐れ縁の悪友で、都合のいいセフレで、こんな……こんな……。
「泣くなってぇ」
「で」
「どうせセフレだからこんなのおかしいとかドッキリだとか思ってるんでそ?拙者の愛が伝わってないなんて悲しい。しくしく」
私の思っていることをからかいながらも言い当てる黒髭に腹が立つもその通りなので頷くとまた息だけで笑った黒髭が私の腕を掴み引き寄せた。
「勘違いしてるみたいだけど拙者、自分の得になることしか基本しねーの。面倒なのも嫌い。でもおめぇのワガママ聞いてんでしょ?」
大きな両手で私の顔を包み込みじっと目を合わせてくる。改めて夜のように黒い目で見つめられると吸い込まれるようでじっと見つめ返すと可愛い、と言われた。
「だからね?拙者なりに愛情表現してたんだけど?ぽんこつソロミューちゃんは全然気づかなくて?」
「私の事好きなの?」
「だーから、そう言ってんの」
今更だろうが、と笑われるとすぐに真剣な顔になり少しのおどけもない声色でハッキリと言った。
「お前の全部が欲しいの。心も体も、これからの人生も全部俺のものにしたい」
真っ直ぐな言葉と視線に遂に感情が溢れ鼻の奥がつんとする。
「お前なんかにやるもんか。私がお前の人生奪ってやるんだ」
最後は声が震えていたかもしれない。頬が濡れている気がする。
「じゃあいいってこと?」
「ぐすっ……結婚してやっていい」
「はいはい、あんがとな」
ぎゅっと抱きしめる腕は優しくてその胸に頭を擦り寄せると頭を撫でられた。ただ抱きしめられるだけでこんなに心が満たされるなんて知らなかった。
ふと顔を上げると視線が絡みどちらとなく唇を合わせた。
マロングラッセは永遠の愛。永遠の愛を誓い合う人に贈るのちょうどいいもの。
なんだかんだロマンティックな事をするでかぶつの肩を殴りキッチンに戻りティーセットを取り出した。
数分後、とっておきの茶葉の紅茶と愛を誓うマロングラッセをトップに頂くモンブランがテーブルに並んだ。
END