ボクのキズ、キミのココロ 1.
自覚した途端、絶望的な失恋を覚悟せざるを得ない────そんな恋をした。
思えばいつ頃、この絶望的な恋心を自覚したのか、その芽吹き時は曖昧だった。彼が元の姿を取り戻し、工藤新一として再会を果たした折は、『ようやくこれで彼も運命の恋人と幸せになれるのだな』と、確かに輝ける彼の未来と幸せを心から願っていた。
だが、あまりに有能すぎる彼は、彼と同じく元の職務に戻り昇進を果たした降谷の組織にとって、なくてはならない存在であった。
度重なる公安からの要請にも快く応じ、屈託のない笑みを惜しげもなく向けてくれる彼に、まるで乾き切ってひび割れた大地にじんわりとゆっくり浸透していく恵みの雨の如く、惹かれていったのだ。己の恋情を自覚した時には、もはや今更棄て去れないほど根深く根を生やしており、一度目の絶望を経験した。選りに選って、淡い憧れまじりの初恋以来となる二度目の恋が同性の、ひと回りも年下の、恋人持ちの少年だったのだから無理もない。
だが、望みもないのだからいっそこの想いに蓋をして完全に屠ってやろうと思っていた降谷に、更に運命の女神は悪戯を仕掛けてくる。何があろうとも切れることは無いと思われていた彼の運命の糸が、切れたのだ。
だから────……『望み』を持ってしまった。
降谷をして、彼の運命と相手だと戦う前から諦めていた相手との運命の糸が切れたのならば、もしかすると────そんな希望を、持ってしまった。
元来ノーマルな性癖の彼は、その後押し切られるままに何人かの女性と付き合っていたようだが、いずれも長続きはせず、結局は恋人よりも事件や謎解きを優先してしまう彼に愛想を尽かし、去っていくのだと飲みの席で苦笑混じりに教えられ、欲が思わず顔を出してしまった。
恋愛ごとが上手くいかない彼。
そんな彼に長らく恋煩いをしている自分。
相手が誰であるかは伏せ、自分は同性のノーマルの相手に叶うはずもない恋をして随分経つのだと告げた。
────どうせそのココロが手に入らないのならばせめて…………。
そう。どう足掻いたところで生粋のノーマルである彼が、まかり間違ってもひと回りも年上の、ましてや堅物の、同じ男である自分に恋情を向けてくれることなどありはしないだろう。
それならばせめて────……
せめて彼に何よりも優先したいと思える『本物の運命の相手』が現れるその時まで────……
ココロが手に入らないのであれば、カラダだけでも────と。そう、思ってしまった。
口にしたアルコールで酔ったわけではなかったが、少なくとも新一は普段よりもずっと無防備で、酒が回り、色香すらまとっていた。
酒の席だからこその、無謀な提案だった。
もし相手が引いたら、その時は酒の席の冗談にして誤魔化してしまえばいい。一応の逃げ道を用意した臆病で卑怯な三十路の男は、こう口にした。
「互いに遣りきれない想いを、吐き出してみないか」
降谷のこの一言で、二人のとんでもなく不器用で、とんでもなく歪で、とんでもなく不毛な関係が始まったのである。