オレは誰かの一番にはなれない。いつだってそうだ。分かってるよ、だけど
一番だって言われたい。オレの事、誰よりも好きだって言われたい。求められたい
褒められて、すごいってたくさん言われたから、これがオレの生きる道だって信じて歌ってきた。ここまで来るのに遠回りしちゃったけど、今すっごい楽しいんだ。最高の仲間と巳波の作る最強の音楽をファンのみんなに届けられる。
勝ちたい。ŹOOĻの亥清悠として、実力で勝って、オレたちが最高のアイドルだって証明してみせるんだ。オレを、オレたちを選んで、応援してくれてありがとうって気持ちを伝えたり、もっともっと綺麗な景色を一緒に見ようって約束したい。
「ねえ、みなみ」
「はい」
唐突にそれは始まった
「オレのいい所教えて」
「亥清さんの長所いくつかありますけど、全部聞きたいですか」
「聞きたい」
ŹOOĻの最年少メインボーカルの亥清悠。彼は私よりも年下でありながら、強くてかっこいい一面と年頃の愛らしい一面を持った、とても可愛い人だ。そんな彼は時々私に自分の長所を尋ねてくる。そういう時は決まって自信を失っている時だった。
なにがあったのか聞き出したいが、自信を取り戻させる方を優先させる。
「亥清さんの長所..可愛らしいところでしょうか」
「か、可愛いって長所なの」
「長所ですよ」
「..じゃあ、一番可愛い」
「えっ」
「巳波が一番可愛いって思ってるのって、オレなの」
「一番......」
予想外の返答に声が詰まってしまった。亥清さんの事は可愛らしい方だと常日頃思っている。しかし、誰かと比較して彼の事を可愛いと思ったことは無かったように思う。彼は私の出会った人達の中で初めて愛らしいと思った人なのだから
「そう、一番」
亥清さんが期待を込めた眼差しで私を見ている。そうであって欲しい、そうでなければ嫌だ。そんな気持ちが伝わってくる。可愛いよりもかっこいいと言われる方を好む亥清さん。どうしてこんなにもこだわるのでしょう
そわそわして、期待して。口をきゅっと結んで、撫でられる事を待ってる小動物のように私を見ている亥清さんがとっても......
「ふふっ」
「なんで笑うの」
「だって、あなたがあんまりにも可愛らしくて」
「なっ...」
そうやってあなたは私の言動ひとつで頬を染めてしまう。私がかける言葉であなたの心を動かせてしまう。なんて幸せなのだろう
「今の、めっちゃ本気に聞こえた。なんていうか..こう。嘘がない感じ」
「それだとまるで、普段の私が嘘ついているみたいじゃないですか」
「うそ..とは言いきれないけど、巳波ってたまに何考えてんのか分かんない時あるし。今のは、オレの目を見てちゃんと言ってくれたから」
「あぁ」
伝わっているでしょうか、この愛が。他の方のように抱きついたり、愛してるとおふざけでも口には出来ないけれど
「ありがとう巳波」
「どういたしまして」
心底嬉しそうに頬を緩める亥清さんを見て私もまたつられて笑ってしまう。一番可愛らしいというのは、もしかしたらこの間触れ合ったヘビの赤ちゃんやペンギンに当てはまるかもしれない、なんて今の彼には言わない方がいい。だから私が亥清さんに伝えたいのは一つだけ
────あなたを一番に想っているから
あなたと笑い合えるこの時間が、とても好きだから。絶対に巻きついて離さないから。