翳りゆく部屋遠くで、声がする。
相棒の声だ。普段よりずっとずっと大きな声で、何かを必死に訴えるように呼びかけている、気がする。頭の奥が重くて、その声が遠く遠くに聞こえる。
頭を撫でる感覚が心地よいけれど、その手が震えていることに気付く。
濃霧の中を歩いて進むように、少しずつ、少しずつ、それに応えるように、自分の意識が少しずつ目覚めていって。
「ワ゛!!!」
相棒の、決死の叫び声で一瞬でまぶたを見開いた。凝り固まったインクの体を無理やり波立たせ、首を動かし目線を上に向ける。
焦点の合わない目に涙を溜め、夜の路地裏を吹き抜ける風のような呼吸をしながら俺を見下ろす彼女がいた。
彼女と行動を共にするようになってからこんなことばかりだ。どうしてこのような状況を、行動を取っているのか飲み込めない事態が多すぎる。
まばゆい陽射しのせいで、その苦しそうな表情がさらに翳って見える。
(………まって、陽射し? 日向にいる!?)
寝惚けていた思考がそれを理解した瞬間、口にするより先に起き上がっていた。
彼女に掴みかかり、部屋の奥の日陰まで突き飛ばすように倒れ込む。そのまま床に腕をつき、自分の体でどうにか陽射しを遮ろうとする。
押し倒された彼女はされるがままで、整わない呼吸を抑えるように、自分で口元を抑えている。苦しそうに開いた口からは唾液が零れていた。
「どうして………?」
答えられないとわかっていても、問いかけてしまった。
彼女が日光に弱いことは俺もよく知っている。
なにより、彼女自身が一番知っていることだろう。
整わない息を無理やり吐き出すように、彼女が咳き込む。飲み込めない唾液が泡立つ音がする。
そうして、絞り出すように、掠れた声で、
「ごめんね」
と言った。
聞き取った時の自分の顔は、きっと、これほどまでにないほど歪んでいるだろう。
形容しがたい感情に包まれ歪む視界の中で、濡れた瞳でこちらを見上げながら、彼女はまた大きく咳き込む。
「どうして……っ」
その胸に額を擦り付け、
「謝るのよ………!」
いつもの言葉を吐く俺の頭を、少し湿った手が、また撫ぜた。