さねデレラ 昔むかしある所に、さねデレラという心の綺麗な青年がおりました。しかしさねデレラの顔には大きな傷があり、そのせいで継母や義理の姉達から虐められています。掃除や洗濯、食事の支度まで全てさねデレラがやらされていました。
ある時この国の王子様が舞踏会を開くことになり、二人の義姉は綺麗なドレスを着て出掛けていきました。さねデレラは舞踏会には興味が無いものの、毎日こき使われるだけの生活に悲しい気持ちになりながら今日も掃除をしています。手は水仕事でボロボロで、服も新しいものは買ってもらえず古くなったものを繕って着ていました。
「おいおい何だよ地味なことしてんな。今日は舞踏会だぜ?」
そんな声がして顔を上げると、宝石の付いた真っ黒なローブを身に纏い目深にフードを被ったとても背の高い男性が目の前に立っていました。さねデレラが驚きに声も出せずにいると、男が続けます。
「俺様が連れてってやるよ。舞踏会」
「……はァ?別に舞踏会なんざ興味ねェし、そもそもこんな格好じゃ…」
「ハデデバビデブゥ!」
男が手に持った杖を振りながら何やら呪文のようなものを唱えると、さねデレラのみすぼらしかった服が綺麗なミントグリーンのドレスに変わりました。なんと男は魔法使いだったのです。
「はァ⁉︎んだよこれェ!」
「まだまだ!」
魔法使いがテーブルの上にあったカボチャを家の前に置き、呪文を唱えると立派な黄金の馬車になりました。そして「これは俺からのプレゼント」と言ってどこからかガラスの靴を取り出します。恐る恐る足を入れてみると、それはさねデレラにぴったりでした。
「……歩きづれェ」
「足ちっちぇーのな。かわい♡」
「人の話を聞けェ」
「まぁまぁ。馬車はコイツらが引いてくれっからよ」
そう言って魔法使いが袖口から取り出したのはムキムキのねずみです。その小さな体に反してとても重いものを持てる力持ちなねずみで、戸惑うさねデレラの手を引いて馬車に乗せてしまいました。
「楽しんでおいで。あ、12時になったら魔法解けちまうからそれまでに帰ってくるようにな」
「おいオレ行くって言ってな…」
「「ムッキムキー(しゅっぱーつ)!」」
魔法使いが手を振ると、ねずみ達が馬車を引いて駆け出します。何だこの状況はと呆然とするさねデレラですが、こんな経験きっと二度と無いだろうしまぁいいかと受け入れることにしました。そうこうしているうちに馬車がお城に到着し、足を踏み入れたさねデレラは辺りをキョロキョロと見回します。
「美しいお嬢さん。僕と踊っていただけませんか?」
後ろから声を掛けられ振り向くと、そこにいたのは王子様でした。しかしさねデレラの顔を見た途端王子様の顔が曇ります。
「何だこの傷は…。お帰りいただけ」
そう言うと王子様はどこかに行ってしまい、王子様の家来達によってさねデレラはお城の外に摘み出されてしまいました。馬車の所で帰りを待っていたねずみ達を手の平に乗せ、「せっかく連れてきてくれたのにごめんなァ」と呟いたさねデレラはそのままとぼとぼと歩いて帰路に就きます。足が痛くなったので途中でガラスの靴を脱ぎ捨て、裸足で家に向かいました。
「あれ?随分早かったな。もういいの?」
家に戻ってきたさねデレラに、魔法使いが首を傾げながら尋ねます。
「……こんな傷だらけのやつは舞踏会に相応しくねェってよォ。まぁあんな硬っ苦しい所、オレには性に合わねェよ」
そう言って笑うさねデレラですが、その心からはとても悲しそうな音がしていました。魔法使いはさねデレラに近付き、その顔を覗き込みます。
「ふーん。王子サマってヤツは随分見る目ねぇのな。こんなかわいいのに」
「……はァ?目ェ腐ってんじゃねェのォ?」
魔法使いにじっと見つめられ目を逸らしたさねデレラですが、その顔を両手で持ち上げられぐっと顔を近付けられます。ぱさりと目深に被っていたフードが外れ、魔法使いの顔が顕になりました。王子様とは比べ物にならないほどのイケメンです。内心パニックのさねデレラにお構いなしで魔法使いが続けました。
「なんで?目でっかいし宝石みたいですげー綺麗だし。睫毛長いし髪もふわふわじゃん。色白で肌もスベスベ。傷なんて気になんねぇくらい魅力的だと思うけど」
「ッ…⁉︎」
魔法使いにべた褒めにされてさねデレラは恥ずかしそうに頬を染めます。そっとその手を取って魔法使いが微笑みかけました。
「なぁ。こんな家戻らねぇでさ、俺と一緒に暮らさねぇ?」
「……へ?」
「ずっと見てたんだ。後悔はさせねぇよ。一緒においで」
「………ん」
魔法使いの穏やかな瞳に見つめられ、さねデレラはこくりと頷きます。それに満足した魔法使いはにっこりと微笑み、さねデレラの額にキスをしました。そして手を繋いだまま歩き出した二人は、森の中で様々な動物達と共にいつまでも仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
━━━━━━━━━━━━━━
馬車を引いていたムキねず達は実弥が連れ帰っています(頭の上に乗ってる)。
ちなみに継母は女無惨様で、義姉はなんとなく黒死牟と玉壺でお願いします。