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    21Md7e

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    21Md7e

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    サイザーくんとクラールくんとエデのはなし

    サイザーくんとクラールくんとエデ ホグワーツ城にかかる高架橋は、実は秘密の作戦を練るのにぴったりだ。クィディッチでもなければみんな用事がなく通らないし、日頃使いそうなクィディッチ選手は練習前にウォーミングアップと称して箒で移動したがるから、意外と人気が少ないということになる。
    「そっか!それじゃあ、わたしのデッキだと魔力の回復が間に合ってなかったんだ…!」
     天啓、とばかりに声を上げ、羊皮紙にペンを走らせる。
     ホグワーツで開催されている決闘クラブでは、事前に使用する呪文を規定の数登録して、その選択肢の中での応用力を以ての決闘を求められる。何でもかんでも使うことはできない。そう決めておかないと、みんなナメクジを吐いてしまうだろうから。当のエデは強そうな呪文を習得したことをこれ幸いと申請内容に組み込んでみたものの、どうにも動きが鈍って勝率に影響が出てきた気がして、頭を捻っていたところだった。
    「一番得意な呪文は」
    「水牢かなあ」
    「消耗の激しい高度な呪文だ、であれば、水牢を主軸に、他の呪文を見直した方がいい。
     魔力の消耗を抑えるのなら、魔法生物を召喚するよりも、使いやすい呪文で魔力の循環効率を高める方法がある」
     申請書に目線を落とすその人を見上げる。伏せられたまつ毛がとっても長い。エデの一言に対してさらりと改善策を述べるサイザーは、流石グレートウィザード目前の強者だ。以前から決闘についていろいろと雑談をしていたけど、今回エデからお願いして決闘を観戦してもらったところ(シルバーの決闘にサイザーがいるものだから、会場には変な緊張感が走っていた)、ひとこと目に「高度な呪文ばかり組み込んでいないか?」と。
    「なるほど、それだと召喚ばっかりじゃ良くないね。暴れ柳とロコモーターを残して、ニフラーとケンタウロスを抜いてみようかな」
    「ン……? なぜ近い役割の2つを残すんだ」
    「え、みんないてくれた方が心強いし…ごめん、良くなかった? 怒ってる?」
    「別に怒っていない、それだとまた水牢を使うタイミングを逃すだろう」
    「うっ……たしかにそうだね」
     なにせここ最近の敗北で心当たりがあったので、肯首せざるをえない。
    「なら、暴れ柳とケンタウロスを抜いてみるね」
     さらば、暴れ柳くん…そう呟きながら線を引く。禁じられた森では何度も助けになってもらったけれど、ここはどうか許して欲しい。
    「では他の呪文を確認しよう。困りごとは?」
    「蜘蛛とか、ピクシーがいっぱいくると慌てちゃうかな」
    「それで暴れ柳とプロテゴ・ディアボリカを?」
    「そう! でも、サイザーくんの言う通り。これだと魔力が足りないのね」
     得心したように、サイザーが頷く。よくよく考えてみたら、たくさん召喚される魔法生物怖さとはいえ、暴れ柳にディアボリカ、ロコモーターに水牢と、使えばかなり疲弊するうえ、次の呪文を使うのにも時間がかかるものばかりだ。登録呪文を見せた時の、サイザーのなんとも言えない表情が今更思い出される。
    「魔力の消耗が少ないもので、対多数を制圧出来るものを入れるのがいいだろう」
    「うーん……、あ、セクタムセンプラとか?」
    「悪くない。他に困っていることは」
     脳裏に浮かぶ丸い物体。ハナハッカ。
    「卵……」
    「……」
     憎々しいものを思い出すように黙り込んでしまった彼の横で、欄干に乗せた羊皮紙にカリカリとペンを走らせる。強い呪文を入れるばかりじゃなくて、根っこから考え直さくてはいけなかったとは。さて、使いやすいもの、エクスパルソとか、ハナハッカとかは使っても疲れにくいかも。エクスパルソはネビュラスから相手を弾き出すことも出来そう。うんうん、なんとなく分かってきた、つい筆がのってくる。
    「できたよっ……あ!?」
     びゅ、と。羊皮紙を掲げた瞬間、タイミング悪くホグワーツの渓谷を駆ける突風に攫われてしまう。空を舞う傑作に情けない声をもらすと、横にいたサイザーが肩をとんと叩いてくる。
    「エデ、アクシオだ」
    「! アクシオ!」
     欄干から身を乗り出し、杖を威勢よく掲げて声を上げる。なにせいくらか前までマグルの世界で生活していたので、目の絵で起きたちょっとしたことに対して、魔法という選択を選ぶのに時間がかかってしまう。その点、サイザーは生まれてからずっと魔法使いの世界に住んでいるそうなので。やはり違うなぁ、と思うのだった。(一方、母は魔法界でも悪くない家柄らしいけれど、父と一緒になりたくて出奔したのだとか。よくまあ自分に魔法の片鱗も見せずに過ごしたものだとも思う)
     そうやって唱えたはずの呼び寄せ呪文だったが、羊皮紙は一度止まったと思いきや、フラフラとどこかへ行ってしまった。あれ?と疑問の声がもれたのも束の間、羊皮紙はそのまま、こちらよりもホグワーツ寄りの欄干をすり抜けて、この橋の中に吸い込まれて行く。
    「やぁ、落とし物だよ」
     そう聞こえた声に、どうやら親切な人が同じく呼び寄せ呪文で引き寄せてくれたらしいと思い至る。お礼を言わなきゃ、欄干の外に突き出していた上半身を引っ込めようとして、背中にぐ、とかかる力があった。
    「クラール」
    「よお、サイザー」
     聞いたこともない声色に、目を瞬かせる。サイザーはおおきくて分厚く、目力も強いので、人からおっかながられることが多いと聞く。実際話してみればそんな心配は不要で、決して怖い人ではないのだが、今背後から聞こえたサイザーの声はピンと張り詰め、露骨に警戒心が満ち満ちているものだった。
     そのうえ目線を上げたことで判明したが、エデの背中の力はサイザーが片手を乗せているのが原因らしく、流石に目を白黒させる。そんなことをされたら、身体を橋に戻せないのだけど。頭に疑問符を掲げながら、サイザーの後ろ姿に投げかける。
    「サイザーくん、わたし落ちちゃいそうよ」
    「む、」
     すまない、と、こちらに目線を向けた彼はわずかに眉根を寄せている。大きな手がぱっと背中からどいてくれたので、無事によいしょと無事に橋に戻ってくることができた。完全に乗り出していたわけではなかったものの、爪先しかついてなかったので、ちょっと危なかったのは本当だ。
    「おとなしい子だと思ってたけど、意外とお転婆だねぇ」
     ローブについた埃と木端を叩いていると、そう声をかけてくる人がいる。そうだわ、紙を拾ってもらったお礼を言わなきゃ。この場所からではサイザーの背中で何も見えないので、そそくさとその横に移動する。
    「あの」
     さ。
    「え、あの、」
     ささ。
    「紙」
     さささ。
     どうやっても目の前を遮る腕に、唖然とする。
    「サイザーくん?! なに?!」
     思わず声を上げると、サイザーの瞳とばっちり目が合う。サイザーは頷いて、「俺が受け取ろう」と言ってくるので、全く合点がいかず困惑する羽目になる。
    「な、なんで? わたしの申請書よ」
     さっきから行動が突拍子もなくて、謎だわ。
    「んー……なになに、ホグワーツ決闘クラブ魔法登録申請書……サイザーの呪文って感じじゃあないな、君の?」
    「そう! どうかな?」
    「いいと思うよ、君が頭を悩ませたのなら、きっと良い結果を齎すはずさ。ああ、でもいけないな。こんなところに誤字が……」
     えっと声がもれる。なんてことだろう、誤字があると呪文が正しく登録されず、反則負けになるという噂を聞いたことがある。とてもとても重大な問題だ。直しておかないと! 前を遮るサイザーの太い腕に対して、屈んで避けることで飛び出せば、ようやっと目の前の男性を視認することができた。相手はにこりと笑む。
    「やっと顔が見れて嬉しいよ」
    「拾ってくれてありがとう、お礼が遅くなっちゃってごめんね、アクシオがとっても上手なのね」
     ひら、と紙を掲げる彼は、アッシュカラーのヘアをオールバックに、深いエメラルドのような瞳と、瞳によく似合ったピアスをしている。にこりと目を細めた、爽やかな笑みが印象的だ。それに、香水をつけているらしい、甘やかな香りがする。
    「誤字まで見つけてもらっちゃって、ええと、どこかな?」
     手渡され戻ってきた申請書に目線をやれば、彼は手にした杖で文字をなぞる。
    「ほら、ご覧。"Incendio"が"Indencio"になっているみたいだ」
    「えっ、あ、ほんとだ。わ〜恥ずかしい……」
     インセンディオは以前から使っている主力の呪文であるだけに、元の申請書を自動筆記で写してきた以上、当初からずっと間違っていたことになる。ここまで指摘されなかったのは運が良かったなあ。それにしても、他にも誤字があったら嫌だわ。じっと申請書を見つめていれば、また頭上から声が降ってきた。
    「たくさん悩んだあとがあるようだけど、俺でよければ力になろうか」
    「ほんとう? そうしてもらえたらすっごく嬉しいかも」
     ね、と斜め後ろを振り返れば、なんだかとても形容し難い顔をしたサイザーが立っている。何か言いたげだが、あえて口を噤んでいる、そんな感じでエデを見下ろしていた。そう、サイザーにも躊躇なく話しかけたり決闘を観戦させたりする豪胆さなのだから、初対面の知らない男だからと警戒したり、遠慮したりするわけもないのであった。
     サイザーの方を向いて不思議そうな顔をしているエデの肩に、するりと男の腕が伸び、それにつられて緑の瞳が二対、煌めき合う。クラールがいくらか身を屈めたことで、甘い香りが一際濃く漂う。
    「君、名前は?」
    「エデナ・エイヴリングだよ」
    「俺はクラール・シュミット」
    「クラールくん。よろしくね、エデって呼んで」
    「エデ、よろしく。綺麗な瞳だ」
    「あなたの瞳も宝石みたい、素敵だね」
    「ハハ、嬉しいよ。なあ、俺と君が仲良くなったら、サイザーも喜ぶだろうね。なにせ俺と彼は友人だから……」
     クラールがちらりとサイザーを一瞥する。たしかに、お友達や自分を介して輪が広がっていくのは嬉しいものだとエデも知っている。それに、こうしてクラールと話していると、いつにも増してふわふわと浮かれている心地がしてくるくらいで、エデはなんだか不思議と、彼とは特別仲良くなれそうな気がした。そうしたら二人の友人であるサイザーもきっと喜んでくれるだろうし、それはとても良いことのように思える――。
    「エデ」
     ぐっと肩に乗った重さに――急激に意識が引き上げられる。まるでビンズ先生の授業に居眠りしていた身体が、びくりと突然目覚める感覚に近い。そのせいか、やたらめったらに胸がばくばくと弾んでいる。驚きに肩を目にやれば、いつもの黒い手袋。それにそって目線を上げると、そこには深い蒼がこちらを見ている。
    「……、あ、え、なあに…?」
     ばくばくとなる胸に手を当てながら、そちらに向けて首を傾げる。すぐ横に立つサイザーは何を言うでもなく、じっとその豊かなまつ毛に凪いだ瞳を携えて、エデを注視していた。
     その様子を見上げていたクラールは、あーあと視線をどこかに投げ捨て、一度肩をすくめてから緩慢に身体を起こした。杖を持つ手で髪をかきあげながら片目をすがめ、同じく片方の口角をわずかに上げる。
    「サイザー、お前のファンを横取りしようってわけでもないのに、なにも邪魔をしなくてもいいだろう?」
     肩に乗る指先が僅かにぴくりと揺れた、途端、肩に乗せられた大きな手によって身体が僅かに後ろに押し出され、驚くまもなく、ずむ、と、目の前が真っ白に染まり瞠目する。サイザーがなぜだか二人の間に割って入ったのだということにはすぐに気がついた。けれどあまりに突拍子もない行動で、エデは思わず数度目を瞬かせてその大きな背中を見つめる。目の前にいたはずのクラールは、すっぽりとその背に隠されてしまっていた。
    「異性が全部そういうものだと思うのは良くない。彼女は友達だ」
     頭上から降る声に目線を向けるものの、エデはサイザーの胸元までの高さしかないから、どうやったって表情を伺い見ることはできない。むしろいつも綺麗に刈り上げられている後頭部がよく見えて、これって毎朝魔法を使っているのかしら、なんて呑気なことを考えている。
    「冗談だろ、本気にするなよ……、まあ俺にしてみれば、こんな人気のない場所で会っておいて、ただのお友達だってほうが冗談だけど?」
    「決闘について相談を受けている。戦術について、わざわざ人の耳に入る場で語る必要はない」
     決闘、そう、決闘の時に隅っこで出したときのピエルトータムロコモーターを思い出す。なにせそれくらい存在感がある。
    「青空の下でってのも、彼女みたいな子には新鮮でウケると思うけどね」
     なにやら軽い口調でクラールがそう口にするのを耳にする。ピクニックの話かしら、よかったらみんなでどうかな――と口を挟もうとするが、サイザーが押し黙っているから、なんだか口を出しにくい。
    「まさかこのままお行儀良く寮まで送ってサヨナラか、その子が可哀想だと思わないか?」
    「ああ、俺がゆっくりおはなししてあげたいな。寮で一人慰めさせるより、よっぽど彼女のためだろ」
     なぜだかついにサイザーは無言を決め込んだようで、投げかけられる数度の軽口に応じることもない。ホグワーツ生は何かが起こるとよく杖を抜きがちだが、そうすることもせず、ただじっとそこに立っている。どうしたのだろう、と、なんだか不安になってきたエデだったが、ふとざわめきを感じて後ろを振り返れば、そこに何名かの生徒たちが立ち止まっている。クィディッチの装備を身につけているが、ボロボロだし知らない顔だ。練習生だろうか。中には顔を青くして卒倒しそうな生徒もいて、ああよほど練習がきつかったのだろうと同情してしまう。エデは飛行術も得意だしクィディッチをするのこそ好きだが、とても本格チームに入ろうと言うほどの気概はない。それに挑む彼らは偉い、早く休ませてあげたい。
    「ねえ、人が来たよ。邪魔になっちゃう」
     前に立つサイザーの袖口を引く。サイザーがエデを超えてさらに後方に向けて振り向くと、今度は後ろからいくつか息を呑む声が漏れ聞こえる。そうしてやっと彼の表情を覗き見ることができたが、なんだかエデには見たことのない表情で、不思議なものを見た心地だ。
    「……。行こう、エデ」
     サイザーはエデに身体を向けて、背に手を当てて城内に向かって歩き出す。エデとしても特に反抗する意味もなく、されるがままに歩き出すが、あいかわらずクラールとの間にはサイザーが挟まっている。すれ違い様に「エデ」と声をかけられた。
    「また話そう、いつでも君の都合のいい時にね。声をかけてくれよ」
     振り向くと、笑みを浮かべたクラールが小さく手を振っている。手を振りかえそうと身をそらそうとして、すぐにサイザーが肩を引き寄せて自分の前を歩かせたので、結局振りかえせず仕舞いになってしまった。
    「彼、手を振ってくれてたんだけど……」
    「すまない、気が付かなかった」
    「ううん、でもまた話そうだって。仲良くなれそう、嬉しいな」
    「……」
     黙り込んでしまったその姿を見て、やはり、サイザーの今日の妙な態度が気になり出す。善良なサイザーが、やたらと自分とクラールの間を遮るように行動したことを思い出す。橋を渡る間ずっとうーんと唸って、城についてようやく、正直考えにくいけれど、一つの考えに思い至る。
    「もしかして、サイザーくんはお友達同士が仲良くなるのはいや? 嬉しくない?」
     そう問い掛ければ、言われたサイザーは一瞬理解が追いつかない顔をして、そうしてようやく噛み砕いたらしく、表情が少しばかりの苦味を帯びる。
    「誤解している。俺は、エデとクラールが仲良くなっても別にうれしくはない」
    「えっ、な……なんで?」
    「そもそも俺とクラールは友達じゃない」
     今度は理解が追いつかないのはエデの方である。だってクラールはともだちだと言っていたのだ。
    「ええ? ひょっとして喧嘩中……?」
    「……、」
     サイザーの顔が些かむ、とする。腕を組んで目を瞑り、一度小さく唸ってから、意を結したように顔を上げた。(もっともエデがずっと下にいるので、すぐ目線を下げることになる)
    「エデ、君の交友関係に口を出すのは本意ではないが、あえて言わせてもらう――あの男には近づかない方がいい」
    「……、えっ?!なに、急に」
    「君はあまりに警戒心が希薄だからはっきり言おう。クラールについてはろくでもない話しか聞かない。危険な男だ。身の安全のためにも、交流をもつべきじゃない。話しかけられても相手にするな、もし付き纏われるのなら、人の多い教室に入って、決して二人きりになってはいけない。そういった場所がなければ、知らない生徒を友人だと話しかけて、一緒にその場から離れたっていい」
     君ならそういう性格だから許されるだろう、そう続けるサイザーに、こんなに喋ってるの初めて見たな。そうまで思わせるほどのあんまりな言われように、唖然としながらサイザーを見る。
    「す、すっごい言うね……彼、アズカバンから脱獄でもしてきたのかな……」
    「エデ、真面目な話をしている」
    「う、はい……」
     優しく言い聞かせるような声に、つい茶化してしまったことを嗜められる。
    「君が物おじしないことは分かっているが、冗談ではすまないことも時にはある。ここでは、君が生きてきた場所よりもそういうことが多いはずだ」
    「でも、みんないい人だよ。サイザーくんは優しい人だし、素敵なお友達だわ」
    「これから出会わないとは限らないだろう。クラールがまさにそうだ」
     ううん、と、煮え切らない返事。サイザーが信用できるとかできないとか、そういう話ではなく、エデは昔から噂話が好きではなくて、人から言われたネガティブな話を元に、誰かを避けたり、嫌いになることをしたくない、というのが正直なところであった。そんなエデの心情を見透かしたのか、サイザーが言葉を続ける。
    「……クラールは俺と同じくらいの実力だ。もしエデが、俺を倒せるくらいであれば、対等に友達にすることができるかもしれない」
    「えっ」
     エデの脳内が一気に決闘に、ポジティブな考えに塗り替わる。途端に表情が華やいで、手元の申請書を持つ手に力がこもる。
    「ほんと?!いいね、それ!」
     エデの声が弾み、強い意志に目がめらめらと燃えるのをみて、サイザーは内心一息。
    「ならまずは呪文の申請書を出してこないとな」
    「うん!勝つよ〜! 目指せ、マスター!」
     

     後日、わたしはサイザーくんくらい強くならないとクラールくんとはお友達になれないの。サイザーの言いつけ通り人目の多い部屋で、そうはっきりとNOを告げるエデに、あのお友達作り大好き女が…サイザーとクラールは一体…と囁かれることを二人はまだ知らない。

     
     ――――――――――――――――

    解釈に悩み散らした蛇足
     
      ――いくら豪胆であったとして、それだけでマグル育ちのちいさきいのちが生きていけるほど魔法界は甘くないことを、サイザーは知っている。この男など最たるもので、その血筋もあってか、イソトマの花のような男だ。今はその二面性を持って毒を隠し覆っているが、いつ牙を剥くか分かったものではない。極めて不本意だが、一度こうして接点を持ってしまった以上、自分が横にいる間に彼女の警戒心を育み、拒絶まで見届ける方がまだ悪い方向に転じないのではないか。なにせ、流石のエデも、この男の名にピンとこないこともないだろう――そういう思いがサイザーの脳裏にはあったので。
     けれどもサイザーの予想は外れ、エデはその名前に全く反応を示さなかったどころか、警戒のけの字もなく握手を交わそうと手を差し出す始末である。そもそも申請書の誤字ですら怪しいというのに。そのうえクラールは挑戦的で挑発的な目線でサイザーを一瞥してくる。
     こうなっては、いつまでもエデとクラールと話をさせるわけにはいかない。先ほどまで申請書を見たりサイザーを見たりと興味があちこちにそれていたから良かったものの、今はそうではない。かつてのサイザーは根性と野生で彼の瞳による魅了を振り解いたが、エデもそうとは限らないのだから。サイザーはエデがよく人の目を見つめて話すことを知っていたので、彼女が自ら目を逸らすことは考えにくく、自分が割って入ることでむしろクラールの関心を引いてしまうのではとの懸念を捨てる他なかった。

     
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    Replies from the creator

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    hichiko

    DOODLE
    まんが1について
    設定画等に特にヒスイの人が革製品を使っているとは書いていないですが、キャプテンや集落の人の手袋や鞄は革らしく見えることと、サブウェイマスターのあの靴は革だろうな……という想像から、革の話になっています。でもサブウェイマスターの靴はもっと特殊な素材かもしれないな……二次創作はかもしれない運転だ……。かもしれないけどこういうのもありでしょう運転だ………。
    皮革を生活に使ってるよねという想像は、どうやらシンジュやコンゴウの人たちの暮らしは世界各地の色々な北方民族の暮らしをモデルにしてるのかな?と思ったところから出てきました。フードつきの服を着ていたり、テント風の家に住んでいたり、国立民族学博物館を訪ねた時にモンゴル展示で見たストーブとほぼ同じものが家の中にあったりするので。ポケモンや他の動物(そもそもポケモン以外の動物いるのかもよく知らないですが)を家畜として集落周辺で飼っている気配はないので、狩猟に出たり植物を採集してきたりして暮らしてるんだろうな、罠仕掛けてるみたいだし。突如そういう生活を送ることになったノボリさんは知らないことだらけで生きていこうとするだけでも周りのいろんな人から学ぶことがたくさんあったのでしょうね。
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