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    八丁目

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    八丁目

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    💜仗億
    Happybirthday!!!東方仗助ェ!!!の話

    #仗億
    billion

    ブルーベリー&ストロベリー 五月。連休も終わり、また普段と変わらぬ日常が始まって二週間が経った。
     とはいえ、連休中は特別だったかと言われたらそういうわけでもない。家でだらりと過ごし、気が向けば億泰仗助コンビは町をぶらついたり、ツーリングしたり。由花子と約束のない日を狙って康一を連れ出したり。ある意味多忙ではあったが特別と言うほどでもない。
     しかし、連休に引き続き、ひとつ特別だと上げるならば──
     「あちィ~……」
     「二十七度だってよ……」
     「グレートに、へびぃ~……」
     五月だと言うのに今にも蝉が鳴いてきそうなほどの暑さだ。仗助は池を眺めるように設置してあるベンチに腰掛け項垂れる。その隣では、顬に一筋の汗を流す億泰が、気前よく三段アイスを買い、チロチロと舌を出して舐めている。
     普段ならば特に欲しいと思わないアイス。しかし、さすがの仗助も、この暑さには勝てず、気休めでもいいから体を冷やす為にアイスを買おうと思っていた。
    (スミスの財布買っちまったばっかりによォ……)
     買ったばかりの新品の財布の中身は三十五円。格好つかないにも程がある。
     しかし、たかがアイスを金が無くて買えないなんてことも言いたくなくて、つい「別にいらねえよ」と言ってしまった。言ってしまった手前、ひとくちくれよとも言えない。ただ、このドケチの億泰にひとくち ねだったところで「はい、どうぞ」とくれる訳が無いのだが。
     「なあ、仗助ェ~」
     「あァ~?」
     気だるく名前を呼ぶ億泰に、同じように気だるく返事をする。
     ──ああ、億泰のアイスが食べたい。
     三十五円じゃジュースも買えない。今目の前にあり、少しでも手に入る可能性があるのは億泰のアイスのみだ。しかし、このドケチ野郎から一体どうやってひとくちを貰おうか。
     「オメェ、マジでアイス食わねえの?」
     「や、やっぱよォ~、ちこーっと食いてえかなァ~」
     「ふーん」
    (ふーんってコイツ、ドケチっつーよりよォ~、優しさの欠片も無えっつーかよォ~!ひとくちくれェいいじゃあねえかよチクショーッ!)
     ベンチの場所が木陰になっていただけまだマシだった。けれど、アイスを食べている億泰と違って仗助の額からは汗が止まらない。
     こうなったら何でも言う事ひとつ聞いてやるからと言ってねだってみようか。しかし、それでも貰えなかったら終わりだ。
     マブダチに、恋人に、虹村億泰に殺される。
     「なあ、億泰ゥ……、何でもひとつ言うこと、」
     「あのよォ~、一段食うか?」
     そう言って一段食べ終えたアイスを仗助に向けてきた。一段目は億泰の好物で定番のストロベリー&チョコチップだった。二段目は珍しくブルーベリー&ヨーグルト。可愛らしい小さなミントの二葉がハートの形を見せている。だが今、そんな事は大した問題ではない。
     億泰は今、なんと言った。
    『ひとくち』ではなく『一段』と言った。
     「はやく食えよォ~、溶けちまうぜ」
     「え、……あっ、この紫のやつ一個全部?俺が食っちまっていいのか?」
     「だぁからいいっつってンだろォがよォ!早く、垂れちまうよ、勿体ねェぜ」
     そう言って傾けられたアイスは一筋の汗を流すかのようにたらりと重力に従って溶け始めていた。仗助はそれを舌で掬い取る。
     「美味ェか?」
     「おおう、ヨーグルトの甘さと?ブルーベリーの酸味が?口ン中で丁度良く混ざり合ってよぉ~」
     と、途中まで億泰が言うような食事のレポートを口走る。
     「ハーモニーつーんですかァ、味の調和っつーんですかァ~」
     続きは特に思い浮かばず億泰の真似をして見せるが、本人のような抑揚はない。ただひたすら棒読みである。
     「ぎゃはっ、笑わせんなよォ!」
     「おい、億泰 揺らすんじゃあねぇよ」
     自分で持てばいいものの、そうしないのは暑さでやられて冷静な判断が出来ないからか、又はそれが当たり前だと思っているからか。
     「しかしよォ~、どういう風の吹き回しだよ。ドケチなオメェがひとくちどころかアイス一段丸々俺にくれるなんてよ」
     かぷりと、またひとくち口に含む。
     億泰の手からもらうアイスはより一層美味い。
     「いや、別に……あ、やべえ垂れてる」
     そう言って三段目の、またもやストロベリー&チョコチップが溶け始めて億泰が舌を出して舐め取っていく。
     「別にって事ァねえだろ。なんか匂うぜ。ウラでもあんじゃあねぇのかァ?」
     「無ェよ、ほら、さっさと食えって」
     誤魔化すように急かされて、疑惑の目を向けながらアイスをまたひとくち。
     「怪しいぜェ~、絶対ェなんかあんだろ」
     「うわっ、指にまで垂れてきたっ!」
      億泰の指にだらだらとピンク色の液体が流れる。コーンの上で溶けていくふたつのアイスは次第に形を崩し傾き始めた。「やべっ!」「のわァっ!」と声を出し、互いに自分が食べようとしていたアイスにかぶりつく。
     
     かぷっ

     幸いアイスは落ちることはなかった。
     ふたりで同時にアイスにかぶりついたから。けれど、かぶりついたまま、ふたりの目はぱちりと合ってしまう。アイスを隔てているとはいえ、お互いの距離はほんの数センチ。
     互いに『好き』を自覚する前までは、どんなに距離が近かろうが、頬を擦り合わせようが、今のような感情を持つことはなかったのに。
     今ではこんな距離でもキスの射程距離。
     ふたりは驚き目を見開いたものの、仗助の瞳は一瞬にしてとろんとアイスのように甘く蕩け、億泰を見つめた。そんな瞳に応えるように、億泰はひどく甘い視線を間近に受けながら睨み返す。この睨みは、照れ隠しなのだろうか。照れ隠しの割にはだいぶ凄みがあるが、それは仗助と億泰にしか分からない。
     つぅーっと垂れ流れるアイス。ブルーベリー&ヨーグルトはストロベリー&チョコチップを覆うように溶けていく。
     仗助は、ふたりの間で阻むアイスのコーンを手に掴んで退けてやる。そうして、ゆっくりと億泰に顔を近付けていった。
     手はピンクや紫、白が混ざり合って絡み合う。
     億泰と仗助は、同時に同じアイスの味を確かめ合った。唇で。舌で。互いの熱すら確かめ合う。
     周りに人がいるかもしれないなんて、考えることもなかった。目の前の好きな奴にキスがしたい。ただそれだけ。
     手に持ったコーンからは溶けたアイスが滴り落ちて、ぼたり、ぼたりと地面を汚していく。あとで、勿体無ェと億泰にどやされるだろうが、今はおとなしく自分を受け入れてくれる姿を見れば、そんなことはどうでもよくなってくる。
     ひんやりとしていた唇や舌は次第に熱を持ち始め、せっかく数度は下がったであろう体温も急激に上がっていった。
     「じょ、すけェ……」
     「……ん、だよ」
     「あちぃ……」
     「おれも……」
     季節に似合わない暑さのなか、互いの熱で高まっていく体。互いが握りしめているアイスのように、自分たちも甘くどろどろに溶けていく。
      



     ◽︎OMAKE◽︎

     ──数十分前、アイスクリーム・レインボー。
     レジに並んでいる間に様々なフレーバーを眺めるも、自分が食べるアイスは大体決まっている。自分の前には親子連れが一組。次は自分の番だ。
     母親に買って貰ったアイスを手に取り喜んで店を出て行った子どもを見送ったあと、いつものように店員へストロベリー&チョコチップを頼んだ。
     その間、ふと店の外へ目をやり相棒の姿を視界に入れる。女性や親子連れの多い店。その店の前で居た堪れないような姿で自分を待つ相棒に、つい笑みがこぼれた。
     アイスを買う自分に、汗を掻きながらも「俺はいらねえから。オメェ買ってこいよ」と言い放った姿を思い出す。
    (カッコつけやがってよォ~)
     不良がアイスを食べるのがそんなにかっこ悪いだろうか。いや、仗助のことだ。きっと金が無くてそんなことを言ったんだろう。一度は取り出した初めて見る財布に億泰の勘が働いた。
     そうしてまた、レジのほうへと向き直りメニューを見てふと気付く。
    『5月のフレーバー』
     (五月、ねえ……。そういやあ、仗助は……)
     営業スマイルを見せる可愛らしい女性店員が両手で億泰にストロベリー&チョコチップを手渡してくる。

     「すんません、ブルーベリー&ヨーグルトとストロベリー&チョコチップもう一個追加で」



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