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    reikurou

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    作業進捗というか供養というか

    け〜くろ+みけくろのすれ違いシリアス「蓮巳!お客さんだぞ!」
    守沢の張り上げる声に眉を寄せながら手元にあったライブの資料を置き、声の方へと顔を向ける。相も変わらず一挙一動が大袈裟なクラスメイトがブンブンと大きく腕を振る傍ら、扉の手前でポケットに手を突っ込んだままこちらを見やる男を見つけると自然と口からは「鬼龍」と言葉が零れた。
    五限目が終わり、今日最後の授業へ向けて準備をする者、授業中から変わらずうつ伏せている者がいる教室は過ごしやすく、窓の外の炎天下とは無縁の涼しさを保っていた。立ち上がり、青空に背を向けて廊下へと向かう。鬼龍が申し訳なさそうに笑いながら守沢に礼を言うと、奴はこの季節に似合う笑顔のまま満足げに席へと戻っていった。俺とすれ違う際に投げられたウィンクが酷く鬱陶しかった。
    「どうした?わざわざA組まで来る用か?」
    「ん〜いや、ちと確認したいことがあってよ」
    俺が問い詰めると罰が悪そうに頭を搔くが、言葉を詰まらせることなく話を続ける。
    「しばらく紅月の仕事はないんだろ?今日のレッスンもてめぇ抜きで進めるってことでいいんだよな」
    目を合わせたまま小さく首を傾げる鬼龍の姿に肩には罪悪感という重石が落とされ、うぐっと堪らず顔を顰める。その様子に鬼龍はどうした?と目を丸めながら心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
    革命が終わり、生徒たちの夢に向かう熱量で活気溢れる学院はいかにも青春らしく輝いている中、それに比例して生徒会の仕事はどんどん多忙になっていった。その生徒会副会長という肩書きを背負っている俺に暇ができるわけがなく、ここ最近は紅月の仕事はおろかレッスンにも参加出来ずにいる。
    酷くもどかしい気持ちだった。他の生徒が企画案を持ち出し、アイドル活動に励むその度に仲間の顔が脳裏に浮かぶのだ。
    「……すまない、貴様らには本当に我慢ばかりさせてしまっている。俺にもっと余裕ができればいいんだが……」
    「ああ、別に責めたいわけじゃねぇんだよ。確認だ確認。そっちが忙しいのは重々承知だし、俺も神崎もちゃんとわかってるっての」
    肩を落として謝る俺に手のひらを見せて男前に笑う鬼龍に少しばかり心は軽くなる。この男の懐の広さに今までどれだけ支えられてきたことか。
    こいつの前で情けない姿を晒すわけにはいかないと一つ咳払いし、眼鏡の位置を正しながら頷いた。
    「そうだな、暫くの間は俺抜きで頼む。貴様らも、紅月としてでなくソロでの仕事も引き受けていいんだからな。俺のために時間を浪費する必要はない」
    「はは、心配されなくてもできることはやってるぜ、っと。休み時間終わるし戻るな。邪魔して悪かった」
    「あっ、待て鬼龍」
    唐突に話を切り上げた鬼龍に言われて教室の時計を見ると、確かに休み時間は着々と終わりを迎えようとしている。そそくさとその場から去ろうとしている鬼龍を引き止めて言った。
    「次からこういった連絡はメールで済ませて貰えると助かる。今は時間が惜しくてな」
    「ああ、そりゃあまあ、そうか。悪ぃな気が回らなくて」
    「いや、元はと言えば俺のせいだ」
    「誰のせいでもねぇよ」
    それじゃあな、と背中を向けてひらりと手を振る鬼龍を最後まで見送ることなく教室の中へと戻り、再び資料へと目を通した。

    廊下を歩きながらポケットに手を入れ、携帯を取り出して画面を開く。妹の待受画面は今日も変わらず可愛い。
    「…………だよなぁ」
    既読の付いていないメッセージに一人溜息を吐いた。



    生徒会で忙しく、身を粉にして働く蓮巳に何も悪いことは無い。革命を成し遂げ、あいつの求めていたアイドルのための理想郷がようやっとできあがった。輝かしい未来のために、己の夢のために精一杯頑張っている。
    じゃあ今の俺たちを蔑ろにしていいのかと問われて、あいつのために肯けない自分がいる弱さが嫌だった。
    喧嘩祭で俺たちの絆の深さは三人とも痛感した。血よりも濃い絆、切っても切れない縁。大切だ、何よりも。知っている。俺たちは俺たちが互いに仲間だと知っている。
    それで留まるべきだったのだ。



    「おやおやあ?おはよう紅郎さん!こんなところで奇遇だなあ!」
    廊下に響き渡る軽快な笑い声が耳に届き、いつの間にか爪先に向いていた視線を上げた。見ると、パッと人当たりのいい笑顔で正面からこちらへと歩いてくる三毛縞の姿に何となく肩の力が抜ける。お前かよ、なんて呆れに似た脱力感に自分が気を張っていたことに気付き、それを悟られないように歩きながら三毛縞に笑いかけた。
    「おはようって時間でもねぇけどよ。つうか校舎内で奇遇も何もねぇだろ」
    「いやいや、こうした偶然も愛でないと有難みがなくなってしまうからなあ。俺は紅郎さんに会えて嬉しいから勝手に価値高いものにしているだけだ」
    「相変わらずよくわかんねぇこと考えてんなお前……希少でも何でもねぇだろ、会おうと思えば会えんのによ」
    目の前まで近付いても変わらぬペースで歩いたまま溜息混じりに言い捨てた。午後の授業も頑張れよ、なんて通りすがりに言おうとした矢先、三毛縞が「紅郎さん」と再び名前を呼ぶ。
    なんだ?と振り返ると三毛縞は足を止めていて、それに倣って俺も歩くのをやめた。体を半分三毛縞へ向け、訝しげに三毛縞を睨む。別に怒っているわけでもないが、自分の目付きを表現するなら睨むが正解だろう。それに臆することなく三毛縞は俺に体を向け、口を開いて笑っている。
    「今日の放課後、空手部の活動はあるかなあ?もしあるなら久しぶりに道場破りでもしようかと思っているんだが」
    「道場破りにアポ取んなよ。俺はレッスンあるからいねぇけど、来んなら鍵開けとくぜ」
    「おおっそれはありがたい!……と言いたいところだが、紅郎さんがいないと意味ないしなあ。道場破りは口実で紅郎さんに話があるだけだし」
    「あ?」
    話?とオウム返しをすると、三毛縞は明るく人懐っこい、そのくせどこか胡散臭い笑顔でこたえた。予鈴がもうすぐ鳴ろうとしていた。
    「紅郎さんに仕事を紹介したくて」



    ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢



    いつだったか。夏を迎えたばかりの季節に、お祭り騒ぎに紛れて散々振り回したことを思い出す。梅雨が終わってようやく蝉が泣き始めて、それに祭囃子も混ざり合って酷く混沌としていた。
    そんな中神輿を担ぎ、終わってからその場の流れで墓参りをした。昔なんて表現する程でもないのに、不思議と懐かしく感じる。そんなことあったなぁ、なんて思い出話だ。
    夕焼けに滲む紫陽花と二人で話した時間は思い出になっていた。

    更衣室で着替えながら数ヶ月前の景色を思い返していた。すぐ後ろの椅子にはその思い出の中に立っている紅色の持ち主が座っており、横目で彼の表情を見ながらジャケットに袖を通す。
    「まさか引き受けてくれるとはなあ。急な依頼に応えてもらえて嬉しい限りだ!感謝感激雨あられ!」
    「暇だったしな。てめえこそ、いつもは一人で仕事こなしてんのに珍しいじゃねえか」
    「相手さんのご希望で、俺ともう一人ほどアイドルが欲しいって言うものだから。期待に応えて全力で歌って貰えると助かるぞお!」
    「はっ、当たり前だろ」
    男前な笑顔に満面の笑みで返し、その隣にどかりと腰を下ろす。紅郎さんの手にはシャーペンと一枚の紙があり、勝手に覗き込めばそこには衣装のデザインと思わしきものが描かれていた。
    「それは、紅月の衣装かあ?近々ライブでもするのかなあ、ええと喧嘩祭以来か。随分と久しぶりに感じるなあ」
    「あ〜いや、勝手に作ってるだけだ。蓮巳の旦那は生徒会で忙しいしな」
    俺の指摘に紅郎さんはどことなく後ろめたそうに目を伏せ、そのままデザイン案を鞄に仕舞った。俺がちょうど着替え終わったから片付けたんだろうと思うことにした。
    ぱっと見た衣装の印象は紅月にしては珍しく爽やかで、けれども今の時期によく合う夏らしさだった。白基調の和服に袖は透ける素材を使用するらしく、何となく七夕祭の衣装に似ているように感じた。紅月らしさは少し薄いが、見ているこっちも涼しく感じる、いいデザインだと思う。
    ちらりと目を向けた紅郎さんは学院の指定衣装を身に付けている。俺も同じものを着ていた。
    立ち上がって鞄を仕舞う紅郎さんの背中を見つめ、口を開いた俺を置いてけぼりに彼はロッカーを閉じて振り返る。
    「準備できたんなら行こうぜ。早く歌いてえだろ、お前も」
    「勿論!」
    ニヤリと楽しげに微笑む彼に笑って頷き、先を歩く影を踏む。もうひとつの開けっ放しだったロッカーを放っておいて更衣室の鍵を閉めた。



    小規模なショッピングモールの広間にはそれなりの人だかりができていて、通り過ぎる人もなんだなんだと野次馬気分で舞台に視線を向けている。中には立ち止まって同伴している奴の袖を引いてこちらを指さす人もいた。
    三毛縞曰く、今日のイベントに出る予定だった芸人だか何だかが急遽欠席することになったらしく、その穴を埋めるために依頼主が代わりを探していたとのことだった。あいつならその分の尺だって自分だけで稼げただろうが、たまたま暇していた俺がいて丁度良かったんだろう。昨日の今日で仕事が入っても何も困らないスケジュールには少し複雑な気持ちだが、こうして役立ったなら良しとしよう。
    楽しい。
    久しぶりのステージで全力で歌って踊って、楽しい、楽しい!こんなにも!身体の内側から火照る熱に逆上せて気分はすっかり高揚しきっていた。観客の笑顔が俺に写ったのか、それとも俺が写したのかわからないが、今ここで歌っているのは間違いなく俺だ。楽しい、はは、楽しいな。
    視界の端に舞台袖で待機している三毛縞がいたから笑っておいた。楽しんじまって悪ぃな、なんて思ったわけでもなく、ただ目が合ったから笑った。それからまた観客に目を合わせて、踊り切った頃には殺しきれなかった興奮が肩で息をしていた。
    わっと辺りに響く拍手と高ぶった様子の話し声たちへマイク越しに感謝を告げ、伝えられる限りの敬意を込めて頭を下げた。それに合わせて汗がぽつぽつと雫になって床へ落ちる。それすらも零すのが惜しく感じられるほどに気持ちは浮ついていた。
    顔を上げてチラリと横を見て、「あ」と喉元からマイクにも拾われない音が漏れた。

    今日、ひとりだったな。

    そりゃあそうだ。紅月として舞台に立つなら紅月の衣装を着るに決まっている。俺が作った衣装で、三人で立つに決まってるよな。夢ノ咲の共通衣装じゃなくて。じゃあなんで今、隣なんて見ちまったんだろうな。
    いつ以来だろうか。こうして一人で舞台に立つのは、多分、一年前の

    『おおっなかなか盛り上がっているなあ!ママも一緒に歌わせてくれ紅郎さん!』
    突然肩に受けた衝撃に反射的に振り返ると、一体いつの間に来たのか、三毛縞が俺の肩に腕を回して陽気に叫んでいる。組手をしている時の距離感で見たあいつの顔はすっかりMaMの、アイドルの表情をしていた。
    近い、離れろと言いたいところだが舞台の上だ。あいつの握るマイクが目の前にあったので手を重ねて自分に寄せた。
    『はっ、一緒に歌いてえのか?てめえも存外寂しがり屋だな。自分の番も待てねえのか、やんちゃな餓鬼かよ』
    『お、おおっとぉ?俺のキャラがブレるようなことを言うのは勘弁勘弁!違うぞおみんなっ、俺はみんなのママだからなあ!?営業妨害で訴えるぞお紅郎さん!』
    『なに慌ててんだお前』
    わたわた喋る三毛縞に首を傾げているとクスクスと笑う声が聞こえて、これもこいつの戦略の内かと納得する。器用な奴だよな、こういうところは俺も見習うべきか。アイドルなら語りも磨いた方が良いよな。
    こほんと一つ三毛縞が咳払いをして、俺に腕を回したまま高らかに笑った。
    『さあてっそれじゃあ歌おう紅郎さん!愉快痛快良いライブにするぞお☆』

    ライブは依頼主の期待以上だったらしく、舞台袖に戻ると感謝の言葉を勿体ないくらいかけてもらえた。無事求められていたものに応えられたようで安心したが、三毛縞は最低限の言葉を交わしただけでそそくさとロッカールームに戻っていった。
    「三毛縞くんの急な頼みには驚いたけど、結果的に大盛況だったから何よりだよ」
    置いていかれた俺に依頼主はこう話したが、言われた意味はよくわからないままだった。
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