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    donut9_7

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    donut9_7

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    陸のことが好きな天目線の話
    陸も天のことが好きだけど、それを知らない天です。
    シンメと姉鷺さんが少し出てきます。陸はほぼでてこないです。
    ※IRに出会う前の頃です。

    #九条天
    thePalace

    仕事帰りの車の中で、サングラスを外した流れで顔を窓に向けると、開いた視界が一瞬にして、眩しい光に奪われてしまった。真っ白になって、だんだん茜色の水彩絵の具がじんわりと染まっていく。滲んだ所から様々な模様の輪郭が見えてきて、それらが過ぎ去る街並みのものだと分かる。光は元々の世界をボクに返してくれた。
    いつの間にか日が長くなり、こんな時間に夕暮れなんて見れたんだと思う。
    泣きたくなるようなあったかい色。
    陸の髪色を思い出して、それから両親の顔が思い浮かぶ前に、姉鷺さんに明日のスケジュールの確認を意味もなくする。今週のスケジュールは全て頭に入っているのに、無駄なことに時間をかけてしまってはダメだと思う。
    思うけれど、今の自分に陸を思い出すことが、どれだけ心を乱すことかと思えば、優先するべきことは変わってくる。
    もう一度、窓の外に目をやる。もう見えなくなる太陽が今にも溶けてなくなりそうなほど、周辺の空や雲にまで色が広がって鮮やかな景色だった。誰のものでもないんだ。太陽も空も一つしかなく、この世の誰もが知っているけれど、誰のものでもないんだ。

    今日の公開収録、スタジオにいたファンの子が持っているうちわの文字を思い出す。「私の天くんでいて」無邪気な笑顔でボクをみる。
    ボクはアイドルの九条天。
    ファンでい続けてくれる人がいる限りボクはアイドルのTRIGGERの九条天で、ファンのものだ。これからも。
    だったらなぜ、その言葉を見て少しだけ首絞められような感覚になった自分がいるんだろう。自分で自分の首を…絞めるような…

    何を考えているのだろう。ちっとも普段の自分じゃない。ペースが戻らない。全ては誕生日が明後日に迫っているからで、陸に予定を空けるように言われていたのに、仕事を優先して予定を空けれなかったことを、今になって後悔し始めていることに気づいたせいだ。
    いつの間にか夜の深さが空を支配していた。
    太陽の眩しい光が愛おしかった。
    らしくない自分にイラついて、隣に座っていた楽の足を踏む。バカバカしい喧嘩を一通りして、龍がいつもみたいに、ボクたちを宥めた時だった。ラジオから聞こえきたのは陸の声で、咄嗟に体が動いてしまった。楽がニヤニヤしているのが分かる。ウザイ。前かがみになってしまった体制を恥ずかしさで直せないまま耳を集中させる。番宣をした後に、七夕にちなんで願い事を言ってくださいと、ラジオパーソナリティらしき人に言われ、陸が何の躊躇もなく言った願い事で意識が一旦途切れた。



    あぁ七瀬天だ。今のボクは七瀬天。

    捨てたはずのものを捨てきれずにいる。

    幼いまま何も変わらない弱い自分だ。

    真っ黒で何も見えない。


    ……

    …陸がいる、幼い頃の陸。

    何かを必死に描いている。

    あのスケッチブック…
    よく見ると陸と2人でよく見ていたロボットアニメが表紙の落書き帳だった。
    2人の人物が手を繋いで、ステージと思われるところで歌っているような絵だった。

    何度も夢を見て、何度も話した…
    今となってはおとぎ話だ。



    嗚呼、ダメだ、七瀬天としての本心がとめどなく溢れて抱えきれない。

    いつまでも自分を見てくる陸でいて欲しかった。

    陸のボクでいたかった。

    ボクの陸でいて欲しかった。

    陸に永遠を望んだのは自分だった。そしてその永遠を終わらせたのも自分だ。また真っ黒になっていく。幼い陸もボクも、鉛筆の線で乱雑に黒く塗りつぶされていくように段々と見えなくなった。


    姉鷺さんがもうすぐ着くわよとボク達に大きな声で言い放って、遠のいた意識を戻した。九条天に戻っていて、いつの間にか見慣れて景色になり、楽も龍もうたた寝をしている。ラジオは次の番組になっていて、最新ヒット曲を絶え間なく流している。車を降りて直ぐに、起きたばかりの楽と龍に、早めに寝るから今日はそっとしておいて欲しいと伝えてすぐ、自室に直行しベットに倒れ込む。ラビチャの陸とのトーク画面を開いて真っ暗な部屋に光を灯す。
    2日前に来たメッセージを既読無視していた。返す言葉がないからだ。

    陸:天にぃはいつも何を考えてるか分からないよ

    メッセージを読んで、そっと胸に手を当てる。陸に言いたい言葉が溢れるのにちゃんと形にできなくて、痛い。胸が熱くなってきている感覚になる。どうしたらいい。言葉ではなくて思いでもなくて、ここにあるものに触れて欲しい全部ここにあるから。言葉を介さずに陸と繋がれたらどれだけいいだろう。肉体的なつがりを求めてるわけじゃない。精神的なつながりを、ボクと陸だけが分かちあえればいい。ずっとずっと昔から言えなかった言葉を積み重ねて出来てしまったものは、自分の中でよく分からないものになって、永遠に自分を苦しめている。

    自分がアイドルとして求められ、望まれる欲に似たものを最愛の弟に向けているだなんて。自分を理解して受け止めて、あわよくば1つになりたいなんて、あまりにも傲慢でいやらしい。醜い自分がいる。陸が自分のものになればいいのにと思ってそんなわけないと否定する。多分、陸がボクのものになっても意味が無い。このよく分からない部分に、触れて感じて貰えなければなんの意味もない。…触れて貰えたらこの苦しみから解放されるのだろうか。心がまた乱れる。散らかった思いを全部丁寧に引き剥がして、黒い布で隠す。
    陸に会いたい。ただそれだけを心に置いた。

    「ねぇ陸…触れて…それが答えだから」


    スマートフォンを片手に握りしめたまま、胎児のような姿勢で蹲る。キーボードの画面が、たまたま指が触れた文字で変換を試みる。予測変換の所に“願い事”と表示されたまま画面の光が天の髪を弱々しく照らす。


    ラジオパーソナリティが番宣を終えたゲストに向けて「それでは最後に、今日7月7日七夕にちなんで、あなたの願い事を教え下さい」と言う。ゲストは考える様子もなく優しくでも芯がある声で真っ直ぐに言う。「ずっとずっと、死ぬまで七瀬陸として、歌い続けていきます。」と。
    願いじゃないですねと屈託なく笑って「これは、小さい頃の夢で願いで、たった1人の兄に誓ったことです。」とラジオ越しにでも伝わってくる真剣な笑顔が、たった1人の兄の天の心を大きく揺らす。こぼれ落ちる涙が、天の川の星々に隠れるように静かに落として、それを流れ星がさらっていった。7月7日の夜の話。
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