空夜 やけに冷える夜だった。
回廊の石壁は氷のように冷たく、吐く息が白く浮かんでは消える。護衛のために姿勢を正して見通した回廊は燭台の灯りだけでは心許ない暗さだ。堅牢な石造りのハイラル城内は外敵の侵入を拒むには適しているがその分暗く、こんな夜更けには底冷えしてしまう。
背後の重厚な扉を一枚隔てた向こう側で、姫様は暖かく過ごされているだろうか。暖炉の薪は足りているのか、綿のたっぷり詰まった毛布も用意されていただろうか。近衛の隊服を着込んだ自分でさえ寒さを感じているほどだ。我慢強い姫様とて、今夜の冷気は堪えるだろう。
姫様の部屋付きの侍女たちがどれほど主君の体調を慮っているか、外野として口に出すことはなくとも気に懸かる。姫様はご自身のこととなると、特に言葉を控えてしまわれるひとだから。だからその変化を見逃さないようつぶさに見守っているのだがどうも姫様には誤解されているように思われる……。それでも己が嫌われようと、姫様の御身が第一であることには変わりない。それが姫付きの近衛騎士にできる唯一の仕事だと自負しているからだ。ともかく、姫様が寒さに震えていやしないかどうかだけが目下の懸念事項だ。
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