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    もずけ

    癖が強すぎたもの、書きかけのものなど、備忘録代わりです

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    もずけ

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    鯖モブ寮生視点 レオ監♀

    鯖モブ寮生は寮長の恋を成就させたい!!「オレ、監督生を部活の見学に呼ぼうと思うんだよね」

     ルームメイトがオレの発言に目を剥いた。やつは手にしていたグラビア雑誌を取り落とした後、さっと顔を青くした。

    「お前、そんなことしたら、寮長にボイルにされんぞ」
    「ちっげーよ! そういう下心じゃなくて!!」

     断じて違う。そもそもオレの好みは、もっと小さくてふわっとしてて、リスみたいでオレが守る!! って心の底から思えるような女の子だ。まかり間違っても、寮長相手に殴ってでも止めると啖呵を切ったり、あの人の協力を取り付けるために一晩中部屋の前で大騒ぎしたりするような女じゃない。

    「そうじゃなくて、ぶっちゃけあの2人もどかしいんだよ!」

     そうもどかしい。
     寮長は監督生のことを気に入ってるし、監督生も寮長に懐いている。でもあの2人がお互いに抱いている感情は、それだけじゃない。お互いがお互いを見つめる目が、どんなふうになっているか、一度あの2人は鏡を見て確かめたほうがいい。

     なのに、どうしてか、あの2人はそれ以上の進展を見せない。もどかしいなんてもんじゃない。どっからどう見ても両片思いじゃん! もう告っちゃえよ!! 誰も邪魔しねえよ!!! 何度そう思いながら、2人のほうをチラチラ見ていたことか。

    「だから、ここで一気に攻める」
    「誰が」
    「オレが」
    「なんで?」
    「くっついてほしいから!!」

     オレは寮長のことを尊敬してるし、ボスとして認めてる。だからあの人には、幸せになってもらいたいと思ってる。滅多に他人の幸せなんて考えないオレが、あの人にだけはそれを願ってやまない。

    「あのさあ……そういうこと、他人がとやかく言わないほうがいいぜ? 当人には当人のペースってもんがあるんだし」
    「わかってっけど! でも、これ以上のろのろしてたら、寮長研修行っちゃうじゃん!!」

     進級すれば寮長は学外研修へ行ってしまう。そうすれば、監督生と接する時間は自然となくなってしまう。そうなったら、2人の間の気持ちも冷めてしまうかもしれない。それはだめだ。絶対にだめだ。

    「いや、くっついたからって、遠距離になったら冷めるかもしれねえだろ」
    「バッカお前! 寮長がそんな甲斐性なしの男だと思ってんのか!?」
    「お前は寮長の何を知ってんだよ!?」
    「うるせー! とにかくオレは、寮長に幸せになってほしいの!!」

     はあ、とルームメイトはため息をついた。

    「案外さ、お前がああだこうだ言わなくても、上手くいってるかもしれないぜ?」


    「行かない」

     翌日の昼休み、オレが練習を見に来ないかと誘うと、監督生はあっさりと首を振った。なんでだよ! と叫びたくなる気持ちを、ぐっと堪える。

    「マジフトのルールは最低限しか知らないし、そもそも部員じゃない人間が見学に来るなんて、邪魔以外のなにものでもないと思う」
    「そんなことないって。それに、見たほうが細かい部分も覚えやすいからさ」
    「いや、いいよ。邪魔したくないから。誘ってくれてありがとう」

     監督生はひらっと手を振ると、グリムと一緒に帰っていった。

    「……おい、失敗してんじゃん」

     ルームメイトがオレをじとっとした目で見た。

    「まだだ。こんなこともあろうかと、もうひとつ策を考えておいた」
    「お前さ、なんでその頭の回転を普段使わねーの?」

     放課後、俺はわざと監督生の前でペンケースを落とした。後ろから「落としたよ!」という声が聞こえても、急いでいる振りをして聞き流す。さあ監督生、これから部活に行くオレにそれを届けに来い。そして、部活中の寮長のかっこよさを見ろ!

     だがペンケースを届けてくれたのはエペルだった。「監督生サンに頼まれた」と彼は笑いながら、オレにペンケースを渡してくれた。監督生、そうじゃない。


    「だから正攻法で行こうと思う」
    「いや、直接誘ったのは正攻法中の正攻法だろ」

     ルームメイトはもうこちらを見ることもしない。グラビア雑誌を眺めながら、気のない返事をした。

    「別にさ、来る気がないならいいじゃん。ほっとけよ」
    「だから、そこで怖じ気づいてたらあっという間に学年末になって、二人は離ればなれになっちまうの!」
    「それ、お前が心配することか?」
    「うるせー! とにかく、監督生だって部活で司令塔やってる寮長見たら、完全に落ちるはずだから! それくらい、部活中の寮長はかっけーの!」
    「まあ、寮長がかっこいいのは否定しないけどさ」

     はあ、とルームメイトはため息をついた。

    「それで? お前の言う正攻法って?」
    「手紙で呼び出す」
    「……普通、それを最初にやらないか?」
    「だって直接言ったほうが話早いじゃん」
    「まあ、そりゃそうだけど」

     監督生がお人好しなのは、オレも知っている。きっと手紙を受け取れば、約束通りの時刻にマジフト場に来るに違いない。


     オレの目論見通り、次の練習の日に監督生は、グリムを連れてマジフト場に現れた。何故かやたらと周囲を警戒しているデュースと、呆れた顔のエースも一緒だった。

    「やっぱりマジフトに興味出た?」

     オレは平静を装って聞いてみる。向こうは苦笑しながら、手紙を取り出した。

    「なんかこういう手紙が来たから、一応」

     オレの手紙だ。「次のマジフト部の練習日、マジフト場で待つ」とだけ書いてある。

    「因縁つけられた覚えはないんだけど……」
    「オレ様、決闘なら受けて立ってやるんだゾ!!」
    「真正面から呼び出さないなんて卑怯なやつだ。許せねえ」

     隣でデュースが憤慨している。あ、まずい。果たし状だと思われた。シンプルイズベストを狙いすぎたか。そういえば、宛名を書き忘れた。あれじゃ、オンボロ寮のポストに入れても、監督生相手なのかグリム相手なのかわからない。

    「いや、多分監督生に因縁つけたいやつは、マジフト部にいないと思うぜ」

     そもそもいたら、寮長にローストにされているはずだ。

    「だから言ったじゃん。絶対に果たし状じゃないって」

     隣でエースがため息をついている。

    「マジフト大会のリベンジかもしれねーだろ!」
    「そういうのは、お前が勝ってから言えよな。そもそもマジフト部とやりあってないでしょ」

     監督生は周囲のやり取りを苦笑しながら見て、手紙をポケットにしまった。

    「邪魔してごめん。帰るよ」
    「いや、いやいや! どうせなら見て行けよ! 今日は試合形式で練習するからさ。実戦見ると、もっとルール覚えやすいよ」
    「部員じゃないし、関係者でもないから」

     オレは必死に引き留めようとする。あああ、まずい! ここまで頑張ったのに!!

    「見学していけよ」

     オレの背後からぬっと影が差す。振り返れば、寮長が立っていた。サングラスをずらして、監督生のほうを見る。

     突然の寮長の登場に、監督生はぽかんとしていた。目をいつもより大きく見開いて、口は小さく開いている。ぶっちゃけていうと、かなり間抜けな顔だ。
     はっとした監督生は、すぐさま口を閉じた。

    「結構です。部外者ですから」
    「そう遠慮するなよ。興味があるんだろ?」

     寮長は上半身を屈めて、にやりと人の悪い笑みを浮かべた。監督生の背後にいるエースたちは、その様子をハラハラした様子で見ていた。

    「ほら、な! 寮長、っていうか部長もこう言ってるし!? ね!!」

     監督生は宙に視線を彷徨わせる。その間、オレの背後に立ったまま寮長は動かない。じっと監督生を見て、答えを待っている。

    「ええと、では、お言葉に甘えて」
    「最初からそう言え」

     寮長はくるりと踵を返す。それから「案内してやれ」とオレに指示を出す。

    「はい!」

     オレは一際大きな声を出してから、「じゃ、こっち!」と監督生を観客席のほうへ連れていく。グリムだけじゃなく、エースとデュースも着いてきた。あいつら暇なのか。

     歩きながら監督生はちらちらと競技場のほうを見ている。寮長は部員の一人に箒さばきを指導していた。

     観客席の最前列に案内すると、監督生より他の3人がはしゃぎ始めた。

    「にゃっはー! 1番前って最高なんだゾ!!」
    「え? こんないいところで見ていいの?」
    「プロの試合だったら、こんな良い席はまず取れないぞ」
    「いーよいーよ」

     やいのやいの言いながら、4人が席に腰を下ろした。

    「オレ様、ポップコーン食べたいんだゾ」
    「わかる! おいデュース、ちょっと買ってきてよ」
    「なんで僕なんだ!?」
    「おい、頼むからそれはやめろ」

     あーでもないこーでもないと騒ぐ俺たちをよそに、監督生はフィールドを静かに見ていた。視線の先に誰がいるのかは、確認しなくてもわかる。

    「かっこいいだろ、部活やってるときの寮長」

     オレに話を振られて、監督生は驚く。けれどすぐに、「うん」と頷いた。

    「そうだね。かっこいい」
    「だろ? 自慢の寮長で部長なんだよな」
    「わかるよ。あれだけかっこいい人が寮長だったら、自慢だよね」
    「そうそう。ホントに自慢。じゃ、好きなだけ見てって」

     オレはその場を素早く退散した。これ以上、監督生と一緒にいたら、寮長に誤解されてしまう。


    「あれ? 君らなんでこんなところにいるんスか」

     観客席の異分子に気付いたラギーは、箒に乗ったまま近づいていく。「どうも」と全員が、おざなりにならない程度に頭を下げてくる。

    「いや、まあ、なんていうか、成り行きっていうか」

     エースが頬杖をつきながら答える。

    「親切なやつが見ていけって言ってくれたんだゾ」

     あいつ、とグリムが指さす先には、同僚の後輩がいた。

    「レオナさんの許可とりました?」
    「取りました、ブッチ先輩!!」
    「ま、それならオレは別に良いんですけど」

     部長が許可をしたのなら、部員があれこれ言うことはない。ラギーはすっと去って行く。そのまま、グリムの言う「親切なやつ」を観察する。彼は監督生とレオナを、時折交互に見ていた。

    (なーんか余計な気、回してるっぽいんだよなあ……)
     
     ラギーはちらりと監督生を見る。エースたちと喋りながら、時折視線がフィールドを彷徨う。その先にいるのは、レオナだ。

    (オレだってちゃんと確認とったわけじゃねえけど、多分あの2人って)

     彼らの関係性は、もう変わっているはずだ。確固たる証拠はないが、雰囲気で何となく察せられた。

    (まったく、察しが悪いやつはこれだから)

     とはいえ、レオナはいつもより調子が良さそう、というよりも、やる気があるように見えた。そういった意味では、察しの悪いやつの余計な気の回しが、ファインプレーになっているのかもしれなかった。
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