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    うづきめんご

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    うづきめんご

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    2024年12月1日千奏オンリーの無配話でした!
    泉視点の千奏、2年生と現在です。
    スタライ9thの前ナレでパーン!ってなって書きました。
    お手に取って下さった方々ありがとうございました💙

    Blue eyes 正直、俺は一気に夢ノ咲のトップに躍り出た『五奇人』とやらの人と成りをよくは知らなかった。
     それどころじゃなかった、と言うのが一番。あの頃の俺は、自分のこととレオくんのことでいっぱいいっぱいだった。否、自分のことばかりだったのかも。衝突と分裂と離脱を繰り返すユニットの中で、自分が両足を地面につけて踏ん張るのが精一杯だった。
     だから、天祥院が起こそうとしていた大きな流れのことなんてそこまで深く考えていなかったし、「なんで?」と叫んでいる間に全てが終わっていた。
     当然、外野の連中のことなんてよく知らない。
     その中で、斎宮のことは何度かレオくんと話しているのを見かけているから知っていた。やたら熱心に議論をする姿は、その他の人たちの会話も比べたらだいぶ仲が良さそうに見えた。取っ組み合いの喧嘩を始めそうになった時はひやっとしたけど。
     あとはやたら声がでかいやつがいるなだとか、一人だけ下級生がいるらしいだとか――ああそう、朔間零という人物のことは耳をふさいでいてもいやというほど耳に入ってたかな。

     で。深海なんだけれど。本当にあいつのことはよく知らなかった。進級当初は同じ教室に五奇人がいるとクラスメイトたちもざわついていたけれど、深海は登校してきてもほとんど噴水に居て、教室の中に収まっている時間のほうが圧倒的に少なかった。そんな状態だから、俺は深海が同じクラスだなんていう認識はほとんどなかったし、たぶんクラスメイトたちの中でもいつしかそうなっていたんだろう。
     対して守沢は。いつ登校してきてもクラスにいる、やたら出席率の高いやつ。目立たない、地味なやつ。そんな印象だった。あえて関わろうとしたこともない程度の。
     一見、別々の道を歩んでいるように見えた深海と守沢の生活が交わり出したのは、いつの頃からだっただろう。
     気がついたら深海は頻繁に登校するようになっていて、守沢は今までの陰キャな雰囲気がどこへ行ったのやら、やたら元気に挨拶をしてくるウザいやつになった。いつの間にか眼鏡キャラもやめたみたいだし。
     そして、馬鹿みたいに二人でいるようになった。学院の支配者は既に生徒会に移り変わっていて、圧倒的な存在感と人気で夢ノ咲の構図を急速に塗り替えている。あっという間に五奇人は過去の人へ。教室で楽しそうに話す二人に、あえて絡もうとする人もいない。
     新たな栄光の隅でひっそりと消えていく古びたものたち――にしては、守沢と深海の姿が俺の目には輝いて見えた。
     なぜなら、その頃の俺の隣にはもうレオくんが居なかったから。絶対に信頼できる誰かが隣にいて、その人と笑い合えることがどれほどの奇跡なのか、俺は知ってしまっていたんだ。俺の失くした光を手に入れた二人を、俺は直視することができなかった。

     そんなある日。いつものようにうざいくらいに明るい声が聞こえなくって、深海が一人でポツンと席に座っていることがあった。そういえば、今日は朝から守沢の姿を見ていない。全身ずぶぬれの深海から滴る水が、教室の床に水溜まりを作っていた。

    「――今日、守沢は?」

     関わる必要なんてないのに、気がついたら俺は深海の席まで行ってそう問いかけていた。
     深海は俺のほうを向いて、驚いたように瞬きをしてたっけ。そうだよね、それまで話しかけたことなんてなかったもん。なんでだろうね。当たり前に隣にいた誰かを失って戸惑っている様子が、自分と重なって見ていられなかったのかもしれない。

    「おやすみ、といっていました。おやすみということは、『いない』ということですね……?」

     なにこいつ。初めて深海と会話をして抱いた感想は、確かそんな気持ち。
     だけど。いない守沢を探すように教室をキョロキョロと見回す迷子の表情を見てしまったら、どうしても放っておくことができなかった。友達でもないやつのことなんて、放っておけばいいのにさ。俺はその時、ポケットに入ってたハンカチを深海に差し出したんだよね。

    「とりあえず、顔回りだけでも拭いたら?」
    「――」

     深海は、しばらくハンカチと俺の顔を交互に見ていた。顔を動かす度に、髪の毛の先からまたポタポタと水滴が落ちていく。

    「――!」

     ようやく状況を理解したらしい深海が、表情をぱぁぁぁっと明るくした。それこそ電気が点いたみたいに、一気に。

    「ありがとうございます! ……ええと?」
    「同じクラスの、瀬名泉。あんた、クラスメイトの名前くらい覚えな――」
    「いずみ! おみずの『なまえ』ですね! だから、あなたの『め』もきれいな『あお』なんですね~?」

     まるで新しいおもちゃを見つけた小さな子供のようにキラキラした瞳で、じっと俺の目を覗き込んでくる。
     あ、しまった話しかけるんじゃなかった。って思ったのはあとの祭り。その日は放課後までずっと、深海の質問攻めみたいな会話に付き合うことになった。放っておけばいいのにって思った。でも、脳裏に存在する誰かさんと重なってしまって、俺は無垢でキラキラした深海のことを、どうしても無碍にはできなかったんだ。――笑っちゃうでしょ。

    「やあ! 奏汰から、昨日は瀬名がハンカチを借してくれたし楽しくおしゃべりもしてくれたと聞いたぞ!」

     そして、深海と関わっちゃったら守沢と関わることになるのも必然。次の日、守沢が深海の手を引っ張りながら俺の席までやってきて、あの騒がしい声でそう言った。
     しっかり手まで繋いじゃってさ。何なのそれって思ったよね。

    「瀬名は、優しいんだなあ!」
    「――優しくないよ」

     とっさに、口からそう出ていた。
     だって。俺がもっと優しい人間だったら、きっとKnightsはこんな結末を迎えていなかった。戦うための刃で自分を傷つけることなんてなかったはずだし、そもそも刃を持つ選択をしなかったかもしれない。もう、今更言ってもしょうがないけれど。
     俺はいつ終わるかわからない戦いに身を投じて、死にかけの王国を守ることしかできない。ねえ、どうすればよかったんだろうね。

    「あ、かおる~」

     そんな俺の胸の内など知りもしない深海が、教室に入って来た人物に気が付いて無邪気な声を出した。
     名前を呼ばれた――羽風は、あからさまに「げっ」という顔をして深海の姿を見た後に、一緒にいる俺の姿を見つけて驚いたような表情をした。まあ、それまでこの二人と居たことなんてなかったしね。こっちも、羽風が学院に通ってきている姿をあまり見なかったし。

    「あれ? 奏汰くん、守沢くんだけじゃなくって、ええと……瀬名、くんだっけ? も誑かしたの?」

    「えへへ~」
    「奏汰は悪いやつだなあ、こいつぅ☆」
    「いや、あんたたちそこは否定してよ」

     ウザい人たちと関わりができちゃったなあ、面倒くさい。なんて、うんざりしてた気がする。
     まさか。くだらない会話をするような気の置けない関係になるとは、この時は全く予定していなかったもんね。

     そんなこともあったなあ、なんて思い出していた。
     ライブ前の場内ナレーション。なぜか深海と二人で務めることになっちゃて、なんとか無事に終了して一旦裏に引き上げた。そうして楽屋に入った瞬間に、深海がぎゅっと俺のことを抱きしめてきたのだ。

    「ああもう、苦しいってば!」

     腕の中から抜け出そうと思っても、深海はびくともしない。こいつ、そういえばこう見えてけっこう腕力があった。なんで知っているかって? 学生時代に腕相撲大会に巻き込まれたの。
     必死な俺とは対照的に、深海はニコニコ笑うばかり。

    「ふふふ。いずみ、さいきんは『かいがい』ばっかりだったので~? ひさしぶりにあえて、うれしくなっちゃいました~♪」

     確かに。ライブが始まったらしばらく日本に滞在しなきゃいけなくなるから、向こうの仕事は粗方まとめて片付けてきた。そのぶん、直近の国外滞在は少し長めだったのだ。

    「ほら、あんたには守沢がいるでしょ! 妬かれる前に離れなよ!」

     久しぶりに会えて嬉しい、という好意は素直にこちらも嬉しい。だけれど、素直という言葉とはあまり縁がない俺はあくまでも深海を引きはがそうとする。
     そんな俺たちを笑いながら見ている、守沢のほうに向けて。

    「はっはっは☆友と友の美しい抱擁だぞ! 妬くわけがないじゃないか! はっはっは☆」
    「――」

     いや、目が笑ってないんですけれど。
     あの日、俺が羨ましく見つめていた眩しい二人は、いつの間にかやかましいバカップルへと進化していた。
     バカップルだけならまだしも、最近妙に所帯じみているのはどうかと思う。まあ、こいつらが苦労してきたのも知っているから、あれこれ口うるさく言うつもりはないんだけれど。
     そんなことを考えていると、ふと深海がにっこり笑った。
     ちょっと含みのある笑顔が、底知れなさをかんじさせて恐ろしい。

    「たしかに。ぼくばかりだきついていたら、うらまれてしまいそうですもんね~?」
    「は?」

     わけのわからないことを言いながら、深海はそっと体を離した。

    「ぼくには、ちあきがいますので~?」

     いや、知ってるってばそんなこと。
     俺は、手を広げて深海を待っている守沢と、その腕の中に迷いなく飛び込む深海を見てどこかほっとした気持ちになった。この刃を持っている限り俺は戦うんだろうけど、やっぱりきらきらと光っていた二人にはいつまでもうざったいくらい光っていて欲しい。眩しくって、思わずこっちも笑っちゃうほど馬鹿みたいに。

     その時まさに四人分の重みが背中にのしかかってこようとしていることなんて全く気が付かずに、俺はそう思ったのだ。
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