オズ→シリ 右手に月を、左手に太陽を。
陽の光を忘れた暗い夜空には恒星を。
四六時中が白夜状態のロストガーデン。ネオンの光が落ちる地面を進む足取りは、いつの間にかワルツのリズムになっていた。
この高揚感は、まるで秘匿されていた骨董品をオークションでセリ落として我が物とした時のよう。最初は黙って付いてきていたシャムスも、普段とは違う様子にさすがに怪訝な顔を隠さない。
「――ずいぶんと機嫌がいいじゃねぇか」
「ふふ。そう見えるかい?」
実際ノヴァと対話してからのシリウスを支配している感情は、愉悦。
かつて、この世で一番シリウスの感情を揺さぶった人が作り出したもの。それが人智を越えた形を成し、今なお成長を遂げている。この気持ちが愉快じゃなければ何なのだろう。
天からの授かりものを人に転移する術を手に入れた神は、その力で次は神に近い人間を作ろうとした。何度も繰り返されたその実験は成功することなく終わった――と聞いていたのだが、どうやら目的は達していたらしい。
聞こえているだろうか、神の力を手に入れようと藻掻いて死んだ男よ。きみが生み出した子が天への階段を上り始めている音が、ビッグバンが起こる前兆が。
「生きていると、想像を超える何かが起きることもあるものだね」
歌うように紡いだ言の葉を常夜の喧噪に溶かしながら、シリウスは上を見上げた。そこには空などない。地下の楽園には人工的な光が灯る天井が広がるのみで、心は清々しいのに大空を覚えている体だけが少し息苦しさを感じていた。
右手に月―シン―を、左手に太陽―シャムス―を。
陽の光を知らないロストガーデンの宙には一等星―シリウス―を。
極星を見失った哀れな男へは、鎮魂歌を。