タブーな夜のキスのあと 生のライブとは、非日常の独特の雰囲気と高揚感をオーディエンスにもはもちろん、ステージ上の演者にももたらすものだ。
だからテンションが上がって『うっかり』行った度が過ぎたファンサになど、大した意味も理由もない。そう。意味はないはずだし、気に留めるほどのものでもないはずなのだ。だけれどその『うっかり』さんであるカミュはとてもタチが悪く、蘭丸を煽るだけ煽ったくせにライブが終わればいつも通り涼しい顔をして嶺二の運転する車に乗り込み。そして何事もなかったかのように、蘭丸の隣で嶺二と藍の会話に耳を傾けている。
先ほどはアイスブルーの瞳に蘭丸だけを映して、蠱惑的に光らせ燃えそうな熱を灯していたというのに何たること。しかも、車に乗り込んでから一度も蘭丸のほうを見ようともしない。
「――」
カミュはいつも通りウザ絡みしてくる嶺二のことは適当にあしらっているし、藍の問いかけには嬉々として応えている。嶺二はともかくとして、相変わらず藍には甘いものだ。蘭丸とカミュの間だけキャッチボールがない会話の中で、時折気が付いたように嶺二が二人の間の橋渡しをするかのように話題を繋ぐ。余計なことをしやがって、と蘭丸が睨んでも彼はどこ吹く風。
そんなやりとりとステージ上で起こったすべてを『何もなかったこと』に済ませようとしているようにも見えるカミュの態度が、妙に蘭丸の癪に障った。
「てめぇ、覚えてろよ」
夜の気配と熱気を含んだ重いハスキーボイスはカミュにだけ聞こえるように声量を抑えたつもりではあったが、嶺二が好むこじんまりとしたビートルの車内では思いのほか鮮明に他の二人の耳にも届いたらしい。
「――ランラン」
咎めるように名が呼ばれる。チラリとオッドアイを動かすと、バックミラー越しに呆れたような表情の運転手が目に入った。別に蘭丸とカミュとの間に何があろうと隠す相手ではないが、未成年の藍が一緒だからしっかり『お叱り』が飛んでくる。
うるせえ。と一瞥してから、蘭丸は変わらぬ態度を貫くカミュの手に触れた。膝の上に置かれた白く整った手の甲の骨格の筋を撫で、そのまま薄手のスラックスに包まれた太腿を、シルエットを確かめるように丁寧に愛撫していく。
「――っ!」
悪戯な指先が内股に迫った瞬間に、思わずといった風にカミュの身体が反応を示し、腰から跳ねた。アイスブルーの目が鋭く尖り、意地が悪い乱暴者を睨む。
その様が酷く愉快で、蘭丸はクツクツと喉を震わせて笑ってやったのだ。