湯気の立つ/ゆっくりと/身体の芯から朝、食堂へ向かう途中でバニラのような蜂蜜のような甘い香りがかすかに香った気がした。海賊船にあってそんな香りをさせる男などいるはずもなく唯一の女船員の顔が浮かんだベックマンは自然と周囲に彼女の姿を探していた。
「ベック、何か探してる?新聞なら食堂のテーブルにおいてあったよ」
背後からかけられた声にその香りが一層強くなったのを感じてやはりこの香りの元は彼女だったのだと確信を得る。
「いやもう見つけた」
「そう?ならいいけど」
「あァ、おまえさんをな探してた」
「なんで?」
正対した彼女を外套の中に迎え込むとベックマンはそのまま彼女を隠すように抱き込める。幾分か低い位置にあるその細い首筋に甘えるようにすり寄るとベックマンは呟く。
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