狂い咲く花は風を乱吹く11「おのれクリシュナぁああ“ッッッ!!!」
戦場で血を吐くような怒鳴り声が響き渡った。
「よ“、くも“…っ、よくも正しい英雄ビーマセーナを誑かし、アダルマ(非行)を犯させたなッ!!!」
顔を踏み付けられて、視界はもうない。が、そこにクリシュナが笑っているのは解る。
「アダルマ?これは戦争だぞ?公平も正しいもないだろう?まさかお前のような男に戦士の誇り等が与えられると思うか?」
クリシュナは青ざめて固まっているビーマを見た。
「思い出せ、ビーマセーナ。この男がお前とお前の家族に何をした?お前の愛する妻に何をした?お前の息子に何をした?この悪党に「正しさ」など与えるな。情を浮かべるな。なるべきしてなったのだ。この男のカルマだ。」
ぞろぞろと自分から足音が遠ざかるのが聞こえる。
「…おい、ビーマ。わし様を、わし様にとどめを刺せ。せめて、せめて戦士として葬ってくれ…」
ドゥリーヨダナの最期の哀願にビーマはピクリとするが、それをクリシュナは止めた。
「止めよ、ビーマセーナ。その男に戦士としての死はいらぬ。このまま捨て置け、獣どもの餌にしておけ」
「……」
「ビーマ…っ!!」
ドゥリーヨダナの声は虚しく響く。
ズキリ
ああ、唯一勝ちたかった、殺されるのなら殺されたかった、この英雄にも自分は戦士としての誇りを踏み躙られるのか。
ならば
「…ふふ、…はははははははははハハハハ!!」
気でも狂ったかとパンダヴァはドゥリーヨダナを見る。
すると空から美しい光がその敵を照らし、花弁が舞い降りた。
美しく悍ましいその光景に五皇子は恐怖した。
「愚かな、愚かな憎きパンダヴァ共!!良いだろう、良いだろう!貴様らにこの大地をくれてやる。この荒れた、たくさんの命が刈り取られた、ボロボロのこの地を貴様等にやる!それに比べ、わし様は友達と弟達と共に楽園のような天国で貴様等がこの壊れた荒地を統治するの見下ろし、笑ってやろうではないか!!アハハハハハハハハ!!!!!」
恐怖で固まったパンダヴァに早く帰ろうとクリシュナは押した。
そのまま、戦場には一人、ドゥリーヨダナだけが取り残された。
>>>>>>
「待ってくれ、スヨーダナ!!!」
やっと会えた
今度こそ、今度こそやり直したい
ドゥリーヨダナになる前のスヨーダナであれば、きっときっと今度こそ
風神の力でスヨーダナを追うが、何故か追いつけない
ビーマは必死に手を伸ばすが、届かない。
「?!」
気がつけば首都を出て、荒野に戻ってしまった。
その時に巨大な気配がビーマの方へと向かっていた。
ゴオオオオオオオオオ!!!
悍ましい咆哮をあげるそれは、今まで見た中で大きなカリだった。
「チッ」
ただでさえ、スヨーダナに追いつけなくて苛ついてたビーマは父神より賜った旗槍を取り出して、その巨大な悪の化身を思いっきり串刺した。苦しそうに暴れるカリをビーマは蹴り地面に叩きつけると、思い切り尻尾を引っ張り千切りとった。
がああああああああ
「うるせぇぇんだよッ!!!邪魔だ!!!!」
断末魔を上げるカリをもう一度腹を串刺しにすると今度は足を手を、まるでぬいぐるみのように千切り取った。
激痛にバタバタと暴れるカリだったが、暫くして諦めたのか、大人しくなってしまった。その様子にビーマは笑った。
「はっ、物分かりの良い害獣だ、な!」
ザシュ
ビーマはカリの首を斬り落とした。完全の肉塊になったのを確認すると、そのまま前へと進む。
「スヨーダナ!」
ビーマは追跡を再開した。
>>>>>>
「!!…」
「おや、どうなさったのかな?人類最後のマスター」
藤丸立香は小さな違和感を感じた。
それは自分と繋がっていた何かがプツンと切れた感覚。
まるで契約していたサーヴァントが退去する時に感じる感覚にとても似ていた。
しかし、何故かその感覚はいつもよりも小さく感じた
「だ、ダ・ヴィンチちゃん…!さっき、なにか」
ダ・ヴィンチの返答が来るまで、時間が掛かった。
『…ドゥリーヨダナのパスが、切れてしまってる』