狂い咲く花は風を乱吹く19『ビイマぁああああああ“あ“あッーーーーー!!!!』
まるで呪うかのような痛々しい咆哮が通信から聞こえた
ビーマはダヴィンチの方を見ると、後ろにはアッシュヴァッターマンとカルナが今でも心臓を串刺しにするかのようにこちらを睨んでいた。
『よくもッ!!!よくも…!!!旦那を!!!!我が王を!!!!!』
アシュヴァッターマンの端整な顔が怒りで酷く歪んでいた。黄金の双眼からは血が滲んでいて、その怒声はまるで嘆いている様にも聞こえる。
カルナの方を見ると、こちらはそれほどまでに怒りの感情を表してはいなかったが…怒りは確かにあった。
『ブッ殺す!!!カルデアに帰ったら即ぶっ殺してやるああああ!!!!!』
『…ビーマよ、覚悟しろ』
生前より強い殺気を放つカウラヴァ陣営にアルジュナは青い顔でただただ静かにしていた。
「……」
今まで見たことがない二人の怒りに藤丸立香は狼狽えた。
「…マスター、すまねぇ…」
ビーマの顔が影で見えなかった。
「び、ビーマ…」
いつも元気なビーマが不気味な程に大人しくなってしまい、マスターは心配した。
しかしこの状況に解決法は思い浮かべなく、無いのかもしれない。
「…ビーマ君」
「「!」」
その存在に気がついた立香とビーマは振り向く。そこには見覚えのある男と見覚えのない幼女がいた。
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「…どういう意味だ?」
ドゥリーヨダナの問いにマーリンはにっこりと微笑んだ。
「今の世界には地獄も煉獄も冥界も天国も…全て無くなっているんだ」
ゴミを捨てるゴミ箱が無ければ、そのゴミは何処に捨てればいいだろう?
人類最後のマスター、藤丸立香は現在廃棄孔の役目を不本意に無条件で承っていた。
それはつまり
巨大なこの特異点。
解決してしまえばそれは廃棄孔(藤丸立香)に捨てられてしまう
ただの人間の、幼き凡人の子供が抱えるには、それは大きく重いものだった。
あまりに哀れで、世界はそんな子供にも厳しくて
(何故、どうして…世界はあの娘を苦しめる…っ?)
「それでだ、ドゥリーヨダナ。花と金剛石で神々から作られた人口削減機構。君の機能の一つに「悪性情報を浄化」機能があるんだ。」
魔性を持つ百王子が長兄ドゥリーヨダナ。
パンダヴァ側(正しい)につかない(正しくない)人間を虜にし、その魂を戦場で散らせた。刈り取られた「悪」の魂を浄化し、そのまま神々の元へと送る。
創造主共はきっとこの画期的デザインに自己自賛してであろう。
なんて腹立たしい事、この上なし。
「…しかし、そのおかげでマスターへの負担が下がるという事か」
「このまま特異点が修正されてしまえば、今度こそ何らかの影響が現れるだろう。巌窟王の炎だけではきっと対処できない」
サーヴァント達の間で噂には聞いていた、藤丸立香の精神をフォーレナーサーヴァントの少女と共に守っていると。
「会った事はないが、そうか、そうか」
ドゥリーヨダナの声色に少し安堵の色があった。
その様子に気がついたマーリンは優しく微笑む。
「やはり…君もマスターの事が大切なのだね?」
「は?当たり前であろう。召喚者だぞ?」
「そうじゃない。いや、それだけじゃないと言おうか?」
「……」
君がマスターにバレンタインに贈ったあの品
高級で高質の色彩も素晴らしいあのストール。
王族であるドゥリーヨダナからであれば納得だ。
「でもあの品じゃなくても良かったんじゃないかい?君の友達のようにアクセサリーや宝石でも」
しかしドゥリーヨダナは「それら」を選ばずに、贈ったのはストール。
将来、
人類史がもと通りになり
マスターの普通の、平和な日常に戻り
愛する者と結ばれ、子供ができた時に使えるように
そんな未来がこの娘にと
自ら選んだ愛する者と幸せな結婚をしてほしいと
ドゥリーヨダナは心から祈った
「…さぁな、覚えておらん」
「はは、そうかい」
マーリンは作り笑顔ではなく素の微笑みを溢した。
「…して、どうやったら「浄化」できるのだ」
「何もしなくていい。君はただ此処でいるだけでその機能は自動に発動するよ」
「そう、か……それではお前は何をしにここに来たのだ?」
何もしなくても発動するのであれば、見捨てればいいものを
「同じ「花の嘉」、最後に君の願いを叶えようと思ってね」
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「ヴィカルナ…」
「えっと…あなたは百王子の人?」
ドゥリーヨダナの宝具で出現する服装の弟の一人だという事は分かった。
『ヴィカルナは百王子の末弟だね。唯一百王子の中でパンダヴァと関係が良好だった。そして彼が抱えている子は…百王子の妹のドゥフシャラーちゃんかな』
「妹?ヨダナ、妹ちゃん居たんだね。二人とも、こんにちわ初めまして」
藤丸立香の挨拶に静かに頷くと、ヴィカルナは腕にいた妹をそのまま流れるようにマスターに渡す。妹が安全な場所に移動したのを確認すると、ビーマの方見た。
眉毛を下げたビーマはヴィカルナの方を見る。ずかずかと相手はこちらに歩き出し助走すると、思いっきり重い拳をビーマの顔面に向かって放たれる。
「ビーマ!」
マスターの心配の声が聞こえる。殴られたビーマはそのまま地面に倒れた。
「てめ、ヴィカルナ…何をっ」
「…ああ、そうだね。君は悪くないかもしれない…でも正しくもないよ。
何が正しくてかっこいいだ。君も僕等と大して変わらないじゃないか」
「……。…それは、誰が言ったんだ?」
ビーマの問いにヴィカルナはため息を吐いた。
「兄上に決まってるだろ」
「……ぇ」
「君の前では絶対に言わないけど、いつも俺達の前で散々ほざいていたよ」
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俺の夢
俺の憧れ
俺の運命
俺の終わり
…愛してる
嗚呼、愛してる
今まで無視していた想いを認める
自分はこんなにもあの男が、ビーマを想っていたんだ
『なんのことだ?』
『目障りだ、消えろ』
『…邪魔だ』
あいつにとって俺はそこらへんに落ちてる石っころであっても
どんなに捨てようと捨てられなかった、俺の大切な大切な想い
「本当に、そんな願いで良いのかい?」
「………軽蔑するか?」
「まさか、しないよ。すまなかったね、それでは貴殿の願いをこの魔術師が叶えよう」