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    やきが氏

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    やきが氏

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    エルフのお客さんのあと推しへの妄想が止まらない



    「弓矢で鳥を射るより、突進してくる四つ足の肉を剣で捌いた方が確実なエルフっていうのは、エルランドさん、あんたのことか?」
    ラーシュは会うなりそう聞いた。
    60日ぶりくらいのドラン冒険者ギルド。
    不死鳥のメンバーとは受付付近でまた明後日な、と別れてきたところだ。

    「???ええ、まぁ、そういうふうに思ってはいますが、いったい何の話ですか??」
    エルランドは椅子に縛りつけられたまま、両の肩にラーシュの両手をがっしりかけられた今の状況に珍しく目を白黒させている。
    入口横の机に着いていたウゴールも首を傾げている。
    「茶色のくせ毛ちゃんからエルフのお客の話を聞いた時、もしや?と思っていたんだが。」
    「………えっ?」
    「じゃあ、この話間違いなくエルランドさんのことなんだな?」
    「えっ……え?…………あ!?
    あの時の女性、くせ毛ちゃんだったんですか??
    ……どうりで…なんだか知ってるような容姿だと思った……」
    「………」
    「その、え?ラーシュさん。
    どういう感情の顔なんです?それ。
    見たことない‪‪‪w‪w‪w
    可哀想な顔になってますよ‪‪‪w‪w‪w
    あのですね、私あの時本当に本当に疲労していましたし、先様に寝台共にする女性を用意されてしまっていたことも知りませんでしたし。
    果物の香りのするお茶を二杯だけ一緒に飲んだあと、朝まで死んだように寝ていただけですよ??
    彼女には指一本触れていませんし、………
    あ、嘘です。
    指一本どころか顔が埋まってたかも。
    でも私の意識のない場所で埋まってただけですからね??」
    「すまない…そういうことじゃないんだ…。
    本人確認したかっただけで、別にそれにつ
    いてなにか思ってるわけじゃない。
    だいたい商売女独占したいなんて馬鹿な考え持ってないぜ…
    うはぁ……ただ、ちょっと、自分でも思ってもみない方向で動揺しちまっただけだ。」
    「そうですか?」
    「若いがいい女だっただろ?
    顔も可愛いし何より」
    平素らしからぬ口数の多さに自分で動揺しつつ、どうにか落ち着こうとしてさらに喋り始めたラーシュの後ろ頭が、
    ペスっと書類の束で叩かれた。
    「…あ、」
    「依頼の時間は始まってますよ。」
    ウゴールが呆れた顔で立っている。
    ラーシュは今頭の中でぐちゃぐちゃに自分を支配しそうになっている感情にウゴールの呆れ顔で蓋をした。
    「申し訳ありません。
    変に浮き足立っていました。」
    「いいえ、…馬鹿マスター。」
    「ん?どうしたの?」
    「聞いていませんよ。」
    「何を…あ、そういう接待受けちゃったこと?」
    「そうです」
    「モイラ様に説明するのに骨が折れて君に言ってなかったかぁ、ごめん。」
    「まったく。
    それで、モイラ様にはなんと説明を?」
    「部屋に通されたら若い女性が1人居て、商会の気遣いで朝まで望むままにお相手をと言われたって言うから、それなら仕方ないから朝まで居ていいですけど。と言って私は寝台の端っこで先に寝ました。
    帰れと言ったら可愛そうですしね。」
    「なるほど。」
    「そもそもあれだけ疲れさせておいてそんな気起きるわけないって言うか…そんなつもり微塵もなかったからちょっと頭を切り替えられなくて惜しいことした気もするけど。
    …朝になって目が覚めたらふわっっふわの肉に顔埋めて寝てて脳みそがふんわりしちゃいましたけど、服越しだったし私どちらかと言えば尻の方が好きだなとは思いましたよね。
    というかそもそも好きとか嫌いの前に、雌の匂いはいい匂いですしね。
    よく眠れました。」
    「モイラ様には全部言ったんですか?」
    「前半だけしか言ってないよ。」
    「……まぁ、いいでしょう。
    それで?ラーシュさんはその女性とはどういう?」
    「…ただの客です」
    「ああなるほど。」
    「起き抜けに肉に顔埋めてただけで、ほんとに素肌に触れたりはしてないですよ?
    …そもそもいつあの体制になったんだろう…?
    ともかく、覚えている限りでは
    突進してくる肉の話とかしかしてないです。」
    「いや、だから、そりゃどうでもいいんですよ。
    嫉妬とか、羨ましいとか言う気持ちは全くないです。」
    「じゃあなんの顔なんです?それ。」
    「………わからん……正確にはまだ考えてるからわからん…です。
    とりあえず置いといて、
    今は真面目に仕事に就きたいと思います。」


    一昨々日
    茶色のくせ毛ちゃんを指名して楽しくちゅっちゅした後、何気ない話の中で、そういえば、と笑いながら話された。
    あまり他のお客さんのこと、話したくないんだけど、と前置きして。
    この間初めてエルフの男性を間近で見たこと。
    とても綺麗な髪だった、お金を頂いてたのに、なんにもせずに寝てしまったの。と。

    とってもいいお宿に行かされて、ちょっと気を張っていたのに、髪型もお化粧も少し年上に見えるように店の姉さんに手伝って貰ったのに。
    そんなの見もせずにお茶を飲んでおしゃべりして寝ちゃったの。と。

    変わった客もいたもんだと、話を聞いてそう思った。
    そしてすぐに自分の知っているエルフを思い浮かべた。
    ただ、こんなに小さな街に来るだろうか?とも思った。
    それにタダだったらちゃっかり美味しい思いしそうな気もした。

    エルフって、弓矢を使うものだと思っていたのに、剣を使うんですって。
    お名前は聞いたけど忘れちゃった。
    でも。

    彼女はラーシュの腕に柔らかい腕を絡めたまま彼を見上げて笑った。

    あなたの行き先と同じ、ドランの人で、元冒険者って言ってたわ。
    一番乗りが好きだから、弓なんかより剣がいいって言ってた。
    よく分からないけど武器ってそうやって選ぶものなの?
    鳥を弓で落とすと拾いに行くまでに他の動物に取られちゃうかもしれないから、突進してくる肉を剣で捌く方がお夕飯食べ損なうことがないからいいって……
    突進してくる肉って、なんの動物?

    彼女の口からそのエルフのお客の話が出れば出るだけエルランドの姿が浮き彫りになる気がした。

    お茶も自分でいれようとしてたから慌てちゃった。
    なんにもしないんだからお茶くらい入れないと申し訳なくて…
    うふふふふ、エルフだから何歳か知らないけど、茶器を両手で持ってフーフーしてる男の人、初めて見たわ。

    もう完全に、エルランド以外考えられなかった。
    むしろそんなエルフの男が他にいたら知りたいくらいだ。

    そのエルフの人ね、自分のことお客さんとの話のネタにしてくれていいって言ったのよ。
    ほんとは職業と立場も教えてくれたんだけど、それはさすがに言わない方が良さそうだから、その人から聞いたお話だけ。
    …他の人には…、お店の姉さんたちにもあんまり言ってないの。
    だって高いお代金頂いてふかふかのお布団で寝ただけだもの。
    僻まれちゃう。
    あなたからは他のお客さんのこと、なんにも聞かれたことがなかったから思わず喋っちゃった…。
    誰かに話したかったんだもの…
    仕事はなんにもさせて貰えなかったけど、寝てる彼の髪の毛を三つ編みにしちゃった。
    サラサラでとっても綺麗な金髪だったんだもん。
    全部で四本編めたわ。

    楽しそうに笑う彼女を見下ろしながら、
    知らない感情が体の中で膨張して爆発するかと思った。
    端的に言えば興奮した。
    そしてそのエルフは絶対エルランドだと確信した。
    もし違ったとしてもエルランドであって欲しいとも思った。
    爆発する寸前まで膨らんだ感情を言葉にするなら、

    その場面を見たかった

    その一言に尽きる。
    それがなんという感情かラーシュは知らない。
    なんと表現していいか分からない感情で口から火を噴きそうになるのは生まれて初めてで、思わずぎゅっと彼女の腰を抱き寄せた。

    あ、ごめんなさい、他の人の話ばっかりして。
    嫌な気持ちになっちゃった?

    「いや、そんな気持ちにはなってない。
    ただ…想像したら可愛くてびっくりしただけだ。」

    エルランドの髪を三つ編みにしただろう手の平にちゅっと口をつけてそういった。


    可愛いお気に入りの女と、
    エルランドが、同じ空間にいた可能性が…??

    昼間は限りなく締め切っている堰(せき)が、女とイチャイチャした後ということもあり、煩悩の増水を止められずに切れてしまいそうだ。

    好きなもの(かわいい女)と好きなもの(エルランドの顔(主に目元))、どちらもラーシュの煩悩の堰を簡単に引き開けてくる。
    女相手には塞き止める必要がないので開けっ放しだし、エルランド相手には一度開けてしまったので開けやすくなっている。
    そのふたつがどちらも開きっぱなしになってしまうと、煩悩の濁流が混じりあってしまう。

    端的に〈推しが揃って尊い〉という気持ちに近いのだが、ラーシュの語彙にそれは無い。
    真面目な性質から、秀麗で強い年上のエルフと、可愛いふっくらした好みの女を両腕にはべらせたいなどという下衆な妄想にも至ってはいない。
    単純に脳内で、眠っているエルランドの髪をこの可愛い女が編んでいる所を想像して
    〈推し過多〉の心境に至ってドキドキしてしまっただけだ。
    そう、とてつもなくドキドキしてしまったのだ。



    「…あの…ラーシュさん…」
    珍しく気遣わしげな声のエルランドに呼ばれてラーシュはハッとする。
    ハッとすると同時に呼ばれた理由がわかった。
    慌ててエルランドが差し出している手にカップに注いだお茶を渡した。

    死んだ目のエルランドからお茶を入れて欲しいと言われ、湯を沸かしたり茶葉を用意したりと動き回って、いざカップに注いだところでぼんやりしてしまっていた。
    お茶を心待ちにしていたエルランドが、ありがとございますと差し出した手にいつまでも渡してくれないので訝しまれたのだ。
    ウゴールの元にもお茶を運び、エルランドの後ろに戻る。
    「本当に大丈夫ですか?ぼんやりしちゃって。」
    「申し訳ありません。」
    なんにせよ、仕事中に気が抜けるのは本当に良くない。
    信用問題だ。
    とは言え、
    「この茶葉、新しいですね。買ったばっかりなのかな。」

    片手でお茶を飲み片手に羽根ペンを握るエルランドを見ながら、両手でフーフーはしないのか…と少し残念に思った。
    「……あの、何か言いたいことがあるならどうぞ?」
    あまりにじっと見たからか、エルランドが少し振り返って聞いてくる。
    「いや、別に何もありません。」
    「そうですか?」
    「はい。
    それより、さっきから副ギルドマスターが次の仕事をこの机に置きたくてチラチラ見ているので残りを片付けた方がいいと思います。」
    「えっ、ちょっと早過ぎない??
    …ラーシュさん、ちょっとこれ計算しといてください。」
    「は??」
    「確認の署名は済んでますので左の項目足して合計があってるかもう一度確認するだけでいいです。」
    「待て待て!それはオレが最終確認していいものじゃないだろ!
    なんのための最終確認項目なんだよ!
    他のにしてください。」
    「……そうだった…じゃあ、ちょっとウゴールくんの前に行って私がこれからやるであろう仕事の、仕分けをしてから持ってきてくれませんか。」
    「オレが見ても構わないものならいいが、ギルドマスターと副ギルドマスターしか目を通さないものもあるのでは無いですか?」
    「……ウゴールくんが見てもいいと言ったらそれは見ていいやつです。
    仕分けは、内容ごとではなく、私がペンを入れる場所が同じものばかりまとめて欲しいです。
    あと長々と書かなければいけないものは最後に欲しいです。」
    「…わかった……ちょっと可否確認します。」


    「目を通してもらっても構いませんよ。
    予算等のものはさすがにこんなに開けっぴろげにしたりしませんので。」
    「そうですか。
    では、ギルドマスターの言った通りに分けます。
    …本人から離れていてもいいものでしょうか?」
    「そうですね。一応鎖で縛っていますので大丈夫だとは思いますが…馬鹿マスターの後ろに簡易机を用意しましょうか。
    ……ラーシュさん、本当に今日はぼんやりしますね。」
    「申し訳ありません。」
    「責めている訳では無いですよ。
    ぼんやりしたせいで馬鹿が逃げ出したら困りますけど。
    ただ、これまでになかったので、それほど動揺する出来事だったのかと…
    その、馬鹿マスターの接待要因として当てられていた女性のことが。」
    「……いえ、本当に、なんというか…。
    変に動揺してしまって面目ないとしか…。」
    「ま、そういった動揺は若いうちに存分に味わうべきだと思いますのでそういう意味でもよくよく苦しんでください。」
    はは、と楽しそうに笑い、ウゴールはエルランドに回す紙束をラーシュに手渡した。
    …おそらくちゃんとは伝わらないので曖昧に笑って受け取った。
    この目の前の副ギルドマスターはきっとこんなに煩悶に転げたことは無さそうだ。
    ……オレはおかしいのか……?



    「家に入った途端どうしたんです、
    悶々とし疲れちゃいましたか?」
    エルランドの自宅の玄関を入り、庭に面した部屋のいつも座るソファにたどり着いた瞬間ラーシュは、屋台で買った夕飯をテーブルに、荷物を床に下ろしパタッと倒れ込んだ。
    エルランドはコートを脱ぎながら可笑しそうに笑う。
    「夕飯食べないんですか?冷めますよ?」
    「そうだな……腹は減ってる…だが疲れた…」
    「どうしちゃったんです本当に。」
    「よく、わからない。」
    倒れ込んだラーシュをよそに、エルランドは帰り道に買ったパンと串焼きとスープをテーブルに並べた。
    ただの水じゃ味気ないなと水差に柑橘の乾燥皮を入れて水を注ぐ。
    「仕方ないですねぇ、じゃあ私が探してあげましょうかね。」
    「お願いします。」
    「…ほんとに疲れてますね。
    じゃあまず、……どこから始めようかな。
    まあまず間違いなくくせ毛ちゃんのことがらみでしょうから、私とくせ毛ちゃんが仲良く一緒の布団で寝たことが、不快でしたか?」
    「昼間も言ったがそれは無い。
    ……むしろ昼間は副ギルドマスターの手前言えなかったが、なんて言うか…………サイコーだった。」
    「ん?何がですか?」
    「それがよく分からないんだ。
    ただ、見た訳でもないのにくせ毛ちゃんがあんたの髪を編んでる所を想像したらなんかちょっとドキッとしたというか…違うな…そういうんじゃなくて、…………」
    言葉が途中で途切れたのでエルランドはその枕元へ行き、ラーシュの頭をぐいっと避けて自分もソファへと腰を下ろした。
    「うーん…では、自分も朝までくせ毛ちゃんと過ごしてみたかったとか…」
    「それは普通にそうだが、多分金と時間に余裕があったらそうすると思うしな。
    そもそもあの町での滞在期間が基本的に一晩だし補給とかの手間考えたら朝まで過ごすわけにはいかないんだ。」
    「では、」
    「悪い感情が浮かんでるわけじゃない。」
    「そうなんですね。」
    「…なんというか………これ言って笑われたくないんだが、その場面見たかったなと思ったら」
    「?どの場面をですか?」
    「……エルランドさんが寝ていて、くせ毛ちゃんが髪を編んでいるところを……うぅぅ」
    エルランドは首を傾げる。
    呻くほど見たいシーンにはとても思えず、その感情が理解出来なかった。
    「…えと…とりあえず、パン食べていいですかね…。お腹すいてますんで」
    「好きにしてくれ。」
    ムシっと硬いパンを引きちぎる音がきこえ、フワッと香ばしい香りがうつ伏せのラーシュの鼻にも届く。
    「うーん…
    あの、私もこれ自分で言いたくはないんですけど、もぐぅ……
    ラーシュさんくせ毛ちゃんの見た目も好みなんですよね?
    乳とか尻とか含めて。
    もぐぅ……今日のパン、当たりの場所ですね。いつもよりたくさん砂糖粒が入ってます。
    私とくせ毛ちゃんの両方を並べて眺めてみたいとかそういう…なんというか、
    もぐもぐ。」
    ごくん、とパンを飲み込んでエルランドは言葉を探す。
    「収集趣味の人が気に入ったものを棚に並べるような感情があったとかでしょうか?」
    ムクっと起き上がり、ラーシュはソファに座った。
    目の前のパンを取り、がぶっと噛み付く。
    エルランドが言った通り、砂糖粒がジャリジャリしていて味が濃い。

    「近い気がする。
    でももっと強い感情なんだよなぁ。
    なんというか、…なんだろうな、ちょうどこれだという言葉が分からなくて、腹のあたりが気持ち悪いな。」
    「悪い感情ではないのなら受け入れるか、薄まるのを待てばいいんでしょうけどね。
    ちなみにその場面にもし立ち会ったとしたらあなたはどうするんです?」
    「どうって…そりゃぁ、近くで見てる。」
    「……うん。
    思ってたより不思議な感情ですね?」
    「え?そうか?」
    「いや、だって…私ともくせ毛ちゃんとも肉体関係があるのに…間に挟まるとかじゃなくて見てるって…
    挟まらない理由が?」
    「理由。…そりゃまぁ実際そんなことになったら挟まってもいいが…」
    「妄想の中で挟まらない理由はなんです?」
    「妄想って言うな。
    挟まらない理由、……そういう、挟まるような想像じゃないというか……なんかこう、
    その絵面の中にオレがいたら邪魔というか…」
    「………ラーシュさん。
    ちょっと腹を満たしてからもう一度考えましょうか。
    肉、多めに買ってますし。」
    「ああ…そうだな…。はぁ…見たいって感情はそんなにおかしいか?」
    ラーシュに串焼きの包みを勧め、自分もひと串取り上げ、エルランドは頭の中で言葉を選びながら肉を齧りとり、慎重に話し出す。
    「あの…その感情なんですけどね」
    「はい。」
    「似てるなと思うものを探すと、恋煩いが思い浮かぶのですが…対象が人ではなく場面なのでちょっと違う気もしてます。」
    「絶対違うと思う。」
    「ありゃ、断言しますね。
    良かった。」
    「でも、言われてみれば、くせ毛ちゃんからその場面の話を聞いた時の感覚は似てたかもしれないな。」
    「それはどういった感覚ですか?。」
    「うん、なんと言ったらいいかな。
    …なんかこう、頭が爆発しそうな」
    「あはは、感情の内容を、みなが共有できるような単純な言葉にするのは難しいことですよね。
    では今日は大好きな武器談義ではなく恋愛感情その他の談義にしますか?」
    「あんまし話せるネタがねぇんだよなぁ、オレは。それに関して。」
    「おそらく私もそんなにないですよ。
    単純な肉体関係ではなく、大切と思えるような感情とか羨望とか憧れとか独占欲や嫉妬だとかが伴うようなものは。
    ……あ!!相手がドラゴンでも良ければ死ぬほどありますがどうしますか!?
    入れていいですか?ドラゴンも!」
    「いやそれほぼ架空の相手に近いだろ。
    妄想枠だ。」
    「妄想では無いですよ!
    ドラゴンは存在が確認されてます!
    今現在生きてる人間がほぼ見た事ないだけで。」
    「だいたい実際見たことあるのなんてムコーダさんのとこのでかいのとちっさい…………」
    「?どうしました?」
    「いや、うん、恋愛談義ならドラゴンは仲間に入れない!」
    「生き物なんですから仲間に入れましょうよ!!
    石とか土が好きって言ってるわけじゃないのですし!
    というか観察対象として石とか土が好きな人なんて世の中にごまんといますからね??
    私も恋愛感情はともかくドラゴンのこと考えたらすごくドキドキし……ま……」

    エルランドは瞬間的に真顔になり、ラーシュを見る。
    「もしかして、私とくせ毛ちゃんが揃うとドラゴンになっちゃうってことですか?」
    「多分違うと思うが、似てるとも思う。」
    「ちょっとそれは……随分変化球の感情ですね…」
    「自分のドラゴンに対する気持ちを変化球って言ってるようなもんだぜ」
    「いえ、私のは直球ですよ。
    だってラーシュさん、目の当たりにしてもいない私とくせ毛ちゃんの同衾シーンを耳で聞いて想像したその場面自体に心拍数上げてるんですよね?
    そもそも私目の前にドラゴンいたら挟まりたいですし。
    ドラちゃんとゴン爺様の間に挟まりたいですし!?」
    「…やめてくれ………オレが可哀想になるから…」
    「混ざりたいとかじゃなくて見たいだけなんですよね??」
    ラーシュは無言で頷く。
    眉根に深い溝を刻んだまま串肉をかじる。
    「それって、観察したいってことですか?」
    「観察?…いゃ、魔獣とか薬草じゃないんだから観察はしないだろ。」
    「…そういう事じゃなくて、すごく細部までジロジロ見たいとか、そういう感じなのかなと。」
    「結果そうなるかもしれないが、どちらかと言うと、違うかな。
    景色として見たいような気がする。」
    「そうですか…ますます、あなたの頭の中の私とくせ毛ちゃんがどういう立ち位置なのかわからないですねぇ。」
    「立ち位置は、わかってるつもりなんだがな…」
    「ほう。」
    「触ってもいい綺麗なもの。」
    「…」
    「どっちも見るのが楽しい。
    ただ同じ場所にないし片方は有料、片方は…立場が上で。
    どちらも依頼に出た時、その街の方向だった時しか見られない貴重な景色。」
    「街の景観の一部みたいな扱いですね」
    「エルランドさんが好きそうな言い方で言えば、シーサーペントとアースドラゴンが一緒にいる所を目撃するような感じかもしれないな。」
    「なんと…私はアースドラゴン役をやりたいですね。」




    「なんで絶対一緒に寝ようとしてくるんだ。」
    「あなたの地竜が一緒に寝たいって言ってるんですからいいでしょう。
    も少し詰めてください。」
    「誰がドラゴンだ…」
    「ドラゴンは筋肉に頭乗っけて寝たいんですから詰めてください、さあさあ。」
    頭を乗っけて寝たいと言った割に、腹に乗せられてるのは足なんだが...
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