キッチンカーのホットドッグ「なんとも言えないが、おそらく本格的な何かが始まったらな。」
「本格的な……か。」
「ところであんたはホットドッグ食わなくていいのか?」
「あ、そうでした。
ヴィレム館長から初めはマスタードとケチャップだけで食えって言われたんですよね。」
「なるほど、それじゃ俺から言えるのは、パンはあっためてないやつで食った方がいいってことくらいだな。」
「あっためたりできるんですね。」
「焦げ目がついた方が好きな奴だっているからな。ソーセージも注文すりゃグリル台で焦がしてくれるぜ?
だがオレもやっぱり、ここのソーセージはボイルだけの方が美味いと思ってるけどな。」
「ふいふんほくわひぃへふへ。」
「うお、……」
真後ろからやってきたエルランド博士に驚いてラーシュさんは振り向いた。
俺も釣られてそちらを見る。
「それもう何食ってるかわかんないでしょ…」
エルランド博士がかじりついてるホットドッグ(?)は、ソーセージを覆い尽くす刻みレタスとソースとフライドチーズそしてこぼれそうなピクルスしか見えない。
「欲を言えばパンがもうひとつ欲しいです。」
口の中のものを飲み込んで博士はそう言った。
そして
「私も次にこちらに来る時には悪ガキになってパンを持ち込んで見ましょうかねぇ、スーパーで見かけた特大のパンを。
しかし、本当に美味しい。
私の職場の前にも毎週キッチンカーが止まってホットドッグの他色々なものを売っていますが、うん、私はこの国のものの方がうんと好みです。」
「へぇ、そんなに違うものですか?同じホットドッグでも?
あ、すみません、ひとつ下さい。
オプションはなしでマスタード少なめでお願いします。」
俺がフェルをお座りさせたままヴィレム館長の隣でホットドッグをひとつ買いながら聞くと博士は「不味いとは思っていないのですけど」と前置きして、
「炒めた玉ねぎが挟まったものがほとんどですね。
ここの店の商品のようにフレッシュなハラペーニョだとかフライしたチーズだとかちょうどいい酸味のクラッシュピクルスだとかはオプションにありません。」
「玉ねぎも美味そうだけどなぁ。」
「ですから不味くはないのですよ。
選択肢がないのと、ボリュームがあまりないのでそれが少々不満です。」
ふーん、と思いながらマスタードがたれ落ちないように気をつけながら極太ソーセージに歯を立てる。
パリッと音がした途端胡椒の香りとガツンとした塩気が口に広がる。