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    🌸桜寿

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    🌸桜寿

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    出来た!随分と時間かかったけどやっと書きあがた!!
    ドフウソ🦩🤥です。
    一応、二年前設定。
    👗🌹よりずっと前に🦩とうっかり会ってたら面白いよね!という妄想です。

    🦩🤥「ん、ぎゃあァァァァ!!」
     拡声器かと思うぐらい、街中響くほどの声がドフラミンゴの直ぐ耳元で、が鳴り立てられる。
    「うるせェ、黙れ。締め殺すぞ、ゴッド」
     ドスの効いた声で、右肩に抱えた長っ鼻の男に言い放てば、グッと口をつぐんだものの、大きな丸い目からは、涙がボロボロと溢れ、疾走するドフラミンゴの後方へキラキラと流れていっていた。
     何でこんな事になっているのか……。
     ゴッドと名乗った男ーーおそらくまだ少年の域を出てないだろう痩身の身体を抱え、ドフラミンゴは、必死に街中を走る。
     こんな姿、ファミリーの者達には見せられねぇ。
     バン、バン、バンッ!
     間際に聞こえる、激しい破裂音。風に乗って流れてくる火薬の匂い。
    「ッ!」
     身体の直ぐそばを、いくもの銃弾が掠る。
     悪魔の実の能力さえ使えれば、肩の上で喚くガキや、後ろから武器を持って執拗に追いかけて来る馬鹿海賊達など一掃してしまえるものを……。クソ忌々しい。
     ドフラミンゴは、己の右手首に付けられた海楼石入りの手錠を、憎々し気に睨み付ければ、タイミング悪くこちらへと振り返っていた長っ鼻男と目が合う。ヒッ!と怯えるのをウザいと切り捨て、銃弾を交わすために、横脇の細い路地へ入った。


     一時間程前、ドフラミンゴはひとり港街に立っていた。この街で重要な商談があったからだ。終われば直ぐに帰るつもりだったが、あいにく空は雲一つ無く晴れ渡っており、イトイトの実の能力を使って空を駆ける事ができそうになかった。
     こういう時の為に船は用意しているのだが、そこまで行くには少し歩かなければいけない。乗り物を手配するのも面倒で、ほんの数分の距離にある港まで歩いていく途中、ベチャと妙な衝撃を、左太ももあたりに受けた。
    「あッ」
     小さな声が下から聞こえてくる。それからじんわりとズボンから伝わる冷たさと湿った感触。滲み上がる不快感に下を向けば、本物か? と疑いたくなるほどの長鼻のガキが悲しげに眉を下げて立っていた。
    「おれの3段アイス……」
     その言葉でドフラミンゴは全てを理解した。男が手に持っていたアイスの部分が全て自分のズボンに取られたのだ。
    「てめェ」
     ハッ! と顔をあげてこちらを見上げた男の丸い大きな目が、さらに拡大された。
     人の服を汚しておきながら、怯えて逃げるのならば、その場でイトイトの実の能力でバラしてやろうと思ったのだが、長っ鼻のガキは、いきなりビシッと九十度綺麗に身体を折り曲げた。
    「ごめんなさいッ! おれ、よそ見してた。ズボン汚して悪い。ベタベタして気持ち悪いよな。ほんと、ゴメン。弁償してぇけど、おれ、あんまり金持ってねぇから、その高そうなズボン洗ってくるから許してくれねぇ? あんた、ここの人? それとも観光客? とりあえず、着替え手配した方がいいよな。さっき向こうでいい感じの古着屋見つけたんだけど、そこで仮のズボン買って来ていいか? それとも一緒に行く? アイスなら洗濯すれば落ちるから! ああ、でも急いでなきゃ、いいんだけど。二時間くらい時間もらえるか? いい天気だし、直ぐに乾くと思うからそれで許してくれ」
     一気に捲し立てられて、迂闊にも呆然としていたのが悪かった。
     ペラペラ喋る男に意識を取られている間、背後から近づいて来た不穏な気配に気付くのが遅れてしまった。
     ガチャッ。
     妙な音と、身体全体が怠く重たくなる感覚に襲われると同時に、耳障りな声が聞こえて来た。
    「ハーッハッハッハッ! ドフラミンゴ、これでお前はおしまいだ!!」
     十メートル先ほどにいて、こちらへ向かって叫ぶのは、いかにも海賊だと言わんばかりの風体の男達数名。
    「誰だ?」
     ビキリッと眉間に青筋立てながらドフラミンゴが問いかければ、一番中央にいた髭面の男が憎々しげに叫んだ。
    「お前に仲間の大半を殺されたアオサギ海賊団だ! 忘れたか」
    「知らねぇな」
     いつどこでやり合ったのか。潰した海賊団の名など、いちいち覚えていない。顔も名前も一切記憶に無い。
     だが、向こうはそうではなかったのだろう。屈辱を感じたのか、小刻みに身体を震わせながら、顔を真っ赤にさせる男は、けれど視線こちらから少し下に外すと、下卑た笑みを浮かべた。
    「フッ。余裕をこいていられるのは、ここまでだ。お前の部下達がいない今、お前はここで死ぬんだーー見ろッ! お前の腕を」
    「ぎゃあァァー! 何だこれッ!!」
     こちらが見る前に、隣にいた長っ鼻のガキが煩く喚き出す。同時に手首が不自然に引っ張られた。
     何か嵌められたとは思ったが、その形状を見て、ドフラミンゴは顔を顰めた。
    「チッ、海楼石の手錠か」
     悪魔の実の能力を封じられる海楼石。それで出来た無骨な形の手錠が、鎖を通して自分とーーなぜか長っ鼻のガキとに繋がっていた。
     何でこんなもんがここにあるんだ。
     海軍が所持している、対悪魔の実能力者用の道具だ。一般的には出回ってない品である。とはいえ、ごく稀に闇オークションで高値で取引きされる事がある。それを運良く購入出来たのかも知れないが、ここで使うとは、自分はかなり目の前の男達の恨みをかっていたようである。
     だが、そうなると共に繋がれた隣の男もグルかと疑い見れば、グシュグシュと鼻水と涙を盛大に垂れ流して泣いていた。


    「何で……何でまたこんな事に……ゾロの時散々な目にあったのに……あんまりだ……」
     長っ鼻のガキーーウソップは心底自分の不運を嘆いていた。ガッツリとハマった無骨で重たい手錠は、哀しいほどに見覚えがあった。
     脳裏に浮かぶのは、あのW7で司法の塔に乗り込んだ時の戦いだった。
     あの時は酷かった。本当にもう酷かった。何だよ、名刀『鼻嵐』って! 名刀って言ってくれて嬉しいけど、そもそも人を刀にするなよッ!
     本気でそれで戦えると思ってたゾロが怖い。いや、本当に戦っていたけど。何か技まで出ちゃったけど。けど、もう二度とそんな目に遭いたく無いと思っていたのに……悪夢再来だ。
    「オイッ」
     上から聞こえて来た、地を這うよな低く響く声に、ウソップはビクッと大きく身体を震わせた。
     そうだった。前回は気心しれた仲間と繋がっていたのだ。扱いは酷かったが、何でも言い合える気やすさはあった。だが、今回は……。
     自分と繋がった相手は、なんかもう、見た目からしてヤバい奴だった。ド派手なピンクの羽のコートを羽織り、短く刈った金髪に奇抜な形のサングラスをかけた超強面の大柄な男だ。
     いや、マジでデカい!
     うっかりよそ見してアイスでズボン汚したから、即座に殺されるとは思ったものの、けむにまくつもりで、捲し立ててみれば、相手の気が抜けたのは感じ取れたが、同時に油断もさせてしまったようで、うっかりこんな事になってしまった。
     いや、そもそも海楼石の手錠をされるってどんだけ恨まれてんだ? 手錠を仕掛けた相手は海賊のようだから、おそらくこの大男も海賊だとは思うが、能力者かよ、こわぁぁ。
     本来ならお近づきになりたくないのだが、今現在、ガッツリ繋がった状態だ。
     さて、どうすればいいのか。
     一番簡単な方法は、相手から錠を外す鍵を奪う事なのだが。
     カチッ、と小さく撃鉄を落とす音が聞こえた。いや、そう感じた。
     ウソップは、ハッと前を見た。前の奴らは銃を持っているが構えていない。しかし、どこからか自分達を狙っているのは肌で感じとった。それは一瞬の判断だった。
    「に、逃げろーッ!!」
     ウソップのヤベーセンサーの発動である。
     声と共に走り出したウソップに、釣られて一歩前に出たドフラミンゴの肩口に、微かに銃弾が掠めた。
    「ッ!」
     パッと桃色の羽が数枚宙に浮く。ウソップが動かなければ、それはドフラミンゴの眉間に当たっていた。
     ギリっと周囲を睨みつけたドフラミンゴは、瞬時に状況を理解した。狙われたのは自分だ。
    「チッ! 逃げるぞ」
     ドフラミンゴは、我先に逃げようとする長っ鼻のガキの背を追いかけた。
     分かって助けてくれてのか、ただ単に偶然なのかわからないが、あのままだと頭に銃弾が撃ち込まれていただろう。悪魔の実の能力を封じての長距離射撃。こちらを完全に仕留めるつもりだったのがわかる。
     だが、逆に言えば、好機は不意にされたのだ。前方にいた海賊達が、狙撃失敗を知り悔しげな顔をしている。だが、直ぐに気持ちを切り替えたのか、めいめい懐や腰に手をやった。隠されていた武器が次々と出てくる。
     まともにやり合うには、明らかに分が悪い。
    「来いッ!」
     海楼石の手錠で繋がれてる以上、別々に逃げる訳にはいかない。ドフラミンゴは、長っ鼻のガキを手錠越しに引っ張った。
    「えッ? えッ!?」
     ウソップとしては飛んだとばっちりである。何が何だかわからないまま、グイッと腕を引っ張られヨタヨタとついて行けば、直ぐに「遅ぇ!」と怒鳴られ肩に担がれ、そのまま走り出された。
    「ヒィィィ!」
     もう口からは悲鳴しかでない。何でこんな目に合わないといけないのか。仲間の待つ船に帰りたい。
     大男の肩の上は走ってる事もあって居心地悪く、振動で腹が押されて気持ち悪くてなりそうである。
    「チッ……しつけェ」
     漏れ出す声が、チラリと見えるメチャクチャ浮かんでるこめかみの青筋怖い。今にも血管が破裂しそうな盛り上がりだ。
     それでも、苛立ちながらもウソップという荷物を抱えていながら走る速さは、かなりのものだった。しかし相手は複数いて、それぞれ武器を手に追いかけてくる。それが、いつ火を吹くか気が気じゃ無い。
     自分は全く無関係なのだが、とばっちりはバッチリ受けてしまう状況だ。
     なんでこんな事になってんだよォォォ。
     ウソップは、己の不運を嘆かずにはいられなかった。ネガティブモード発動中だ。
     だが、自分がやるべきこともわかっていた。
     このまま追いかけている奴らに捕まれば、よくてフルボッコ、最悪殺される。そんな未来が待ち受けているのだ。
     ウソップは、肩に担がれたまま、ズボンに入れていた小さなパチンコを取り出した。ついでに一緒に突っ込んでいた特製の星を握る。手持ちは五つ。ウソップは、三つを手のひらに乗せるとパチンコのゴムの上に乗せたら。
     ギリっとゴムを引く。狙うのは一瞬。当たる箇所はそれほど問題ではない。
    「必殺ッ、煙星ッッ!!」
     ポンポンポンッ!
     耳をつんざく銃の発射音とは段違いの軽い破裂音が後方に響く。と、一気に仕込んでいた煙幕が勢いよく立ちのぼった。同時に後ろから追いかけていた海賊達の悲鳴が響く。
    「何だこりゃ! ゴホゴホッ」
    「火事かッ! 煙で前がッ」
    「クソッ! 前が全然見え……ゲホッゴホッ」
     風が通りにくい通路まで待った甲斐があった。道いっぱいに広がった煙は、追いかける奴らの姿を完全に包み込んでいる。
     狙い通り足止めが出来たか?
     そう思った瞬間、ゾワっと嫌な気配に全身の毛が逆だった。
    「しゃがめッ!!」
     パンッ! パパパパンッ、パンッ!
     煙に乗じて逃げられるのを焦ったか、断続的に響き渡る銃撃音。闇雲に打ち込まれる銃弾。煙幕で、こちらへと狙いは定められないみたいだが、それでも下手な鉄砲なんとやらだ。銃弾の雨霰の中、ウソップは死を覚悟して、半分魂を飛ばしていた。
    「クソッ! ここから離脱するぞ」
     勿論、ウソップに異論はない。
     怖い怖い怖い。さっき頬のほんのわずかに掠めた銃弾痕がヒリヒリ痛む。
     何でこんな目に遭っているのか。自分がアイスをこの凶悪な面した大男にぶつけてしまったせいだ。
     自分が前を向いて歩いていれば、こんな目には合わなかったのである。
     全ては自分のせいだ。
    「オイッ、鼻ーーじゃねェな、お前、名は?」
     さめざめと己の不運を嘆いている最中のウソップに、ドフラミンゴは問いかけた。
     ドフラミンゴは、肩に担いでいる男の行動に感心していた。
     さっきの煙幕は見事なものだった。アレのおかげで追っ手を振り切れたのだ。上々な対応だった。
    「テメェ、泣いてねェぜ、名乗りやがれッ!」
     行きずりの相手だが、名を知っておきたい。しかし、ウソップは聞いてなかった。
     未だに肩に担がれたまま、大男が何か怒鳴っているがよく分からない。だから、ウソップはとりあえず謝罪の言葉を口にした。
    「ごっ(めんなさい)ど(うか許してください)」
     だが、揺れる肩の上、殆ど言葉にならない。それを何をどう勘違いしたのか、相手に妙な形で伝わった。
    「フッフッフッ、ゴッドか。また大層な名前をつけられたな」
     違うと否定したくても、揺れまくる肩の上では上手く言葉にはならない。だから、ウソップは諦めた。名前なんてとりあえずどうでも良い。とにかく生きて帰りたい。
     天の川のように煌めき流れ去るおのれの涙を見つめながら、そう願った。


    「ッ……ハァー」
     流石にウソップを抱えての全力疾走は、かなりの負担だったのだろう。しかも海楼石のせいで、身体が重苦しいというハンデ付きだ。
     港近くの倉庫街。細い路地をいくつも曲がり、完全に人気がなくなったところでドフラミンゴは足を止めた。
     息を整えながら、ひとしきり周囲を伺う。どうにか逃げ切ったようである。追手の気配は完全に消えていた。運良く部下の船がある港にも近い。だが、先に片付けなければいけない問題があった。
    「さて、どうするか」
     疲れを取るため座り込み、倉庫の壁へと背を預けたドフラミンゴは、自分とゴッドと名乗ったガキを繋いでいる手錠を見やった。
     鍵を手に入れるのは今の時点では難しいだろう。こちらの唯一の弱点だ。あれだけしつこく念入りに、こちらの殺害方法を考えていた奴らだ。簡単に鍵を手に入れられるとは思えない。
    「ーー手首を切るか」
     勿論、切るのはゴッドの手首の方だ。
    「うぉぉい! アッサリ物騒な決断するなッ!!」
     だが、即座に却下された。まあ、そうだろう。自分の手首を切られるのを了承するやつなどいない。とはいえ、抵抗されようが力づくで切り落とすつもりになっているドフラミンゴに、ウソップは、ブンブンと首を横に振った。
    「待て待て待て待て!」
     ゾロの時もそうだったが、どうやったらそんな恐ろしい発想が出来るのか。
     ウソップは、危険過ぎる思考を止める為に、相手の肩をガッと掴んでジッとみつめた。大男が怖い何て言ってられない。自分の手首のピンチだ。いや、こちらの手首を切るとはひと言も言ってはいないが、絶対こっちの手を切るつもりだろう。チラリと見た目が不穏だ。絶対実行には移させない!
    「おれ様に名案があるーーちょっと待ってろ」
     ウソップは、そう言うと自分のがま口バッグの中に手を突っ込んだ。ゴソゴソと手を動かしながら何かを探す。しばらくして取り出したのは、何の変哲もない金属の棒二本だった。
     それを得意げに目の前で翳され、ドフラミンゴの眉間の皺が深くなる。
    「? それでどうするつもりだ、ゴッド」
    「まぁ、見てろって!」
     ニヤッと楽しげな表情を浮かべたウソップは、取り出した棒の先を折り曲げ、ドフラミンゴの手に嵌っている海楼石の手錠の鍵穴に突っ込んだ。
    「ここをこうしてあーして、こうやって……だなぁ……」
     カチャカチャ……カチャッ!
     小さな音がして、ガッツリと閉まっていたドフラミンゴの手錠が解錠された。
    「ッ!?」
     まさか、なんの変哲もない棒二本で開くとは思ってなかったのだろう。驚いた表情を浮かべる相手に、ウソップは、フフン、と得意げな顔をして見せた。
    「昔、似たような事があってドえらい目にあったからな。その手錠回収して、後で鍵開け名人に開け方習ってたんだ」
     あの時、司法の塔でゾロと繋がれた手錠を、がま口の中にちゃっかり入れておいたのだ。それから、騒動が落ち着いた後、鍵開けが得意な泥棒猫のナミに、鍵の開け方を伝授してもらった。
     勿論鍵のタイプはそれぞれ違うが、そもそも海楼石は加工が難しいらしくて、複雑な錠は作れないから、開けるコツさえ掴めれば、応用は可能だった。
    「お前のはどうする?」
     ウソップが解錠したのは、ドフラミンゴの方だけだ。ウソップの方は自分の手錠が邪魔をして、開けづらい。
    「ああ、こっちは仲間に解いてもらうから平気」
     ウソップでも解錠出来たのだ。ナミなら簡単に出来るだろう。いくらふっかけられるかが怖いが……。
    「そうかーー」
     赤く擦れた痕は残ったものの、自由になった手首を撫ぜるドフラミンゴを見やり、ウソップは、忘れたかけていた事を思い出した。
    「あ、そう言えば、ズボンの弁償がまだだったな。どうすればいい?」
     そもそも、この男との出会いは、それがきっかけだったのだ。改めて男のズボンを見れば、欲張って三色違う色を頼んだアイスがベッタリと張り付いたそれは、一部分だけカラフルだ。いや、元々結構派手目なズボンだから模様といえば……いや、無理があるか。
     街中を疾走したおかげですっかりパリパリに乾いてしまっているそれを、ドフラミンゴは今更ながら思い出した。
     確かにきっかけはコレだった。それに気を取られた挙句、目の前のガキと海楼石の手錠で繋がれるという失態をさらしてしまったのだ。だが、逆におかげで助かった場面もあった。最初の狙撃を避けれたのも、このガキのおかげである。
    「えーと……やっぱり弁償か?」
     無言になったドフラミンゴを前に、さっきまでの得意顔はどこへやったのか、ぺしょりと眉根を下げて情けない面を晒す。
     しかし、この期に及んで、汚されたズボンで文句を言うつもりなど、ドフラミンゴにはなかった。忘れていたくらいなのだ。もうどうでも良い。
     それよりも、ドフラミンゴはこの長っ鼻の男に興味が湧いた。
    「そうだなーーおれの船に乗れ、ゴッド」
    「いや、無理! ズボンの代償大き過ぎ!!」
     即座に拒否された。目を剥いて叫び出す男に、ドフラミンゴは笑いが込み上げてきた。
    「フッフッフッフッ。幹部の席を用意してやるぞ」
     直ぐにとはいかないが、このガキに見合う悪魔の実を与えれば、それなりの成果が出せそうだ。久しぶりに鍛え甲斐のある人材である。
    「いやいやいやいや、そう言う事じゃねぇだろ。実はおれ様も海賊なんだ! 自分の船があるッ」
     そんなことは薄々気が付いていた。あんな物騒な輩に追い立てられて、反撃出来る道具と度胸を持っているのだ。一般人ではあり得ない。だからこそ、気に入ったのだ。
    「うるせェ、乗れッ」
    「乗らねぇって!」
    「チッ」
     勿論、さっきのように力づくで肩に担いで攫って行っても良いが……ゴッドが所属している海賊が気になる。勝手に船員を連れ去るのだ。場合によっては戦争になる。今はビジネスを拡大している最中で、厄介ごとは出来るかぎり避けておきたい。
    「なぁ、ズボンの詫びは他のにしてくれねぇ?」
     そう言いながら、軽く小首を傾げ、大きな瞳が上目遣いでこちらをみやる。
     ほんの少し前まではビビり上がっていたくせに、今はもう自分を真っ直ぐ見つめていた。くるくるとよく動く目だ。
    「ダメか?」
     意図してないのだろうが、あざとく媚びるように細い首を傾げられれば、妙に落ち着かない気持ちになる。自分よりも遥かに若い少年だと言うのに、不健全な欲が芽生えそうになる。
     欲求不満じゃあるまいし、どこに惹かれる要素があったのか。だが、自分の価値ある宝石の原石を見つける目だけは確かだ。得たいと思ったのならば、そうなのだろう。
     はぁー。
     ドフラミンゴは、小さくため息を吐いた。とはいえ、どうやら、今回は色々諦めなければいかないようだ。
     時期が悪い。
     滅多に無い逸材を前にして、確保できないのは腹立たしいが、仕方が無い。だが、手付けぐらいは構わないだろう。
    「ゴッド」
     ドフラミンゴは呼びかけるのと同時に、片手でウソップの両頬を掴んだ。
    「むぎゅー」
     変な声を出す。飛び出た分厚い美味しそうな唇に、ドフラミンゴは自分ものを重ねた。
    「ッ!?」
    「今回は、これでチャラにしてやる」
     試しに触れてみたが、悪くは無かった。餅のような柔らかな頬に、瑞々しい果実を思わせるぷるりとした唇。むしろ、もう少し試してみてもーーと思ったが、うっかり手を離したのが悪かった。スルリと距離を空けられ、あっという間に自分の手の届かない場所まで距離を取られた。
     しかし、海楼石の手錠はもう外れてあるのだ。能力を使えばその程度の距離は関係無い。
     そう思った直後だった。
     ポンポンッ!
     目の前で煙幕が上がった。見覚えのある煙だ。まだ隠し持っていたのか。
    「チャ、チャラならこれで詫びは済んだってことだよなァ! なら、お別れだッ! じゃあなッ!」
     煙の向こうから捲し立てるような声が聞こえてくる。声が遠い。短い時間の中で随分と遠くまでいったもんだ。
     こちらが能力者と分かっているからこそ、出来るだけ距離を取ったのか。状況判断が的確だ。
     やはり手を離すのは、早まったか。しかし、もう手遅れだ。
    「フッフッフッ。次に会う時は、必ずお前を捕まえてやるーーゴッド」
     声の聞こえた方へと言い放てば、「ギャァァァァァ!!」とけたたましい声が響き、そしてあっという間に遥か遠くから、かすかに余韻を残して聞こえてくきた。
     さすが賢明だ。煙の効果が最大限の間に、即座にその場から走り去ってしまった。少しでも視界が薄れ、相手の場所さえ分かれば、糸で繋いでやろうと思ったのだが……。
    「まぁ、いい」
     再びの邂逅を願い、ドフラミンゴはうっそりと笑みを浮かべた。
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    #書き出しと終わり #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/801664

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     いくらキスをするときは目を閉じるのが礼儀でも、それはできない。真っ昼間の明るい獠の部屋で、なぜか獠に押し倒されているあたしは、獠を睨みつけていた。今、この状況で目を閉じてしまったら、それは同意として取られてしまうに違いない。それだけは嫌だ。まだ、昼から伝言板を見に行かなきゃいけないし、ビラ配りもしたい。あんたとここでもっこりが始まっちゃったら、それが全部できなくなる。
    「つまんねぇ意地張ってると、襲っちまうぞ?」
    「最初からそのつもりのくせに!」
     両手で押し退けたって、獠の身体はびくともしない。首筋にキスをされたら、力が入らなくなる。
     どうしてこの男は、いつもこうなんだろう。そんなに心配しなくても、あたしはもう、他に行く場所なんてないのに。あたしが愛しているのは、獠だけ。毎夜毎夜、そう言ってるじゃない。あたしはずっと、獠のそばにいる。夜になれば、あたしは必ずここへ帰ってくるわ。だって、ここがあたしの帰る場所だもん。

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