恋人の日 予定時間より少し早い時間に鳴ったチャイムに、DVDプレイヤーを操作していたヴァッシュは立ち上がった。合鍵を持っているのに必ずチャイムを押してから入ってくる律儀な恋人に笑みがこぼれる。リビングの扉を開けてすぐのところにある玄関がひとりでに開き、恋人であるウルフウッドが入って来た。
「おかえり、ウルフウッド」
「……お邪魔します」
「そこは『ただいま』だろ?」
「いや、おかしいやろ。まだワイの家ちゃうわ」
まだ、という事はいずれは一緒に住んでくれるんだという事実にだらしなく頬が緩む。ウルフウッドが怪訝な表情をしているが、それにはなんでもないと答えた。未だ玄関に立ったままの彼に家に上がるよう促したところで、ウルフウッドが赤い花束を持っている事に気が付いた。いつも黒ばっかりの彼が持っている目立つ赤色に、どうやらヴァッシュは久しぶりに会った愛しい恋人以外は何も見えていなかったらしい。
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