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    4月14日は、ヴァレンタインデーとホワイトデーに続く恋人たちが愛を深める日らしいので、台牧をオレンジと花嫁さんのような白いシーツでイチャつかせました。
    たくさんの人たちと出会って来たヴァッシュは、たくさんの花嫁に寄り添っては見送って送り出して、彼女たちが母に祖母になる姿も見て来たのかなと。自分の手には収まらない花嫁が、ウルフウッドが欲しくなったからプロポーズしたけど、結構頻繁に求婚してました!

    #台牧
    taimu

    Orange キャシーは、両親や多くの友人に祝福されながら、長く想い合っていた幼馴染と幸せな結婚をした。
     ナオミは、親が決めた結婚相手と実際に会ってみたら、とても優しい人だったと安心して嫁入りした。
     メイランは、着の身着のままで従兄と駆け落ちし、ただ1人の立会人だけで彼と幸せな式を挙げた。
     ディーナの式では、早くに亡くした父親の代わりに彼女の手を引いてヴァージンロードを歩き、花婿に彼女を託した。
     祖母から、母から受け継いだウエディングドレスを着た花嫁もいた。
     ドレスを用意する余裕がなく、唯一持っている白いワンピースを着た花嫁もいた。
     ヴァッシュにとって、花嫁は見送る存在だった。幸せそうに微笑む彼女たちを、もっと笑顔にすることができる花婿へ花嫁を引き渡す。精一杯の祝福を、溢れんばかりの拍手を、死が2人を別つまで、この辛くとも乾いた惑星で幸せな日々を過ごせますように。
     祈りを込めた背中を押して、花嫁はヴァッシュの手から巣立って行った。
     旅の途中で立ち寄った小さな町で結婚式が挙げられた。隣の(と言っても何百アイルも離れた)町から呼び寄せた牧師が途中でゴロツキに襲われて逃げ帰ってしまい、牧師不在で途方に暮れていたタイミングで到着したのだ。
     飛んで火に入る巡回牧師。テロ牧師でも、牧師は牧師。かくして、ウルフウッドによって取り仕切られて、花嫁と花婿は無事に結婚式を挙げられたのである。
     いたく感謝された2人に、滞在中はここを使ってくれと町人たちは一軒家を提供してくれた。数年前までは仲の良い老夫婦が住んでいたと言う小さな白い家で一夜を過ごした翌日は、風がある日だった。

    「ただいま~! ウルフウッド、良い物もらってきたよ」
    「おん。少し待ち」

     ヴァッシュが一軒家に帰って来ると、ウルフウッドは洗濯物を取り込んでいた。
     風に揺れる洗濯物を追う白いシャツの背中を眺めながら、ヴァッシュは抱えた紙袋の中から大振りなオレンジを取り出す。昨日のお礼だと、町人が持たせてくれたのだ。
     鮮やかな色合いの皮にナイフを入れると、爽やかな香りがふわりと鼻を擽った。薄皮も剥いて綺麗な果肉を取り出して、一房口にする。瑞々しい果肉に歯を立てると、じゅわりと甘酸っぱい果汁が口の中に広がり、乾いた喉を潤した……その時だった、突風と同時にウルフウッドの悲鳴が聞こえてきたのは。

    「どわっ?!」
    「ウルフウッド!」

     昨夜のベッドシーツを取り込もうとしたタイミングで、突風の被害に遭ったのだろう。向かい風によって羽ばたいたシーツに襲われたウルフウッドは、すっぽりと真っ白なシーツを被ってしまったのだ。
     慌てて駆け寄って、シーツお化けのようになってしまったウルフウッドを捕まえた。まだちょっと風が強い。

    「ぷはっ! ああクソ、折角のシーツがぐしゃぐしゃやないかい」
    「あ……」

     ぐるぐる巻きのシーツを掻き分けて、ウルフウッドが顔を出した。真っ白に洗濯されたシーツを被った彼の姿が、ヴェールを被った花嫁たちに重なった……ああ、そうだ。昨日の花嫁も、母親が編んだレースのヴェールを被っていた。
     白に包まれた美しい花嫁たち。誰かに託して、送り出してきた彼女たちは、ヴァッシュの手に収まることはない。
     なかったはず、なのに……。

    「ウルフウッド、結婚してくれ」

     これからもずっと見送っていくはずだったその白が、花嫁と重なったウルフウッドが欲しくなったのだ。

    「トンガリ、おんどれ……何回言うねん、ソレ」
    「ちょっと! 結構シリアスに決めたつもりだったんだけど!」
    「ヤる度に結婚してーとか、自分のモンになれーとか、一生大事にするーとか何べんも言っとるやん。またか!」
    「だって、白いシーツを被った君がさ、昨日の花嫁さんと重なって……」
    「ええよ」
    「ホント!?」
    「ってか、ワイはもうおんどれに色々汚されてんねん。もうお婿に行けへんわ~~責任取れ」
    「取る! 責任取ります、取らせて、取らせていただきます!」

     わざとらしくさめざめと泣き真似をしながら、ウルフウッドが茶化すように口を尖らせた。色々汚されたために洗濯したシーツを被ったままである。
     シーツごとウルフウッドをぎゅっと抱き締めて、尖った口にちゅっと音を立てながらキスをした。牧師の前――ではなく、牧師にキスをして、お婿に行けなくなったウルフウッドをお嫁さんにするのだ。

    「……酸っぱ」
    「そうだ、オレンジもらったんだ。美味しいよ」
    「おんどれ、1人で食ったんか」
    「まだあるよ。食べる?」

     食べかけのオレンジの皮を綺麗に剥いて、シーツに包まったままのウルフウッドの口元に差し出すと、餌を待ちわびていた雛鳥のように口を開ける。オレンジを摘まんだヴァッシュの指先を唇で食みながら、大きな一口でオレンジを食べてしまった。シャクシャクと数度咀嚼しただけでゆっくりと飲み込み、もっと寄越せとまた口を開けたので、また一房オレンジを差し出した。
     弾けた果汁がウルフウッドの唇を伝って滴り落ち、飲み込みきれなかったオレンジ色が零れてしまう……ただオレンジを食べているだけなのに、彼の姿があまりにも煽情的に見えてしまう。
     ウルフウッドが喉仏を上下させながらオレンジを飲み込むと同時に、ヴァッシュの喉もゴクリと音を鳴らした。

    「ナニ見とんねん……トンガリのすけべ」

     べえ、っと真っ赤な舌を見せてウルフウッドが子供のように微笑んだ。
     真っ白な花嫁が欲しくなった。真っ白なシーツのウルフウッドを、オレンジよりもずっと濃く赤い、真紅のゼラニウムのような色で……自分の色で、隅々まで染め上げたい。
     健やかなる時も病める時も、どんな時でも一緒に明日を分かち合いたい。

    「ウルフウッド……結婚してくれ!!」
    「あーはいはい。結婚したるからもっとオレンジ寄越せ」
    「やったー!」
    「おいコラ盛るな! 洗濯したシーツが汚れてまうやんかドアホ!!」

     時に、木に実を付けるオレンジも白い花を咲かせる。花言葉は「花嫁の喜び」
     オレンジの花のように白いシーツごとウルフウッドを抱き締めて、押し倒して、再びオレンジ味のキスをした。
     まだちょっと、シーツがなびくぐらいの風が吹いている。
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