担当地区に戻ると、緊張した面持ちの隊員が真っ直ぐに駆け寄ってきた。彼はいつも僕の言葉を届けてくれる、信頼できる存在だ。普段はよく通る声で話しかけてくるが、今はその声にわずかな震えが混じっている。
「ハル隊長、太陽が……」
「うん、わかってる」
僕は短く返事をしながら、廊下を進む。目的地は雑務を行う部屋。腰を据えて話す時間すら惜しい。未熟な自分には、誰よりも多くの時間をかけて考える必要がある。
「200名の隊員の確認と招集を頼む」
「……承知しました」
彼は一瞬の迷いもなく名簿を手に取り、足早に部屋を出て行った。その背中を見送りながら、僕は地図を広げる。紙に描かれた国全体の情勢が目に飛び込んでくる。
「ここがこうなって……この場合、僕はこう動いて……」
脳内で何度もシミュレーションを繰り返す。しかし、どれだけ考えても答えが足りない気がする。たった17年しか生きていない僕の頭で、200名の隊員の命、そして共に戦うアルカナの仲間たちを守るには、どうすればいいのか。
家族を失い、親族と呼べる者もいない僕にとって、この場所は唯一の“家”だった。守らなければならない理由が、ここにはある。
「人類の存続のため、みんなのために、そして僕自身のために……盾として、みんなを守らせてくれ」
呟いたその時、足音が近づき、招集と伝達を終えた隊員が戻ってきた。
「隊長、全員集まりました」
「わかった。……いつも君に頼ってばかりで申し訳ない。……僕の言葉を、みんなに届けてくれ」
隊員は力強く頷き、僕もその姿を見て静かに頷く。
廊下の向こうには、集まった隊員たちが待っている。その一人ひとりの顔が浮かぶ。希望、不安、覚悟――それぞれの思いが混ざり合う中で、僕がしなければならないことは一つだ。
彼らに伝えるのだ。
僕は節制。この国の盾であることを――。