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    detective1934

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    detective1934

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    ロキマネ。直接の描写はないですがずっとベッドの上にいます。

    夜の狭間に 数えるのも飽きるくらいに、ねだられれば何度だって唇を触れさせて温もりを分け合った。
     その気になれば際限なく甘やかせるだろう己の惚れた弱味が苦々しい。はじめのうちは呼吸すらおざなりにして捨て身のごとき勢いでがっついてきたので、じゃれつく仔犬を宥めすかすように、どうどう、と笑いながらいなすほど余裕だってあったのだ。
     体の触れあい方を知ったばかりのロキが見せる未成熟な興奮と期待は、それだけで俺を骨抜きにした。数回の繰り返しだけで、ロキが目を閉じて顔を近づければ、言葉も交わさないうちから合図のように口づけてしまうようになった。まるで餌をねだる雛鳥と世話をする親鳥のよう。
     言葉とは裏腹に素直に示される好意や、安心しきった様子で頬をすりよせてくるロキの、許された距離の甘美に身が震える。
     溺れてはいけないと戒める自分と、ロキにとって真新しい娯楽が新鮮なうちにできるだけ浸っていたい自分がいた。いつまでも変わらない熱量で追ってきてくれるはずがないと。いつかは、また同じように離別の時がくると。そう思うのは、追われる側にあると傲慢な思い込みをした自分の手落ちだったのだが。
     ロキは『マネージャー』の肩書きを外して手を離れたあとも、俺のかたわらに居てくれた。
     今日のロキはいっそう静かだった。無心に、いつもの無表情で、決して滑らかとは言えない俺の髪を飽きもせずに何度も何度も指で梳いている。部屋の外では生ぬるい風とともにしばらくぶりの雨が降っており、その指でもてあそぶ髪は湿気を含んで乱れている。
     それ、楽しいのか? と聞いてみれば、視線をちらと寄越しただけで無言である。ロキの胸板がわずかに上下していなければ、彫像が寝ていると思っただろう。
     しんとした部屋の中では、暖炉で消えかけている熾火が頼りない影を壁に投げかけ、あとは物音といえば俺とロキの息遣いや、体の動きや衣擦れが起こす音のみで、ほかには何物もなく、霧状の雨がこの場所を覆い隠して世界から切り離しているようだった。
    ――マネージャーがずっと見てるから。
     雨音に溶け込むようなロキの声が小さく響く。感情がそこに表れずとも拗ねているのは明白であり、尖った唇が不満を訴えている。
     悪いな、考え事してた、と体を横向ければ、ロキはようやく髪先をもてあそぶのをやめる。そうして視線が合う。そのとき。
    ――俺を見るな、マネージャー。
     ロキが静かに言う、その一瞬だ。
     おかしなことだが、俺はなんだかロキを初めて、本当の意味で目にしたのではないかと思った。
     まるで世界がほんの何秒か前に、俺の隣に半裸で横たわった格好で、それでいて一分の隙もないものとしてロキを作った、そういう感覚だった。手を離れてなお、そばにいることを選択してくれたロキの、歌手の肩書きやメギドやヴィータや、そういうものを超えて、はじめて俺の前に等身大の存在として現れたのだと。
     だから赤い髪と金の眼光が燃え上がって近づき、視界をいっぱいに覆ったときも、俺は初めてそれらを見たのだ。何度も交わした唇の触れあいも感触が異なった。とっくに既知である、華奢に見えるが想像以上に膂力のある身体と、無表情と言葉の裏に荒波の激情が潜んだ心をもってして、ロキは俺と対峙する。
     合言葉を交わすように行われる口づけにも、もはやいつものように対応ができなかった。ちょっと待て、と浮ついた声が出て焦るが、本気の制止でなければこの男が止まらないのはよく分かっている。
     まるで最初の頃のロキみたいに呼吸に苦労しながら、俺は一つの事実を理解していった。続いて、息と息のあいだから笑いが漏れ出てしまう。その様子に、ロキは怪訝な顔をして、マネージャー? と訊ねた。その顔は相変わらず無表情に近いものだったが、再び火のついた欲情と、こちらの集中が他に向くことが気に入らないのが手に取るようにわかる。
     笑って咳き込まないように気をつけながら、どう言ったものか考えた。
    ――お前って本当に格好いいんだなあって思ってさ。
     言えばロキは、はあ? と首を傾げ、どういう意味かわからない、という内容のことを呟いたが、腕を伸ばして抱きこめば素直に従い潜り込んでくる。
     毛布に包まり、腕の中にロキの高い体温を感じながら、かつてマネージャーだった男は、ナナシは、思う。仮の名がすっかり板につき、今や本当の名とすら思えるが、この時ばかりはその仮名すらいっとき脱ぎ捨て、ただの一人の人間になって考えた。大の男二人がすし詰めになっているベッドの中で取り繕うものなんてない。はだかになってようやく真正面から向き合えるなんてこと、あるか?
     かつてマネージャーだった男は、ナナシは、一人の男は、抱きしめた腕の間で揺れる赤髪を、ぎらつく瞳の色を目蓋の裏に焼き付ける。次は俺が追う番だから、と思う。



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