ベイビー・オン・ボード《梗概というか 前提というか》
チームに入る前の若イルーゾォとチーム入って結構経つ若ホルマジオの話。
・それなりに裕福な家のこどもだったイルーゾォ君、若リゾットが任務でイルーゾォ以外を暗殺してしまってから、「口から剃刀を吐かせる男」に復讐を誓う。
・それっぽい男をスタンド使って殺してたら野良のスタンド使い通り魔としてパッショーネのお尋ね者になる。
・イルーゾォ青年、なんやかんやでついにホルマジオに捕まってしまう。
・大暴れするイルーゾォを落ち着かせるためにリゾットがそのへん連れ回せと言い、ドライブが始まる…。
で、いまからアジト戻っても日付変わるしダルいから。と宿をとったシーンがこっから始まる小説ぶぶんです。捏造すぎる!、すみません でも書き上げたいなー
ベイビー・オン・ボード
ホルマジオは「誰がおまえのような奴のためにスイートルームなんて取るんだ」とでも言いたげな目をしてオレを一瞥すると、カウンターに向き直った。腹立たしいがなにも言い返せなかった。頬に喰らった右ストレートの衝撃が、まだジクジクと奥歯の底で痺れくすぶっていた。
フロントマンが示したいくつかのプランを眺めたあと、ホルマジオは最もスタンダードなプランを選んだ。食事なし、シャワールームつき、ベッドは2つ。オレへの確認はなかったが、実際のところ別にスイートルームである必要はないので、オレは黙ってフロントマンとホルマジオのやりとりを聞いていた。
フロントマンは「深夜二時を過ぎたらフロントを施錠するから外に出る用事はそれまでに済ませろ」だとかそういうことを、なまったイタリア語でぺらぺらと話した。何度も何度も繰り返して飽きもきているのだろうが、慣れきった様子の説明は早口が過ぎ、オレは言われたことの半分ほどを聞き逃した。ホルマジオはそのつど「ええ、ええ」と愛想よく相槌をうっていたが、手のほうはパンツのポケットを軽く叩いてジッポとたばこを探り、火をつける寸前までいっていた。こいつもどこまで聞き取ったのかまるで定かではない。
オレもホルマジオも、そんな風に、彼のなまりや早口に関してまったくなにも思わないということはないはずだったが、それでも、2人ともなにひとつ指摘しなかった。たぶん面倒くさかったのだと思う。フロントマンとしてそれらは致命的な欠点だった。だが2人の怠惰により機を逃した彼は、ただ微笑んで「不明な点があればわたくしまで」と締めくくると、302と彫られた赤いプレートのついたカギをホルマジオに預けた。
「ありがとう」うそくさい声だ。
当然のように、カバンはオレが持つことになった。反抗もできず押しつけられてしまった。カギを指に引っ掛けくるくると回してエレベーターホールへと向かうホルマジオの後ろをカバン片手についていきながら、自分とホルマジオとの間に結ばれた屈辱的な力関係に顔を顰めた。ホルマジオは振り返らないから気がつくことはない。だが、オレがここで中指を立てたらば、こいつはその瞬間に振り向いてオレをノーモーションで引っ叩くのだろうなという、奇妙な確信があった。
年代物らしい所々錆びついたエレベーターは、2人が乗り込んだ直後、あまりに素早く無慈悲に鋼鉄の両扉を閉じた。ホルマジオはそれを見て目を丸くし、ギャッハ、と笑い出した。笑いながらたばこに火を着け、いくばくか穏やかな表情になるとうまそうに吸い始める。
「ギロチンみてえだったな」
煙を肺にためて吐く、その合間にホルマジオは言う。気持ちの悪い例えだ。大きな機械が老体に鞭を打ちつつ駆動しているのだろう「ゴウゴウ」というひどい音が、この空間の居心地の悪さをむりやりひねり潰してくれていた。だがもっとだ。足りない。煙が目にしみる。じっと錆びついた扉を見つめ立ち尽くすオレを、薄い煙の向こうからホルマジオが眺めている。緑色の、悪魔のような、目。
「ああおまえ泣いてんのか?」
泣いてないと叫んだがたしかに泣きたいような気持ちだった。ホルマジオは数秒黙って、やがて小さく「馬鹿だな」と呟き、オレの手からカバンをさらった。
乗り込んだときと同じように、扉が殺人的な速度で開く。
ホルマジオはカバンを手に、赤いカーペット敷きの廊下を歩いていった。
オレも二度三度咳き込んで、エレベーターを降りた。