脅迫「では、私はこれからあなたを脅迫します」
どこの世界に宣言してから脅迫する娘がいるだろうか。それは目の前の娘である。かつて救いの手を差し伸べてくれたグリフォン乗りのお嬢さん…名はセレスト。彼女は痩せこけたギャメルの手を優しく握っている。彼女がその気になれば二度と使い物にならないくらいに骨と皮だけの手はグシャグシャに砕けるだろう。これはあくまで戦場での経験による憶測でしかないが、体格が同じくらいなら見た目に寄らず女の方が強いのだ。背丈は同じくらい、ただでさえ見た目にも彼女の方が肉付きがいい。そんなことはどうでもよくて…
ギャメルは妹に回復の兆しが見えてきて以来、それまでのストレスと無茶が祟って体を壊してしまった。あれほど身軽に動けていたのが嘘のように身体は実際の体重とは裏腹に重く、力が入らなくなっていた。盗賊団にいた頃は食欲がなくても何かは口にねじ込んでいた。働ける身体でなければいけなかったからだ。けれど今はどうだ。妹はすっかり出歩けるまでに回復した。顔色も悪くない。きっとこれからはよくなるばかりだ。解放軍がゼノイラ軍を倒してくれたおかげで心配ごともめっきり減った。逆恨みするような連中もついでにやっつけてくれたのだ。ありがたい話である。
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