可愛い恋人の質問にお答えします「このさあ、情事の時の痕ってなに?」
とある文学作品を広げて持ってこられた。要はキスマークの事だが知らないのか。改めて未成年のお子ちゃまだという事を思い知らされ罪悪感が呼び起こされる。
「噛んだりした後ってこと?アブノーマルな感じ?」
なんでこんなのを持って来たんだ。有名な文学作品だから純粋に疑問なのだろうがなんだって俺に聞くんだ。
三郎とは番なので身体の関係もある。俺の所有痕として実は肩甲骨にいつも付けているのだが本人には見えないので付けられてることも知らないだろう。
「アブノーマルなわけではないのでは……」
「じゃ、なんの跡?これってセックス描写でしょ?」
物凄い直球を投げてくる。答えにくい。
「だって僕、なんの跡もついてなくない?」
ついてないわけではないんですが……これを言ったら何か問題が起きそうな気がする。
「……そう、ですね」
三郎とそういう事をするのは発情期の最中のみで三郎の記憶には何も残っていない。解れきっていない序盤に負担をかけないよう後ろから抱きしめて挿入するのだが、その時天使の羽を愛でるのだが鬱血痕が花弁が散るように綺麗で夢中になってつけているから背中は証だらけだ。
「そもそもどういうもの?銃兎その感じだと知ってるよね?」
そうは言われても鏡で背中を見せたら発狂しそうなほどの痕があるから見せるのも躊躇われる。
「……ええ、まあ」
どうしよう。腕にでも付けてやれば納得するか。
「これってさ、激しさの表し方なの?」
「愛の深さじゃないですか?」
「愛の深さ?」
「自分のものだという独占欲の証ですからね」
「……ふーん」
あ、しまった。三郎の匂いが変わる。不安な時の独特な匂い。これだけは敏感に察知できるようになった。仕方ない。これは腹を括って懺悔するしかない。
「……三郎。上、脱いで待ってて下さい」
「は?」
鏡を二枚持ってくる。戻ってきた時には素直にシャツを脱いでいて上半身が露わになっている。
これは絶対に怒られるだろうな。
一枚は三郎に渡し「合わせ鏡にしますよ」と言って鏡を合わせる。
「……?ねえ、なにこれ?背中、ヤバくない?病気?」
鬱血痕は鮮やかさを失って紫色に変色している。数が多いので病気のように見えなくもない。またもや年齢差による大ダメージをくらったが怒っていなくて安心する。
「それが情事の痕ですよ」
「…………これ、前にもつけた?」
しばしの沈黙の後三郎が怒気を孕んだ声を出す。
「え、っと……毎回つけてます、かね」
俺の答えに三郎の怒りが頂点に達する。
「い、いち兄に……見られた…………」
「はい?」
「こないだ帰ってお風呂のあと洗面所でパンイチで立ってたら『さぶちゃん、これから風呂の後はTシャツ着てからこっち来いよ』って。今までそんな事言われたことなかったのに変だなって思ってたけど、いち兄が言うならってずっとそれから着替えてから風呂出るようにしてたんだ……そうか、それで……うあー‼︎銃兎のせいだ‼︎ばかあ‼︎」
真っ赤になって起こりだした。
怒ってはいるがそれでも匂いはふわふわのいい匂いだ。
愛の深さですかね。