強化素材を取りに行くクエストをやりました 武器の能力は杖に付いてるオーブによって変わる…魔法使い最強のオーブは最北の城の中にある、か。村人からの情報
最北の城に入るには騎士とパーティーを組むという縛りがある。二郎もいち兄もここにいるシンジュクの三人もジョブが違う。
待てよ、ホストのチートスキル!使えるかも。
「ねえねえ、話術師。『騎士』と会えないかな。」
「へ?なんで?」
「僕の最強武器が欲しいから。」
「それ、オレっちかんけーないし。」
全く興味のない様子。そりゃそうだろうけど、こんなクソゲーでも最強装備にしないとゲーマーの名が廃るだろ。
「あれ、さっき会ったよな、一二三。」
お、商人情報持ってんの?話術師より使えるかも。
「騎士?あー盗賊といた奴か。あれ騎士団長って言ってなかった?」
「え?騎士団長!スキル強いヤツじゃん。」
話術師の曖昧な記憶力じゃ頼りないと思っていたけど隣にいる商人も「そういえば…」と言っていたので信用に値する。
「会いたい?」
「うん!」
「オレっちはあんまりオススメしないっすよ。多分厄介な気するし。」
「そ、そんな事ないって。多分三郎くんなら大丈夫かと。」
変な人ならお断りなんですけど。商人がわざわざ僕に取り繕うって事は知り合いなのかもしれない。吟遊詩人やら着ぐるみ怪獣にも会ったし他に知ってる人がいてもおかしくない。
「三郎、お前そのクエストすんのか?オレ違うのやるわ。じゃあな。」
「あ、二郎!ま、いっか。それで、その人どこに居るの?」
二郎は僕らのやり取りがつまらなかったのか一人で何処かへ行ってしまった。でもこのクエストに二郎はぶっちゃけ必要ない。一人で遊んでて貰った方が気が楽だと思い特に引き止めもしなかった。話術師に居場所を聞く。
「ん?知らないけど。」
話術師とことん使えない。てか話になんないくらい自由すぎ。スキルがチートってだけでも結構イラッとくるのに。
「一回会ったんだろ。フレンドとかなってないのか?」
「さあね。」
「そんな機能あるのか?」
「僕も知らないけど……」
「ま、歩いてりゃ見つかるっしょ。」
キラッと話術師を光が一瞬包んだ。
お、スキル発動か。
歩いている間に新たに最北の城のオーブは三人で行かないと取れないという情報を得る。三人……話術師以外と組みたい。
「お!はっけーん!」
話術師の指差す先にシルバー鎧に高貴なマントを羽織った背の高い男が立っている。後ろ姿はめちゃくちゃカッコいい。
「チチチーッス!」
話術師が後ろから走って挨拶しに行く。
「またあなたですか。」
「あれ?ドロボーさん達は?」
「ああ。あのまま捕まえてもつまらないので少し泳がせてるんですよ。」
あの口調。
まさかと思い商人を見ると僕に向かってヘラヘラしている。
こいつ、僕らが付き合ってんの知ってんだよな。クソッ。
「そういえばあなたのお連れさんはいらっしゃってないんですか?」
「独歩?後ろにいるよ。」
話術師が親指で後ろを指す。商人はヘラヘラしたままだ。『騎士団長』の銃兎はこっちへツカツカと歩いてきて
「観音坂さん、なにヘラヘラしてるんですか。山田三郎くん、何故シンジュクの方々と一緒にいるんです?」
めんどくさい。これならオススメされなかったのは頷ける。
「もう会ったからオレっちはお役御免っすよね。あ、やべ。そろそろ寝ないと。」
「寝る?」
「今日お仕事二部なんだよねー。今から寝て深夜起きなんだー。」
「二部?深夜?」
「中学生に何を言ってるんです。仕事ならさっさとお帰り下さい。」
「入間っち冷たくない?」
「そんな事ありませんよ。お疲れ様です。」
「うわ、追い出された。ま、いいや。じゃオレっち落ちるね。バイバーイ。」
話術師がフッと消えた。こんな感じで消えるんだ。
「それで、私を探していたんですか?」
「あー…別に銃兎を探してたわけじゃないんだけど、僕と一緒にクエストやらない?」
「クエスト?」
「僕の装備を最強にしたいんだけど、条件が城に入るための『騎士』と三人パーティーなんだよ。今話術師抜けてちょうど三人だし行けるならこのまま行きたいんだけど。」
「『騎士』が必要って事は戦闘があるって事だろ。俺は遠慮してもいい……」
「私はもちろんご一緒しますよ。今から三人目を見つけるのは大変ですから観音坂さん、もちろんご一緒していただけますよね。」
「…………はい。」
「やった!」
最北の城までの道中、戦闘は魔法使いの僕と騎士団長の銃兎で倒しながらレベルアップしていった。商人は戦闘にはほとんど加勢する事はなかったけど、アイテムの目利きや値段交渉をしてくれたりと道中の財産運用に力を発揮してくれて気づけば装備も財力も強さも強いパーティーになっていた。
オーブの入手方法はまず城の入り口を塞ぐドラゴンを倒す。城に入り王に忠誠を誓う試練をクリアすると王から貰えるというものらしい。
最北の城の前には橋があり、そこからしか城の中へは入れない。しかしその橋の前にドラゴンが巣くっているので城下から城へ行く事も城から城下へ行く事もできない、という。
ドラゴンは道中のレベルアップの甲斐もあり、『騎士団長』が「騎士召集」をかけボコボコにしたところを僕の現時点で最強の魔法を駆使して難なく勝利を収める。商人は特に何も役には立たなかったがそれは想定の範囲内だから問題ない。報酬が割高で入るだけでもいる意味があるし。
城の内部へ入ると歓迎ムード一色になる。これならオーブ貰うのなんて楽勝じゃん。
王「汝らの活躍見事であった。これからも我に忠誠を誓うのだ。今から問う質問に嘘偽りなく答えよ。」
これが試練?
王「騎士よ汝忠誠を誓うか。」
「はいって言えよ。」
「なんです?私ですか?」
銃兎、ゲーム全然やらないから仕組みがわかってないところがあるんだよな。
「いいから「はい」って言って。」
「……はい。」
王「魔法使いよ。汝の働き見事であった。我が国を共に護っては貰えまいか。」
「はい。」
王「ではここまで共に戦ってきた者同士絆を示せ。これから三つの質問をする。そこの商人は証人となれ。」
三つの質問か。ここに来るまでのエピソードなら楽勝だな。銃兎も記憶力は確かだから問題ないだろう。
王「互いの好きな所を三つ挙げよ。」
「は?」
「え……」
「?どうしました、二人とも。」
僕は質問の意図が分からず立ち尽くす。多分商人も同様なのだろう。銃兎はそもそもゲーム自体がピンときてない。
王「互いの好きな所を三つ挙げよ。」
「三郎の好きな所ですね。賢い。可愛い。エロい…まだ足りませんけど、いいんですか三つで。」
銃兎は真面目な顔して答えている。いや、エロいってなんだよ。
王「互いの好きな所を三つ挙げよ。」
「へ?えっと……」
王「互いの好きな所を三つ挙げよ。」
うるさい王様だな。
「え、っと…背が高い、博識………んー……仲間思い?」
「ちょっと、なんでそんなに時間がかかるんですか。」
「いや、だって…」
「しかも疑問形で終わらせましたよね。」
「いいじゃないか。」
王「証人よ相違ないか。」
「は、はい。間違いありません。」
(俺がジャッジするのかよ…何を聞かされるんだ俺は……)
王「互いの嫌いな所を三つ挙げよ。」
「へ?ゲーム内のエピソードじゃないの?」
「おやおや困りましたね。」
「だからなんなんだこの質問……」
王「互いの嫌いな所を三つ挙げよ。」
嫌いな所、は別にないんだよ。まあ適当でいっか。
「えっと、声がデカい、口うるさい、嫉妬深い。これでいいよね。」
「ちょっと待ってください。そんな風に思ってたんですか。」
「いいから!僕の嫌な所三つ!」
「ありませんよ。」
「無きゃ困るんだって!」
銃兎がヘソ曲げた。違うんだって。これはミッションなんだからテキトーに言ってくれればいいだけなんだから…
「三郎は私が口うるさいと思っていたんですね、心外です。」
「いや、だから、そんなのあとで説明するから僕の嫌な所を言ってってば。」
「だから無いって言ってるでしょう。」
「あるだろ?子供っぽいとか、理屈っぽいとか。」
「子供が子供っぽいのは当たり前でしょう。理屈っぽいと思った事はありませんよ。」
「子供ってなんだよ!」
「そのままでしょう!」
「あ、あの、ケンカしてる場合では……」
商人はオロオロしている。
王「互いの嫌いな所を三つ挙げよ。」
「ね、入間さん。嘘でもいいんですよ。」
「嘘でも三郎の嫌いな所はありませんよ。」
「強情すぎ。」
「なんだと!」
「これ、言わないと三郎くんの欲しがっているオーブが貰えないんですよ。」
銃兎は一人冷静な独歩に諭されようやく少し静かになる。
「……ふぅ…生意気、ブラコン、我儘。」
「なんだよ!僕ワガママなんか言わないじゃないか!」
「強いて言えばって事ですよ。なんでもいいから言えって言ったのはあなたでしょう。」
「ちょ、ちょっと二人とも、話が進まないので静かに……」
「その割にはスラスラと口から出てきたじゃないか!」
「あなたがしつこく言うからでしょう。そんなに怒ることないじゃないですか。」
「だって無いっていう割にまだありそうなくらい……」
独歩がスッと息を吸う。
「うるさーい‼︎」
聞いたこともないほど大きな声に言い争いがピタッと止む。
王「証人よ相違ないか。」
「はい。ありません。」
僕と銃兎の間に独歩が立ってバチバチしているのを宥めながら王の言葉を待つ。
王「最後に全員に質問じゃ。我が国に忠誠を誓うか。」
「「「はい。」」」
王は忠誠の証と言って宝箱を取り出す。中身はもちろん炎系最強装備『太陽のオーブ』だ。これで最強魔法が撃てる…が釈然としない。
「あんなにスラスラ出てくるって事はいつも思ってるってことだろ!」
「三郎こそ私の話を口うるさいと思ってたのなら心外ですよ!しかも声がデカいってなんですか。」
「声はデカいだろ!ね、商人。」
(はあ……勘弁してくれ。)
商人はいつも通りヘラヘラしている。
「三郎くん、オーブもらえて良かったね。あの質問はお互いの親密度を示すってことだったのかもね。」
「え?」
「知らない人同士では成り立たない質問でしょ。差し障りのない答えでもクリアできるかもしれないけど。」
「…まあ。そう、かも。」
「観音坂さんにはお分かりかも知れませんが私と三郎の親密度はかなり深いですからね。あんな質問に答えるのは造作も無い事ですよ。」
さっきまであんなにごちゃごちゃ言ってたのに何ドヤってんのコイツ。
「それに入間さん、嫌いな所はないって最初に言ってたよ。」
「…うるさいな。」
「いいんですよ、観音坂さん。そうやってぐずぐずするところまでセットで三郎の可愛さなんですから。」
あーあ。味方ができたと思っていい気になってるし。まあ追求されるよりマシか。
「あ、そうだ。商人としてのクエストはないの?」
「ー…そういえば最初の街で品物受け取ったままでクリアしてないな。」
「どういうクエスト?」
「隣町に届けるって……」
「は?どこ?」
マップ画面を開くと目的の街は遠いが僕は一度行った街には移動できる魔法を使う事ができる。とりあえず最初の街へと飛んだ。
「ああ、最初の街だ。」
「当たり前だろ。…そういえばオマエの恋人にも会ったよ。」
「へ?」
「おや、このゲーム高いのに。パチンコの景品でもらったんですかね。」
「いや、小説家先生のお供やってたから所有者はそっちだと思う。」
「なるほど。」
そんな話をしていると目の前を猛ダッシュで件の遊び人が通り過ぎて行く。その後ろから取り立てらしき街の人が大声あげて追いかけている。
「ほう。噂をすればなんとやらですかね。」
「行ってあげたら?お金、必要なんじゃない?」
商人はこの旅でひと財産築いている。「仕方ない、行ってやるか。」と僕らに別れを告げた。
「三郎、これからどうするんですか。」
「えー?このゲーム売りに行くよ。」
「そうですか。ではその前にもう少し一緒に冒険しましょう。」
思いのほか銃兎は楽しんでいるようだ。
だけどタイムリミット。
現実世界で二郎が叫んでいる。
「ごめん、お昼ごはん出来たって。落ちるね。」
そう言ってゲームの電源を落とす。
スマホで「ゲーム売りに行くから車を出して」ってメールを送る。
現実世界で会いたくなったから。