ホラーの結末 ゴールデンウィークという謎の連休で銃兎の家に来た。
自分の意思ではなく「連休なら遊びに来れるよな」という圧力が恋人からかかったからだ。無視してもよかったんだけど萬屋ヤマダは二郎のサッカーの試合があるからいち兄も応援行くからお休みで僕はヒマだし。
それでも昼間は連休前の最後の依頼で小学生向けの学習塾の手伝いをしてきた。そこの子供達に今学校で流行ってる配信動画の話を聞いた。どうやらホラーらしい。でも小学生に流行っているっていうんだから大して怖くも面白くもなさそうだな、と思いつつ、時間を持て余している今、少しの暇つぶしのつもりで動画サイトを開いた。
しんと静まり返った部屋で一人ホラーなんて見たことはなかった。大体二郎と二人で見てて、僕が少し怖いなと思うくらいでも二郎が涙目でガタガタ震えている状態になってて、運営の思惑以上のリアクションを取ったりするからその様子を嗜めて安心しながら気持ちを落ち着けていたんだなと今なら思う。
誰もいないのに気配を感じたような錯覚に見舞われキョロキョロしてしまう。作中で何度も出てくる部屋のシーンが殺風景でまるでこの部屋みたいだから余計に怖さを感じてしまう。
見なきゃよかった……でも続き気になる……
という悪循環。体を丸めながら画面を食い入るように観てしまう。でも怖くて仕方ない。
バタン‼︎
急な大きな音にビックリして「ヒッ!」と変な声を出して頭を抱え込んで丸くなる。
「何してるんだ」
いつも聞いている声が聞こえ頭から手を離しながら上を見ると銃兎が不思議そうに僕を見下ろしている。
「ん?なんか観てたのか」
ホラー映画が怖かったとかカッコ悪すぎるから「別に」とそのままタブレットの画面を伏せる。
「まあいい。飯、何にする?」
「ご飯?あーそんな時間?」
「そんな時間ってもう九時回ってるぞ。遅くなったから腹減らしてると思って急いで帰ってきたんだけど平気みたいだな」
正直お腹は空いてる。だけど食べたい感じじゃない。軽く適当でいいや。
「じゃあピザにしよ」
「ピザか。重いな」
「え?」
「え?ってなんだ」
ピザ、重いの?衝撃なんだけど。おっさんの胃の具合よくわかんないな。
結局Lサイズを一枚とサイドメニューを頼んで銃兎は二切れくらい食べてあとは僕が食べた。お腹はいっぱい。しばらく喋ってくつろいで。
「そろそろ風呂入るか」
お風呂か……さっきの動画のお風呂場のシーンを思い出してしまう。首を掻っ切られ飛び散る血飛沫と不気味な笑い声……
「ねえ、銃兎。一緒に入らない?」
怖くて一人で入りたくない。子供っぽい理由だけど別に理由は言わないし。
「は?え…っと。い、いいですよ?はい」
何故か銃兎はしどろもどろ。一緒に入るのイヤなのかな。まあ、狭いからゆったりはできないかもしれないけど。
頭と体を洗って湯船に浸かる。小さな湯船なので僕は銃兎の足の間に入るしかないけど嫌がってたわりに僕が湯船に入ろうとしても出るわけでもなく、むしろ「早く来い」とか言ってきた。狭くてイヤだったんじゃないのかよ。洗ってる時も湯船に浸かってる時もずっとしゃべってたから全然怖くなかった。
風呂から上がってもずっと銃兎から離れなかった。黙ったまんまいるのはちょっとおかしいから何かとずっと喋っていた。
「今日はずっとおしゃべりしてるな」
「そんな事ないよ。でも銃兎と話してるの楽しいよ」
「……そうですか」
「ねえねえ、ベッドも一緒に行くよね?一緒に寝よ」
いつも寝る時、大体銃兎は仕事の準備とかしてるから先に寝室行って寝ちゃうんだけど今日は一人で寝室に行くのも怖い。とにかく一人になるのがなんか、なんとなくイヤ。
「へ?あ、はい。いや……え?」
「なに?だめ?銃兎寝るまで待ってるよ、僕」
だって真っ暗な部屋行くの怖いもん。
「あ、はい。じゃあ……うん」
銃兎はなんか歯切れが悪い。まだ眠くないのかも。でも僕、わりと眠いんだよね。
寝室のドアを開けると真っ暗でひんやりした空気をしている。僕を包む感じが全部冷たいから恐怖感を増幅させる。銃兎の腕にぴったりくっついて部屋の中に入る。
ベッドに二人で入る。お布団もやっぱり冷たい。冷たいは怖いに直結しちゃってギュッと銃兎の背中に張り付く。じんわりあったかくってそのあったかさは僕の眠気を誘う。
今日は帰ってきてからずっと三郎は饒舌でご機嫌だなと思っていた。
それに距離感がおかしかった。ずっとぴったりくっついて離れないし、風呂に誘われ、寝るのも一緒がいいと。
これは、そういう事だよな
お年頃だからそういう日があったっておかしくないはずだし。
今だって俺の背中にくっついたままじっと離れずに……
「スースー……」
ん?んん??
規則的な呼吸音は紛れもなく睡眠中の合図。
は?ウソだろ‼︎
生殺しは犯罪ですよ、三郎くん
ひん剥いて犯してやろうか
それにしても可愛い寝顔だな
心を弄ぶ犯人はとっくの昔に夢の中。
悶々と夜が耽っていく。