🐰↔️3️⃣ ん?身体重い?
「ん…三郎、起きたのか」
呼ばれて隣を見ると、鏡?なわけない。
なんで僕が隣にいるの?
「は?なんだ、これ」
「それはこっちが聞きたい。どういうこと?」
銃兎は飛び起きる…てか僕なんだけど。
……入れ替わったんだ。何したかな?薬?マイク?
冷静に考えてもよくわからない。
「おい!これどうなってるんだ。俺が三郎になってるぞ」
そんな事言われなくてもわかってる。何が原因かはわからないが事実としてもう起きている事をどうこう言っても仕方ない。
「わかってるよ。とりあえずどうしたらいいかなんて分からないし、それぞれ予定はあるしこなすしかないと思うんだけど」
なんで銃兎のほうが混乱してんだよ。…でも警察官だよね。こんな重い身体で警官の仕事出来んのかな。
「お前、予定は?」
「今日は学校。これからイケブクロに帰らないと」
「は?じゃあ車で……」
「僕、運転出来ないけど」
そうじゃん。運転出来ないじゃん。仕事、行けないよね。ていうか警官の業務なんてできんのか?
「……お前は有給を取れ。そうだなとりあえず一週間だな。俺が言う通りに喋れば難なく取れるはずだから」
と銃兎のスマホから職場に電話を掛ける。対応するためにスピーカーにし、PCのメモ画面に応えを打つからそれを読み上げろと言われた。
『すみません、入間です。一週間有給をいただきたいのですが。理由?……昨日の件ですよ。知ってますよね。ちょっと調子が悪いんですよ。私、まだ有給は沢山残っていますよね。…………はあ、あなたのこの間の書類はまだ私が保管しているんですよ。……ええ。では一週間よろしくお願いします』
なに?脅し?コイツ職場で何してるわけ?
思いつつ銃兎お得意の煽りを抑揚つけて応えたら相手が勝手に折れた。こいついつもこんな休みの取り方してんのか。呆れる。
「よし。じゃあお前も一週間休みにするか」
は?何言ってんだコイツ。
「三郎、スマホ貸せ」
「やだよ」
「ヤダじゃない」
持っていたスマホを取り上げられる。いち兄の誕生日にしてあったパスワードをあっさりと解かれ何やら文章を打ち出す。
「えーと。いち兄、僕、入間さんちにきてから具合が悪くなってしまい病院に連れて行ってもらったんですが、インフルエンザと診断されてしまいました。入間さんがうちで療養しろと言ってくれてます。イケブクロまで帰るのも辛いので泊まろうと思ってます。心配かけてごめんなさい。っとまあこんなもんでいいか」
「はあ⁈ちょっと‼︎」
スマホをひったくったが時すでに遅く送信されていた。僕あんなバカな文章打たないし。
すぐに返信がきた。
「迎えに行く」
と書かれている。
「銃兎ぉ、迎えに来るって」
「断れ」
「はあ?いち兄にお断りなんてできるわけないだろ!」
「俺の姿でいち兄って呼ぶな。それに断らなきゃ俺が山田家に行くだけだからな。いいのか」
それは断固阻止したい。渋々「すみません。本当に具合悪くて車の移動もしんどいかもです。ごめんなさい。入間さんにはうつさないように気をつけて休ませてもらいます」とお断りのメッセージを打った。いち兄は「そうか。ならそうさせてもらえ。ゆっくり休めよ」という返事をもらった。心苦しすぎる。いち兄ごめんなさい。
銃兎がスーツのポケットから煙草を取り出す。……ちょっと!
「それ、吸わないよね」
「あ」
なんで自分の姿がここに見えているはずなのに煙草に手が出るんだよ。少しは自覚して欲しい。
「悪い。無意識だった」
本当にこのおじさんヤバイんじゃないの?
「酒も飲むなよ」
「ああ、そうか。つまんないな、この身体」
なんだと!でも裏を返せば煙草も酒もこの機会に覚えられるかも。
「変なもんに興味を出すな」
何も言ってないのに。
「さて、シャワーでも浴びてくるかな」
銃兎の朝のルーティーンだから「いってらっしゃい」と見送ってから、え?僕の身体だよね?となる。けどいつ戻るかわからないからこんな事で拒否はできない。葛藤の末何も言わなかった……けど不安。
目が覚めたら隣に俺が見えた。
どうせ昨日の違法マイクの幻覚だ。一緒に歩いているときに絡まれた輩が持っていたマイクがかなりヤバかった。その分精神干渉が強くワンバース攻撃してきたと思ったら勝手に泡吹いて倒れた。犯人逮捕のおまけまでもらってポイント稼ぎにはなったが、時間差でだいぶ強い幻覚を見せるものだったらしい。身体ごと入れ替わったような錯覚が起きている。三郎はマイク騒ぎ自体も幻覚にかき消されてるようだ。この手の効果は長くて一週間。
というわけで見えている姿も感覚も三郎だが、身体自体は自分だし、他人からは普通に見える。
とりあえず三郎は細かい事はわかっていない様子。ここは俺も驚いたフリをして反応をみてみたが少々わざとらし過ぎたか。
やっぱりアイツは未熟なんだな。
精神的なのもあるが、身体もか。まじまじと身体を観察する。明るい所ではなかなか見る事はないし、通常時の様子も、どの程度で反応するのか興味がある。
しかし目に付くのは意外と多い大小の傷跡。肌はハリがあってきれいだが意外と苦労した子供時代を過ごしていたのかと心が暗くなる。生い立ちを考えれば納得もできるが…肩の大きな傷は戦争の名残りらしいし、両親も無くしている……もうそんな気分じゃないな。
結局普通にシャワーを浴びて出る。
「あのさあ、僕眼鏡かけてないから」
何もないのに眼鏡をクイっとあげる仕草を何度も何度も見せられてほんとになんなんだと思う。
「まあ、癖だからな。気にするな」
「ねえねえこのままえっちなことしたらさ、僕がしていいんだよね」
「何言ってんだ。こんな昼間っから」
「だっていつも僕が受け入れてんじゃん。僕、いつまで経っても童貞のまんまじゃん」
「そうだな。でも魔法使いになるまでまだ余裕あるから大丈夫だろ」
「そんなネタ銃兎でも知ってんだ」
「この間一郎の持ってた漫画をちらっと読んだら描いてあったぞ」
「それ、いち兄のじゃなくて二郎の所有物」
「どっちでもいい」
「よくない!」
身体が入れ替わっても何にも動じない銃兎はちょっと怖い。僕、何気に不安なんだけど。
「さすがに俺の身体で体育座りで丸まってる姿は見たくなかったな。お前のお悩みスタイルだけど俺の顔でやると気持ち悪いな」
うるさい!お悩みスタイルってなんだ!てかなんでそんな冷静なわけ?戻んなかったらどうすんの?
ふわっと僕を包んで「大丈夫だって」って言うけど、自分の姿なんだよな。僕そんなキザな事しないし、僕の顔でやられても落胆しかない。
「うん、やめて」
干渉は強かったけど、多分これ、明日には解けるな。俺も三郎もそんなにやわじゃ無いし、飴村乱数の精神干渉でさえ来るのがわかっていれば我を忘れたりする事はない。あんな素人が放った物なら時間はかからないだろう。
それなら今日は珍しくぐるぐるしている三郎を観察して過ごそう。これはこれで楽しいしな。
すごい余裕なんだよな。なんか知ってるのか?やることなす事いつも通りだし。ただ僕がそのいつも通りの銃兎の動作をしてるんだよ。頭が混乱する。味覚も変わってんのかアイス食べたんだけど甘いのがあんまり美味しくなかったんだよね。銃兎は逆で僕が「美味しくない」って言ったアイスを「あ、うま。こんな美味かったっけ」と言っててそのまま全部食べちゃったんだよね。だったらセロリを食べさせてやりたいよ。僕がどんだけ嫌いなのかわかんだろ、いつもバカにするから。
「これから昼メシ食いに行くか」
「え?いいけど。僕ちゃんとできるかな。おじさんぽくなるかな」
「俺の真似だろ、大好きな入間さんなんだからできるだろ」
「……微塵も思ってないけどね」
しれっと何言ってんだコイツ。銃兎の口調、仕草、しかも他所行きの。頭の中で整理してみる。ん?僕の方は大丈夫なのか?と横目で見ると
「オマエはぶすっとして歩けばいいから楽だな」
というぞんざいな言葉が飛んできた。
僕そんな態度悪くないですけど!
「一郎といる時の真似でもするか?」
「いや、それは……いい」
自覚してるくらいあざとい自分なんか見たくない。そして中身が銃兎ってのもなんかイヤ。そんな風に見えてるって事実も知りたくない。
なんだ姿勢よくして歩いてるだけか。俺のイメージはそんな感じなんだな。外から見られている姿はいつも通りなのがわかっている銃兎は特に三郎の仕草に寄せる事もしない。いつも通りのペース。ただいつもより視界が低く感じ、隣で歩いている三郎の目線を楽しめることがとても興味深い。自分のどの部分をいつも見ているのかなんて想像もつかなかったから。
「ねえ!じろじろ見過ぎだよ」
「僕、そんな喋り方しないけど?」
わざと三郎に寄せた話し方をしてみせる。三郎はこっちを睨んで口を紡ぐ。
なんか僕ちっちゃくない?隣で歩いててちっちゃく思われてるとは思ってなかったけど、割と小さく見えるんだけど。あれ?これって二郎とかからもこう見えるわけ?学校では大きい方だから気にした事なかったけど、ヨコハマの人たちもコレよりデカい人ばっかだし、いつも幼子のように接してくるのってもしかしてそのせい?
めちゃめちゃ複雑なんだけど。
「なに難しい顔してんだ」
あ、ちょっと見上げる感じで更に上目遣いなんだ、この目線。ちょっとシャクだな。好き嫌いしてないでちゃんとご飯食べて運動しよ。
ご飯は美味しかった。いつも銃兎が行くただの定食屋さんだったのになんかすごくおいしかった。なんだろ、素朴な感じで、いつもうちでいち兄が作るのにちょっと似てる感じ。でも少し薄味だったような。なんとなく感覚が混ざってる感じがする。
さて、これは。思ったより早くマイクの干渉が解けそうだな。さっさと家に帰ろう。
家に着くと三郎はソファにばさっと横になる。
「なんか疲れた。……足が入り切らない」
いつもならソファに寝そべって少し丸くなれば収まるのになんかムリ。
「足の長さが違うからな。すまない」
なんで謝ってんの?まじで。ムッとしながらも、お腹いっぱいだしすごく眠い。反論する余裕もなく目を閉じてしまった。
これは目が覚めたら干渉は解けてるな。俺の方も頭がスッキリしてきたし。
この手の干渉効果は意識がボーッして疲れるんだよな。
ソファで目を覚ますと対面で銃兎がコーヒーを啜っていた。
「お、起きたか」
「うん。戻ったね」
「ああ」
「じゃ、帰ろっかな」
「馬鹿かお前は。インフルなんだから帰れないだろ」
そんな設定だった。元に戻るかわかんなかったから一週間を目安にしたんだったっけ。
「一週間、よろしくな」
「一週間同居ってこと⁈」
「同棲な」
今更そんなのどっちでもいいけど。
「オマエは病気の設定だったから家にいないとな。ベッドでゆっくり過ごすか」
ゆっくりの意味がわからない。
しかもその指定の場所でゆっくりさせてもらった記憶無いんですけど‼︎
一週間の試練がはじまる。