パーティーはいつものメンツで ⚪︎
五月。初めて会ってから半年くらい。こんなことになるとは思ってなかった半年前。なんで警察官がヤクザとチーム組んでんだろって最初見た時に思った。敵を知るために見たプロフィール。どう見ても真面目そうな七三眼鏡でちゃんとしたスーツ姿の刑事がアロハのヤクザと前時代の軍服ニートと一緒にいる変な写真。
刑事は組対らしいからその繋がりで知り合いなのはわかるけどチーム組んだら裏でヤクザと警察が繋がってるって堂々と晒してんのと同義じゃん、バカなのか?って思ったり。まあ中王区的には国民はもっとバカだからそんなの気にしないって踏んだんだろうけど。
マジでイカれてるな
そう思っていた。いち兄が何故か目の敵にしている碧棺左馬刻の率いるチームだから絶対負けたくなかった。だけど写真からも目力が半端なくてカタギじゃない怖さにちょっと怖気付いたのも事実だった。
それなのに何故か今僕はこのヘンテコチームと結構仲良くなってしまい、その中でも真面目でまともそうだと思っていた入間銃兎とお付き合いをしている。実際のところはそんなに真面目でもまともでもなかったけど。
「ねえ、左馬刻!これでいいの?」
「左馬刻さんだろ!おう。そのまま冷蔵庫入れて寝かせろ」
「チッ!まだ言ってるのかよ。りょーかーい」
「少年、飾り付けはこんな感じでいいか」
キャンプ地から拾ってきた木の枝で毒島が部屋を飾る。
「え、枝?……うん、まあ、いいんじゃない」
「理鶯、その木の葉むしれ」
「何故だ」
「そこにオーナメント飾る」
「ふむ。なるほど……む、葉の裏に幼虫が」
幼虫を指で摘むとそのまま口に運ぼうとする。
「「逃がして‼︎」」
こんな事になっているのは二郎に『誕生日友達と何してる?』って聞いたから。二郎に彼女はいないから恋人との過ごし方は知らないと思い友達との過ごし方を聞いてみた。僕には誕生日を祝ってやるような親しい友人すら周りにいないのでとりあえず参考程度のつもりだった。
「誕生日?えっと……紅白戦とか」
「は?」
「誕生日、部活の練習が試合形式になる」
「なにそれ」
「試合、楽しいじゃん」
「わかんないよ」
「で、そのあとダチとワイワイして遊ぶ」
「……ふーん」
「なんだよ」
「誕生日じゃなくてもしてそう」
「まあな。でも誕生日の日は王様気分」
「王様?」
「ファミレスとかで飯食っても奢りだしな。そんなのなくてもワイワイしてるだけで楽しいんだけどさ、ゲーセン行ったり、カラオケ行ったりいろいろだけどことあるごとに今日は誕生日だしってなんかしてもらえるのうれしいぜ」
「いつメンでも?」
「いつメンだから嬉しいんだって‼︎」
って話から左馬刻に銃兎の誕生日集まれないか聞いてみた。
「そうだなあ、まあ集まれねえこともねえ」
「どこでやろう……」
「銃兎んち」
「え?」
「理鶯に言うとキャンプに来いって言うだろうし、改まってどこかってサプライズになんねえからな。どうせアイツ自分の誕生日なんざ忘れて仕事入れてんだろ」
「サプライズ、する気なかったけど」
「は?誕生日なんざサプライズだろ」
「そういうもん?ま、いいけど」
「で、飯はお前が作れ」
「えー?」
「じゃねえと理鶯が振る舞いたがる」
「毒島さん?」
「なんで理鶯はさん付けなんだ。ま、いいわ銃兎も俺様も理鶯の料理は……ま、その、なんだ……」
「苦手なんだろ。銃兎から聞いたよ」
ってわけで案の定誕生日だってのに絶賛お仕事中の銃兎の家の中で作業中。左馬刻はなんか知らんけど誕生日パーティーのノウハウがあるのか完璧なまでのプロデュースをしてきた。少し年齢層が低めな感じもするが所謂『誕生日』って感じだ。どこからか持ってきた数字の風船やキラキラしたhappy birthdayのガーランドを毒島と一緒に飾りつけたり、僕のところに来て料理の手解きをしてくれたり、盛り付けを手伝ってくれたりした。なんとなくいち兄と同じような世話の焼き方に「兄ってどこもこんななのか?」と思いつつ準備はどんどん進んでいく。とても29の男の誕生日とは思えない可愛い会場に仕上がっていく。
これは……妹にやってたんだろうな
うちの誕生日も小さい頃から僕らが学校に行ってる間にいち兄が飾り付けをしてくれていて、二郎が高校生になっても僕が中学生になっても必ず折り紙を切って作った輪飾りが部屋の壁いっぱいについているし、大きな色模造紙に名前とおめでとうが紙いっぱいに書かれている。
それにしても自然の中から持ってきた木の枝がちゃんと機能したオブジェになるって左馬刻意外とすごいんじゃないか?
部屋の飾り付けに感心する。部屋だけじゃなく僕が作った何の変哲もなかったポテトサラダにハムの花が咲いたり、きゅうりの葉っぱがついたりと料理もなんか可愛くなってるし。でもテーブルにある焼酎やら日本酒の酒瓶や冷蔵庫にあるビールやワインの量がえげつない。なんかサーバーみたいのもあるし。このバランスの悪さは一体なんなんだ。
「左馬刻、持ってきたジャムはどうしたらいい」
毒島の手には小瓶に入った濃い紫色のジャム。
「これなに?」
「小官手製のブルーベリージャムだ。栽培もしているからな」
コイツも謎が多いな。珍しいものを食わせられると銃兎から聞いた。なんなのか具体的には教えてもらってはいないけど心底思い出したくなさそうな表情をしていたので相当のものが出されるのだろう。左馬刻も濁したような言い方だったし。でも持ってる瓶の中身は普通のような。
「食べていい?」
「ああ」
スプーンを出して少し掬って口に入れる。甘酸っぱい。甘さは控えめだし香りが格段に良い。
「うま!」
思わず感想が出てしまうくらいでいつも買うやつよりだいぶ美味しい。
「これは銃兎のお気に入りだからな」
毒島がにこりと微笑む。
「そうなんだ」
「ああ。キャンプでのデザートにいつも食している」
それは口直しなのでは?
「理鶯そのジャムはそのままクラッカーにつけて食うからテーブルの上に置いとけ」
という雑な指示が左馬刻から飛んだ。
……おなかすいた
飾り付けを終えて食事の支度も終わり三人で銃兎の帰りを待つ。特に何するわけでもない。夢中で用意をしてたから自分のお昼ごはんをすっかり忘れてた。時間は夕方16時。今の時間いないってことは帰ってくるのは定時。それならもう少しのはず。定時で帰ってくる事はあんまりない。どうしよう。あ、アイスあったはず……と空腹感を紛らすため冷蔵庫の前に行く。
あ、れ?ケーキなくない?
ご馳走は作った。デザートなのかツマミなのかわかんないクラッカーはあるけどそれ以外のデザートらしきものは作ってない。
「左馬刻、ケーキない」
そう言うと「んじゃ買いに行く」と左馬刻と毒島が立ち上がる。僕も行くと言ったのに誰もいない間に帰ってきたらサプライズが水の泡だと言われお留守番になってしまった。
▼
「ただいま」
誰もいない家の中に入る時もつい言ってしまうこの言葉……誰もいないはず、の……空気があたたかい?
玄関にスニーカーが揃えて置かれている。合鍵を渡してある恋人がどうやら来ているらしい。
「さぶろーちゃーん?」
二人の時しか使わない呼び方でリビングの方に向かう。するとバタンとリビングのドアが勢いよく開いた。今日は随分と元気がいいらしい。
「お、おかえり!早くない?」
「え?あ、ああ。今日は定時で上がれたんだ」
三郎はチラチラとリビングの方を気にしている。
「なんだ。何かあるのか?」
「……ない」
ないと言う割には部屋に入ろうとしない。なにかやらかしたのか。
「三郎、何か壊したのか?」
「へ?」
「部屋に入ろうとしない理由はなんだ。眼鏡でも割ったか?」
「眼鏡?割ってないよ」
キョトンとした表情。眼鏡は無事か。
「ゲームデータ飛ばしたのか?」
「今日ゲームしてない」
「……珍しいな」
「いつもゲームばっかりしてるわけじゃない」
「いいから中に……」
「ん……えっと、銃兎、あのさ」
問答していたら「帰ったぞ」という聞き覚えのある声。振り返ると左馬刻と理鶯?何故うちに?
「なんだもう帰ってたのか」
「銃兎、お疲れ様」
ナチュラルに上がり込んで来て三郎に「ほら」と正方形のデカい箱を渡す。「え?デカくない?」「頼んであったの忘れてたわ」と俺を置いて三郎と左馬刻が会話しながらリビングに入っていく。
三郎へのプレゼント?
三郎の箱への驚きようと俺にはリビングへの侵入を阻んだのに左馬刻とはすんなりと室内へと移動した事実に黒い感情が芽生える。
「む。銃兎どうした。キラーの目になっているぞ」
理鶯の手が肩に乗りハッと我に帰る。リビングの方に目を向けた理鶯が「心配はいらない。中に入れ」と促されながらドアを開ける。
パンッ‼︎パンッ‼︎
大きな破裂音が扉を開いた瞬間に鳴り反射的に身を屈める。すると色とりどりの紙の切れ端が舞い、目の前にも垂れ下がる。
「あ、近すぎた」
三郎は笑い出したが突然の音と目の前にぶら下がるぷらぷらとした紙片と変わり果てた部屋の装飾に驚き呆然とする。「乗っかっちゃったね」と頭の紙屑を三郎が摘んで取った。そして
「「「誕生日おめでとう」」」
三人から同時に発せられる言葉。
ああ、今日誕生日か
忙し過ぎて忘れていた。他人の誕生日は覚えていられるのに自分のだけはいつも抜ける。とはいえいつもは通り過ぎる単なる一日だし、歳を重ねる事に喜びもなかった。祝われたのなんか何年振りだろう。
「あ、嬉しくて感動してんの?」
「そりゃ俺様直々に祝ってやってんだからな」
「銃兎、馳走もあるぞ」
理鶯の言葉にピクッとなると「大丈夫、僕が作ったよ」と俺の背中を押しながら三郎が笑う。テーブルには所狭しと料理と酒が並んでいる。happy birthdayと29の風船の壁の前に座らされ、キラキラの三角帽子を被らされ乾杯。色とりどりのガーランドと可愛く盛り付けられた料理とバカでっかいバースデーケーキ。ケーキには何故かクッキーで作られたうさぎと眼鏡が飾られている。乾杯の酒はえらく高値のシャンパン。テーブルの上の酒も美味そうなのばかりだし、キッチンを見ると簡易のビールサーバーまである。
「酒、すごいな」
「おん?いつもオヤジんとこで飲む時はこんな感じだけどな」
左馬刻には普通ってことか?いや、火貂組の幹部会で出す酒のラインナップって相当だろ。こんなに酒ばっかりだと飲む物が無いのではと可愛い恋人を見れば三郎は安定のコーラを手酌で飲んでいる。
「銃兎は酒が好きだからな。左馬刻があれこれ吟味していたぞ」
「小官からのプレゼントは銃兎の好きなジャムとこれだ」
小さな本を渡される。開くと……三郎のヨコハマでのオフモード写真が写真集のように加工されていた。理鶯がこれを編集したのかと思うと気恥ずかしい。しかしこんなに写真がよくあったものだ。
「何見てんの?」
「理鶯からのプレゼントだ。見るか?」
うんと言いながら隣に座ってページを捲る。するとみるみる顔が曇っていく。
「なにこれ」
「お前の写真だろ」
宣材写真は撮影させられているし、イケブクロの街中にもその産物は沢山あるし、単純に若い世代だから写真には寛容だろうと思っていたのだが、ご立腹のご様子。
「いつ撮られたんだ、こんなの」
確かに言いたくなるようなオフショットばかりの写真集。不機嫌に口を尖らせてたり、大きく口開けて笑ってたり。風景はすべて室内(うちか左馬刻の事務所)か理鶯のベース。
「お前の写真はいつ撮ってもそんな感じなんだよ」
左馬刻がビール片手に言ってくる。
「編集は小官が全て行ったが撮影はほとんどが左馬刻だ」
「いつの間に撮ったんだよ‼︎」
「?特に何時ってのはねえんだよ。今はコイツだから意識させなきゃいくらでもこんな写真撮れんだわ」
悔しそうにしている三郎の前にスマホをちらつかさせる。
「ぐ……」
確かにスマホで撮ってりゃわからないな。ただ三郎がこんなに無防備な表情をする場所がなければ無理な事だ。コイツの外面はなかなかのものだし。
「最後のページは小官が撮ったものだ」
そう言われて開いたページには俺にもたれて眠っている三郎の写真。俺の顔も写っていたがとても穏やかな表情をしていて自分でも驚いた。
「なんだよこれ‼︎」
三郎は真っ赤になって怒っている。左馬刻はいい写真じゃねえかと揶揄っているが俺は心底そう思う。
「盗撮ばっかしてんじゃねー‼︎」
左馬刻に蹴りを入れようとするがひょいと避けられ余計にキーッと怒っている。
にぎやかな誕生日が久しぶりすぎて笑いっぱなしだ。
「楽しそうだな」
左馬刻にちょっかいを出しに行って空席になったところに理鶯が腰をおろす。
「ええ。こんなに笑ったのは久しぶりですよ」
「少年の突然の提案だったが小官もこんなに楽しいものだとは思わなかった」
理鶯の表情も柔らかい。
「みんなが祝ってくれるというのはこんなにも嬉しい事なんですね」
「そう思わせるとは少年の手柄だな。いい伴侶だ」
「ええ。自慢の恋人ですよ」
理鶯からそんなことを言われるとは思わなかったが素直に惚気させてもらう。三郎と左馬刻は戯れあっていて何も聞こえていないだろう。理鶯は俺の言葉に頷きながら三郎を見つめる。
「銃兎は愛情が深いから少年も安心だな」
「そうですか?」
「ああ。愛情は愛情でしか返せない。銃兎からの想いをこうやって返しているのだろう」
「それは買い被りすぎですよ、理鶯」
美味い酒の力なのか理鶯からの意外な言葉に少し驚きながらもそうだったら嬉しいと思う。情が深い事は良いことだけではないが仲間にそう思われているのは掛け値なしで喜ばしいと思う。
「銃兎!左馬刻がひどい!」
「おーおー勝てなくなったら保護者に泣きつくのか」
「保護者じゃないもん!彼氏だし!」
「へーへーやってらんねえな」
三郎から『彼氏』という言葉が飛び出したことにびっくりして立ち上がってしまう。
「お?」
「ん?」
急に俺が立ち上がって二人が驚く。
「どしたの?」
三郎が突っ立っている俺を不思議そうに見ている。左馬刻がにやにやしながらビールを飲む。
「いや、なんでもない」
眼鏡をクッと上げてからストンと静かに腰をおろす。その俺の仕草に「ブフッ‼︎」と左馬刻が噴き出す。
「なに?なんなの?」
三郎は首を傾げている。
そのまま数時間四人で過ごした時間はとても楽しかった。
「じゃあね、左馬刻、毒島さん」
「二人ともありがとう」
玄関で二人を見送る。左馬刻は酔っ払って理鶯に肩を預けながら、理鶯は左馬刻を気遣いながら前を向いたまま手を振っていた。
「危ないね、左馬刻」
「理鶯がいるから大丈夫だろ」
二人きりだが三郎もそろそろ帰宅する時間だ。今日は俺が酒を飲んでしまったので送っていってやることはできないから駅まで見送りかと上着を取ろうとすると
「今日、泊まる」
という衝撃発言。
「え?」
「だから泊まる。だめ?」
「い、いいです、けど……お兄さんには?」
「来る時いち兄に言ってきた」
「………………」
「なに?」
「ゲーム、したい、とか?」
「なんでそんなカタコトなんだよ。銃兎がしたいならゲームするよ」
いや、したいのはゲームではありませんけど
「人生初の恋人の誕生日、一日かけてお祝いしたいじゃん」
真っ赤になって俺に告げる。そして背伸びして俺の唇にチュッと口づけてきた。が、恥ずかしさに耐えきれなかったのか頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「ありがとう」
丸くなっている三郎と同じようにしゃがみ頭をポンポンと撫でる。突っ伏していた顔を少しあげる。照れた表情がたまらなく愛らしい。
「楽しかった?」
「ええ、とても」
「よかった。低脳もたまには役にたつ」
「ん?」
「こっちの話」
しゃがみ込んだままの会話。こんな体勢で話をするなんていつ振りだろう。学生の頃はよくやっていたような。
「さて片付けるか」
立ち上がって腰を伸ばす。それを見て三郎が「おっさんくさ」って笑う。しゃがんだままの三郎の頭をペシッと叩き「片付けるから早く立て」と言えばしゃがんだままピョンと跳ねて立ち上がる。
……こんなところに年齢差を感じるとは
「どしたの?」
「いや」
「僕食器洗おーっと」
「じゃあ俺は装飾外すか」
「えー!装飾ははずさなくていいよ」
「……いや、外すだろ」
祝ってくれる気持ちは嬉しいしありがたいけどファンシー過ぎるんだ、壁が。
「じゃあ今日はつけっぱなしで!明日僕が片付けるから」
もう誕生会は終わったのだから外せばいいのにと思うがこういう余韻がいいのかもしれない。
誕生日が仲間や恋人と過ごす時間になるなんて数年前には考えられなかった。
新たな一年でより深い絆を結んでいけたら幸せだろうな
なんてしみじみしていたら
「銃兎、ボーッと突っ立ってないでお風呂やってー」
とキッチンで洗い物している三郎から声を掛けられる。三郎はなんとなくちょっと張り切っていて俺をこき使ってくるがこれは照れ隠しと少しでも早く二人の時間を作りたいって思ってる現れだと思い言われた事を黙って熟す。スムーズに事が運ぶと上機嫌なのは事実だし。
風呂に入りまったりと二人の時間を過ごす……のかと思ったら突然の勉強時間。
「それ、なんですか?」
「え?見てわかんないの?ドリルだけど」
「ドリル」
久々に聞いた単語。そういう事じゃない。
「漢字、今度検定受けるんだ」
「そ、そうですか」
「これ終わったらもう一冊問題集ある」
「え?」
「数学の」
「ね、熱心ですね」
「ルーティンだから」
静かに漢字練習をし、数学の問題を解いていく。邪魔をしないよう俺は読みかけの本を読んで待つ。
静かな時間。
一晩過ごすのは初めてだ。泊まるって宣言してくるのもすごいがスタンス崩さずルーティンをこなすってなかなか考えないだろう。三郎のこういうところは面白い。普通初めてのお泊まりなんてドキドキで舞い上がるんじゃないのかと思うが(実際俺の方は舞い上がっている)そんな素ぶりが一切見えない。
まあ、いいか
三郎と夜の時間を過ごす。ルーティンのお勉強が終わると俺の隣にちょこんと座る。
「……緊張する」
小さくうずくまって呟かれ驚く。
「そうですか?」
「うん……いつも通りすればなくなるかとおもったんだけど……」
びっくりするくらいおとなしい三郎。それでルーティンかと納得する。落ち着かないのを落ち着けるためにいつもの事をいつも通りするところが三郎らしい。髪をわしゃわしゃしてやって緊張をほぐす。
「んもう!なに?」
ぐちゃぐちゃの頭を撫で付けながらこっちを睨む。
「ご期待通り狼になるとするか」
「オマエはうさぎだろ」
「それじゃ兎の性欲を見せてやるか」
三郎はプッと吹き出し「なにそれ」と笑う。そして「あ、これ」と小さな袋をポケットから取り出した。
「お誕生日おめでとう。なにがいいかわかんなかったから」
開けると……萬屋ヤマダと書かれたモバイルバッテリー?
「ノベルティ、ですか?」
「ち、違うよ!これは同じの僕しか持ってない。……僕が作ったから」
「え?作った⁉︎」
「容量大きくて何にでも繋げられて軽くてって売ってなくて。」
確かにあらゆるアダプターが埋め込まれている。
「へえ……すごいな」
「……あとちょっと電波も拝借できる」
「おい!」
「飛ばしてる方が悪い。セキュリティは全部自動でブチ抜くよ。中王区でも試した」
本日一番のドヤ顔。
「犯罪じゃねえか」
「できるってだけ。よっぽどの事がなければフリーを使うよ」
「どうやるんだ」
「……共犯だからね」
いざという時用に教えてもらい、もう一度共犯と念を押された。末恐ろしい中坊だ。
ありがたくプレゼントをいただき御礼におでこにキス。驚いた三郎が上を向くからそこで唇を奪う。少しずつ深く…………
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一晩中温かな体温を感じながら幸せな夜明けが訪れる。
幸せから始まる一年に感謝