真意はなんだ「みて!お風呂場にテレビついてる」
只今中坊連れて社会見学中。どこ行きたいという問いに『ラブホテル』という恋人の要望。まだ一線超えていないのになんでこんなとこに来なきゃなんないんだ。お子様はチューの一つでお顔を真っ赤に染め上げるクセにこういう所に興味がないわけじゃないらしい。
「テレビつけていい?」
「ダメですよ」
「なんで?」
「未成年は見てはいけないのが映るからです」
「そうなの?」
「チャンネルによってですけどね」
「へー。よく知ってんじゃん。さすがおじさん」
本来未成年のこいつは入れないラブホだがこのホテルはグレーなので一応セーフ。絶対アウトな内装だが法的には普通のホテルだ。なんでわざわざこんなところに来たがるんだか。はしゃいでまわってる三郎を横目にベッドの端に座り煙草に火をつける。こんなとこまで来て何もできない虚しさはこの穢れ知らずのお子ちゃまにはわからないだろう。
「煙草吸っていいの?」
「灰皿あるだろ」
「……なに?このパネル」
ボタンのたくさんついたパネルをぽちぽちと押し始めると部屋の照明が変わる。
「うわーすげー!」
無垢な感嘆。それはムードを盛り上げるために使うんですけどね。
「こっちの箱は?」
「それは開けない方がいいんじゃないですか」
コンドームやらローションが入ってるから一応注意喚起はしてやる。こんなとこだし別にあって当たり前だからそれ以上は言わない。開けない方がいいと言われれば当然開けたくなるだろうけどな。
「じゃいいや」
箱は開けずに冷蔵庫へ。
(嘘だろ?)
素直すぎて心配になるレベルだ。三郎は信頼すると過剰なほど素直に言うことを聞いたりすることがある。一郎には常に発動しているのだが俺の言うことでも発動することに今衝撃を受けている。
「ねえ、コーラ開けて飲んでいい?」
「どうぞ」
コーラを取り出して口につけながらしゃがみ込んで自販機を覗き込んでいる。
「なにこれ」
「オモチャですよ」
「おもちゃ?何に使うの?」
「セックスの時に」
「…………へえ」
思いっきり引いてるな。
「聞いていい?」
「なんですか」
「使った事ある?」
「ありませんよ」
くだらない質問だ。三郎がベッドの上に乗ってくる。
「せっかく来たからセックスしようよ」
特大の爆弾を放り投げられ唖然としてしまう。
「しませんよ。興味本位ですることじゃない」
「じゃなんで来たの?」
「お前が行きたいっていうからレジャーですね」
「ずっと仏頂面でこわいんだけど」
「こういう所は好きじゃないんでね」
「そうなの?」
「早く帰ってゆっくり寝たい」
「……えっちきらいなの?」
(は?このまま抱き潰すぞ。)
こっちの気も知らないでそんな質問するのかと呆れながら三郎を見ると大きな色違いの目が不安そうに揺れている。
「銃兎、全然手出してこないし、こういうとこ来れば少しはと思って……」
(やってよかったのか?キスで真っ赤になってたのに?)
「ま、待て。お前、したかったのか⁉︎」
三郎の顔が真っ赤に染まる。これは完全なる肯定。
「……わかった。帰るぞ」
三郎の手を取る。こんな所でなんてまっぴらだ。その時のために準備した諸々が我が家にある。絶対に後悔させないシミュレーションもしてある。
甘くグズグズに開いてやるから覚悟しておけ