檸檬18 ⅲ. 昇天
青い彼岸花を見つけてから一ヶ月も経たないうちに、無惨は太陽を克服した。抽出した毒となる蜜を炭治郎の血液で中和することで薬は完成した。今までの費やした時間と苦労はなんだったのかと思うほど、呆気ないものだった。
積年の夢を漸く果たしたはずなのに、満足感どころか達成感すら感じない。もっとやりたい事とか沢山あったはずなのに何も思い浮かばなかった。心にポッカリと空いた穴はこれだけで埋められるほど浅くはなかった。
ただ、良かったこともある。この虚無感を紛らわせる方法を手に入れることが出来たのだ。窓辺の陽当たりのいい場所で日向ぼっこをしたり、干したての布団に包まって眠ったりしている時だけは傷心が一時的だが癒えた気がした。陽だまりは炭治郎を思い出させてくれる。意志とは関係なく日に日に薄れていく彼の記憶を自分の中に留めておきたくて、無惨は天気のいい日は毎日布団と市松模様の羽織りを干して、夜はそれに包まれて眠っていた。
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