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    うぐいす

    @OzDfUaIMhwrnARh
    うぐいすです。カミュ主垢。主カミュリバも◎

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    うぐいす

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    ユグノア復興途中の話。
    ふんわりかみゅしゅ。

    護るために 邪神を討ち果たし、仲間たちと別れたあと。イレブンは牧歌的なイシの村で平凡な、それでも愛おしい日々を送っていた。鶏の世話をし、畑を耕し、魚を釣ったり、子供たちの世話をみたりしながら毎日をすごしていた。
     そんな折、ロウから誘いを受け、マルティナをはじめとしたデルカダール全面支援を取り付けたのもあり、ユグノアの復興にもイレブンは力を貸すようになっていった。唯一残った肉親の願いを叶えたいというのもあったが、何より美しく蘇った彼の地の姿を見ていたいと純粋に願って。
     最初はたまに、多くても月に2回程度ルーラで訪れるくらいの頻度であったが、徐々に復興が進むにつれ、瓦礫の撤去といった力仕事だけでなく、今後どういう街に、ゆくゆくは国にしていくかといった国づくりの基幹とも言える具体的な話にもなっていく。
     そしてその話し合いの中心はかつて賢王と言われたロウであり、ユグノアの正統な後継であるイレブンになっていくのは至極当然の流れといえた。気がつけば街の郊外に小さいながら拠点を構えて。そこにいる頻度がイシの村にいるよりも多くなってきて。イレブンが覚悟を決めたのはそういった生活が3年ほどたったある日のことだった。
     そもそも、イシの村で育ってきた身。権力、ましてや王位などという肩書きには興味なんてなかったのだ。それは今も変わらない。しかし、ロウの旧知の間柄の友人や、父や母を知る人とふれあうにつれ、ユグノアの地を愛する人々の存在を、街づくりの最中で知ってしまったから。自分でも驚くほど、ユグノアの地で、過ごしていくことに抵抗が無くなっていた。やはり心のどこかで、イシの村だけでなくこの地も故郷だと思っていたのかもしれなかった。
     
     ある晴れた日。大分街として形を成してきた街の郊外で、簡易的に立てたほったて小屋。街を再構築するにあたり今後必要な物資、それにともなう各地からの支援などをどの程度求めるかなど、街の設計図を見ながらイレブンとロウの二人で今後について相談をしている時のことだ。次はそろそろ城に着手することになりそうな段階まで話は及んでいた。
    「物資に関してはデルカダールをはじめとして各方面から援助が大分きておる。当面の問題はなかろう。それより、問題は。人、じゃな」
    「人……」
     ロウはこくりと首肯した。
    「民なくしては国は成り立たん。幸いかつての戦火を逃れたかつてのユグノアの民はまた戻ってきつつある。問題は、国を守るための力。兵力じゃな。かつてのような出来事を繰り返してはならん。強力な戦力、それも戦慣れしておるものが今後必要となるであろうな。それも、誰よりも信のおけるものがな」
     その時扉からこんこん、と控えめなノックがあった。「ちょうどよいところにきおった」とロウは目を細めて入って良いぞ、と声をかける。
     すると扉が開かれ影がさし、こつこつと音がして誰か近寄ってくる気配に目をあげると懐かしい顔が見えた。
    「よっ、忙しそうだなぁ、イレブン」
    「……カミュ!?」
    「へへ、そうだよ、カミュだ。まさか忘れちまったのか?」
    「忘れてなんか……!ずっと、探してたんだよ!?あとその、少し雰囲気変わった、気がして」
    「そうか?」
     頭を照れたみたいにガシガシと掻く仕草はかつてのカミュそのものであるけれども、髪は最後に出会った時よりだいぶ伸びてそれを後ろに一つに束ねているし、かつてより身体も全体的にがっしりとしているように見える。そして何より目を引いたのは服装だ。
     イレブンが初めて見る衣装に身を包んでいて、海賊王の服に装飾などは似ているが、形が明らかに違う。どちらかと言えば騎士の服という方がしっくりとくるようなそれ。気品すら感じるような意匠はカミュの大人の色気を増しているようにすら思えて、なんだかイレブンは落ち着かない。たったの三年会えないだけで、こんなにもかっこよくなるものか、もともと格好よかったのに、更に。対して自分は主にこう言った事務仕事ばかりにかまけてしまって鍛錬もできず、あの時より力は落ちてしまっているかもしれなかった。
    「さて、わしはちと皆の仕事を見てくるかの」
    「え、ロウじいちゃん?」
     イレブンが目を白黒させている間にロウは扉の向こうへと消えていった。あとは、わかいもんでな、なんて意味ありげにカミュに目を向けて。
     そうして部屋に残ったのはイレブンとカミュの二人きりだ。
    「イレブン、久しぶりだな。……っ、と」
    「カミュ…っ、カミュ……!もう、ボク、会えないって思ってた……っ」
     溢れる気持ちに逆らうことなく、カミュに勢いをつけて抱きついた。数年出すまいとしていた涙が次々と溢れておいていく。それをカミュは旅をしてきたときと変わらぬ優しい手つきでぽんぽんと背中を撫でてくれていた。
     会えなかった期間。イレブンからカミュの行方を探そうとしたことはあった。近況を知らせたかったのもあるし、復興がすすむユグノアに来てもらいたかったから。何より、これが一番の目的なのだけどただただ、会いたかったからだ。
     業務の合間を縫いルーラで探しにも行った。かつてすんでいた洞穴にもおらず、色々な街でも目撃者すらいなかった。いっそ不自然なほどに途絶えた情報に、意図的に消えているとしか思えなかった。一年前からマヤがメダル女学園に入学したのを最後に糸がぷつりと途絶えていた。
     それが急に会いに来てくれたのだ。嬉しくないわけがなかった。
     抱きついたイレブンをあやすように、カミュは変わらぬサラリとした髪を弄ぶとイレブンも少し気持ちが落ち着いてきた様子だった。いずれ王位につくというのに変わらぬ一面をみせたイレブンにカミュはふっと心に灯りがともる。 
    「実はロウのじいさんには色々と相談していたんだ。お前にはちゃんとしてから会いに行きたかったから、口止めしてもらってたんだ。心配かけて、悪かった。誰にも文句を言われないように、必要な後ろ盾と振る舞いってやつを身につけてからって思ってさ」
    「……っ、なに、それ」
     イレブンは急に色々と聞かされて戸惑った。あえなかったのはカミュ自身が口止めしていたから。いったい、なんのために。
    「世界を共に救ったっつっても出所不明の元盗賊なのはかわらねぇ。口さがねぇやつらにオレ自身が何言われたって構わねぇけど、お前まで何か言われるのは避けたかったんだ」
    「それにしても連絡くらいくれたって……」
     尚も恨み節が止まらない様子のイレブンに、一度会いにいっちまったら甘えが出ちまうと思ったんだとカミュは話す。
    「それとも、お前には。オレはもう必要ねぇか?」
    「……!」
     それを聞いてイレブンはぶんぶんと大きく首を横に振った。
    「そんなわけない…っ、でも」
     ぐっと拳を固めてイレブンはここ三年間の葛藤を思い出す。今はイレブンも19歳になる。王位継承をするにあたり、綺麗事では済まさない謀略計略が世の中にはあるのだと、知った。だから、ただ何も知らない子供みたいに駄々をこねて、身分を持たない、一介の元盗賊の身であるカミュを隣に置きたいのだとただ言うことが、望まない火種になりかねないことも。
     行方をくらましたカミュはきっとその辺りも分かって消えたのだろう、とも思った。それでも、最愛の相棒を忘れることも、ましては諦めることなんてできるはずもなかった。だって、この世で一番焦がれた相手なのだから。

    「さて、イレブン。……いや、イレブン殿下」
     カミュはその場で片膝をつき、イレブンに向かい頭を垂れた。突然のことに戸惑い慌てるイレブンの様子を気にするそぶりもなく、カミュはそのままの姿勢を崩さない。
    「イレブン殿下にお願いがあり、本日は参りました。最初は一兵卒からで構いません。オレをユグノアの騎士団に入れて頂かないでしょうか」
    「……、!」
     イレブンは何かを言おうとしたけれど、カミュの真剣な眼差しに射抜かれて口を閉ざす。
    「オレはこの三年間。必要な作法の基本は、ソルティコのジエーゴ師匠やグレイグ将軍のところで一通り納めて参りました。最初から隣に立とうとは言いません。それでもかならず。どこの誰から見ても文句のない働きをして、のぼりつめて、それで」
     そこですっとカミュは顔を上げた。決意を秘めた眼差しでもってイレブンを見つめる。
    「お前の隣に並び立つにふさわしいオレになるから、だから、……ここまで待たせておいて何言ってんだって話だが。その時まで、待っていてくれないか」

     実力から言えばこと接近戦においてカミュといい勝負ができる存在なんて世界ひろしといえども、それこそイレブンくらいだろう。だがそれでは、力で知らしめるだけでは成り上がりものだと納得しない輩もでてくる。勇者の仲間だからと贔屓されているだけと口さがないものもいるだろう。それでもカミュは、かまわない。だけれど、それだけではイレブンを守ることには繋がらないのだと、ロウに教わっていたのだ。かつての王、護衛隊長であるアーウィンですら貴族の出ではないことで謗られていたのだから。二人のこれからの道がより安泰になるように、ロウの助言のもとカミュは各地で研鑽を積んでいた。

     盗賊上がりを贔屓してるならずものの王だとイレブンに悪評がつくことは我慢がならない。でもイレブンのそばにいて、護ってやりたい。だから、堂々と並び立つためにいっときの離別を選んでいま、カミュはここにいる。騎士の名士ジエーゴに師事し後ろ盾を得て、かたっくるしい礼儀作法なんぞ身につけたのも騎士としての振る舞いを学ぶため。デルカダールでは社交の場で隣に立っても不自然ではない程度の教養を身につけるため。慣れない全ては、全てユグノアの王となる道を選んだイレブンの側にいるためのものだ。

     イレブンはカミュの真摯な言葉を聞き終えて、すうっとカミュの前に立った。その凛とした佇まいは、まさしく次代の王の器を感じさせる。なのに、ぼろぼろと瞳から溢れるそれが、まだ王にはなりきれない年相応の、何者でもないただのイレブンなのだと知らしめた。

    「かならず、ボクのとなりに、きて。いつまでも、待ってるから」
    「……あぁ、約束だ」
     それから恭しくイレブンの手を取って、カミュはうすく紋章の残る手の甲に口づけを一つ落とした。
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