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    特殊施設的なタイトル未定の話続きました神高男子が登場します。🌟🎈

    未定#2黒

    ​軽い電子音を立ててエレベーターが到着したのはA1階。一般には立ち入り禁止フロアで、三つあるうちの一番下の階だ。
    若干緊張する俺をよそに開くエレベーターの扉。

    「はじめまして、青柳くん」

    エレベーターホールで俺を待っていたのは、一人の青年だった。

    「はじめまして。フロアについて説明をするから、着いてきてくれるかな」
    「はい」

    そう言われてひとまずエレベーターを降りる。
    同時に扉は閉まり、箱はすぐに他の階へ流れていった。

    俺が降りたのを見届けた青年は、すい、と背中を向けてエレベーターホールから伸びる通路に入っていった。
    ついてきてくれと言われた通りに、置いて行かれないよう足を速める。

    前を歩く俺よりもいくらか背の高い青年。俺たちと同じような服装だが、その色は真っ白だ。さっき見た顔に見覚えはなかった。

    「そんな見なくても、あとで自己紹介をさせてもらうよ」
    「は……すみません、」

    青年は、ちらりと振り返っていたずらっぽく笑った。


    ―――


    「どうぞ、」

    案内されたのはこの施設では何ら違和感のない真っ白な部屋。中央にテーブルと椅子が一脚。窓もなく、壁には今入ってきた出入口が一つのみ。
    促されるまま椅子に座ると、扉を閉めた青年がテーブルをはさんで目の前に立った。

    「…さて、説明を始めるよ。気になることがあれば質問してくれたまえ」

    授業を始めます!とでもいった様子で笑った青年に、俺はひとまず聞く姿勢を整えた。



    「まずこのフロアは僕たちの居住フロア。ここは見ての通り教室でー…」
    この階にはこの教室のほかに5つの個人部屋があって、開いている部屋を一つ与えられること。一般フロアのように内から鍵は掛けられないけれど本人以外では扉を開けられないのでセキュリティに関しては心配ないこと。カメラ認証の自動センサーで開くため、このフロアではブレスレットが必要ないこと。
    エレベーターも同様で、つまりこの階からブレスレットを使って移動することは出来ず、一方通行であること。

    「で、元のフロアに戻れなくなってしまった青柳くんに、ここで何をしてもらうか…という話なだけど」
    「…はい」

    そこまで淡々と話していた青年は、一瞬言い淀んだ。

    「…実験任務を受けてもらうことになる」
    「…実験…ですか」
    「超能力を開発するための実験のね」

    「え…?」
    「冗談だと思うかもしれないけど、でも本当のことだよ」

    ―ここはそのための施設だから。
    そういった青年は、どこか諦めたような眼をしていた。

    「さて、ここまでで質問はあるかな?」

    パチン、ひとつ手をたたいた青年は俺に投げかける。
    聞きたいことはいくつもあって、というかいっそ、何もかもわからない。

    「えっと…、まず、俺が選ばれた理由…は…」
    「ああそれは、検査結果の安定性とテストの成績だよ。良い結果を出したからだと思うよ」
    「でも俺は3位で…、って、あ」
    「うん?」

    俺よりいつも成績のいい奴なんて居る。そう言おうとして言葉を詰まらせた俺に首をかしげる青年。
    いつも上位を占めている2つの番号。このフロアにいるということは、目の前にいる青年はそのどちらかなんだろうか。

    「貴方は、…」
    「ああ、僕は0624の方だよ。あれは僕の誕生日なんだ」
    「そうなんですか…」
    「名前が伏せられている理由は、名前を書いてしまうと人間のようでダメだから、だそうだよ。おかしな話だけどね」

    今まで成績表に並ぶ数字でしか見たことがなかった相手が目の前にいる。話してみた彼は想像していたよりもずっと人間らしかった。
    勝手な想像のギャップで動揺する俺をよそに彼は続ける。

    「ああでも青柳くんはそんな数字で称されることもないし、そもそもテストをしばらく受けなくてよくなるから、安心して良いと思うよ。僕達を観察をしてフロアに慣れることが当分の課題、というわけだね」
    「…はい…」

    他に質問は?と訊かれて首をひねる。いまいち思考がまとまらなかった。なにせ急展開すぎる。今まで同じことの繰り返しをしてきた俺にとって、それを一度にかみ砕いて理解するにはあまりに時間が足りなかった。

    「…それでは、超能力って本当にあるんですか?」

    根本的な質問。今までそんなものを習った覚えもなければ、使っている人を見たこともない。
    信じるのが難しいという俺に、青年はさあ…それはちょっと。と言葉を濁した。

    「質問に答えると言った手前、僕もあまり詳しくなくて。すまないね」

    肩をすくめて見せる彼は、納得のいっていない俺に苦笑いをした。

    「まずは習うより慣れよ。ということで」

    追々わからないことも増えてくるだろうから、ひとまずこれくらいにしてもうひとりの…ああ、0517のところに行こうか。と彼は言った。




    ―――




    0517に会いに行く。と言って連れてこられたのは一つ上のフロア。
    ここへ来たときに使ったエレベーターとは別のエレベーターに乗り込むと、A2フロアへ。と青年が言った。
    このエレベーターは音声操作で3フロア内なら自由に行き来ができるよ。後で青柳くんの声も登録されるから、そうすれば一人でも使えるようになる。と説明されて、また俺ははい…と曖昧な返事をした。

    「新人くんのご案内だよ、」

    エレベーターを降りるなり青年はそう言った。
    後ろからそっと覗き込むと、降りてすぐ右側に広がるスペースに置かれたソファに青年が1人座っている。

    「……」
    「あれ、寝てしまったのかな。……おーい起きて、」

    さっき迄とは打って変わってつかつかと歩み寄って行き、青年は寝ている人を起こした。

    「む、すまん!」
    「おはよう。ほら、新人くんに挨拶してあげてくれ」
    「だらしのないところを見せて申し訳ない。改めて_天馬司だ!よろしく頼む」

    起こされたその人は俺に向き直ると、寝起きとは思えない溌剌とした表情で俺に自己紹介をした。

    「それじゃあ分からないんじゃないかな、司くん」
    「ん?ああ!一般フロアでは0517と書かれているな」

    はじめましてと手を差し出されたが、俺はそれに応えられなかった。

    「司先輩…」
    「!」
    「おや…」

    似ているとは思っていたが、声を聞き名前を聞いて確信した。彼は数年前まで一般フロアに居た俺のひとつ上の先輩だ。数年前突然姿を消したと思っていたが、司先輩も俺と同じような経緯でこのフロアへ来たからだったのか。小さい頃少し交流があったとはいえ何年も会っていなかったのだから、忘れられていても不思議ではないか…。そう一人納得した俺は、0624と先ほど名乗った青年に顔を向けた。

    「申し遅れました。青柳冬弥と言います。あの、」
    「……僕はかみしろるいだよ。神の依代の類と書いて、神代類」
    「神代、さん…」
    「ああ。好きに呼んでくれて構わないよ。さて、青柳くんも司くんに聞きたいことがあるだろうし、今夜は歓迎会なんてどうだろう?」
    「そうだな、オレたちは今夜少し用があるから遅い時間になってしまうが構わないか?」

    二人にそう言われてしまっては、ここへ来たばかりの俺にはどうしようもない。もちろんですと頷いて、それじゃあ今日は夜まで休んでて、と俺が住むようにあてがわれた部屋へ案内された。



    ―――



    今日からここが青柳くんの部屋だよと押し込まれた部屋は、以前から住んでいた部屋と同じような作りだった。ベッドがひとつに、洗面台と、トイレ、バスルームへの扉がそれぞれ。やはり白に統一されていた。
    ただ以前の部屋は違って窓がなく閉鎖的で、以前と比べて随分広い。フロアに5つしか部屋がないのだし、それもそうかと一人納得して、ほかに変わったところはないかと見渡す。

    部屋に備え付けられたクローゼットを開ける。中にかかっているのは神代さんや司先輩が着ていた白に統一された服。そして異彩を放つ真っ黒な服が一着。

    「…これは…?」

    施設の中で黒い服なんてものは珍しい、というか見たことがなかった。フードが付いた長い丈の上着に、黒のパンツ、合わせて置かれている真っ黒な靴。

    「何かの作業着だろうか。……」

    なんだかカッコイイな…なんて思ってしまうのは、見慣れない色のせいだろう。

    この服に、どんな意味があるのかも知らずに。





    ―――





    「心配か?」
    「…ああ、少しね」

    例の新人を部屋に案内した後、一旦オレたちも自室に戻ってエレベーターホールに集合した。

    朝から冬弥に説明と案内を軽く済ませて、彼を部屋へ案内してから数時間。時刻は午後7時を回ったところ。今日のタイムスケジュールとしては指示通りだった。

    「僕たちとは違って、一般の人間だからね、彼は」
    「もう一般とも言えないがな」

    それでも僕たちよりはマシだろう。なんて自虐して笑う彼は、その実心配そうな顔をしていた。

    ポン、と電子音がエレベーターの到着を知らせる。開いた扉をくぐり箱の中に踏み込んだ。ここに集まる前着替えた黒服の裾がふわりと靡く。扉はひとりでに閉まって、目的の階へオレたちを運び始めた。
    誰もいない、監視カメラもない。二人だけの空間。
    オレは、オレだけが呼ぶ特別な名前を声に出した。

    「類、」
    「うん?」

    エレベーターが降下していく。特有の浮遊感が体を襲う。

    「ずっと、一緒にいような」

    すぐ隣に立つ彼の手をぎゅっと握る。これは毎日声に出す、誓い。

    「うん。もちろん。…ずっと」



    一緒にいるよ。




    ―――




    目的階に降りると、一面に漂う嫌な臭いに包まれる。
    錆びた鉄のにおい。血の匂い。そして腐敗したヒトのにおい。気分が悪くなる。

    早く終わらせてしまおうと足を踏み出す。歩く度パシャ、と跳ねる足元の赤い水は裾について、黒にしみこんでいく。
    何もかもが白で統一された施設内とは違う、一面灰色のコンクリート壁。棚や机、椅子が散乱し、壊れて散らかっている。頼りない明りはチカチカと点滅して、時折消える。

    「…あった、司くん」
    「む、」

    しばらく歩いて、類が立ち止まった。
    倒れていた棚の間に落ちていた薄汚れたアタッシュケースを拾い上げる。軽く汚れを拭い開ければ中にはいくつかの液体が入った小瓶が入っていた。目的のものだ。

    「よし、帰ろうか司くん」

    類がケースから瓶を取り出し、腰のバッグに差し込む。裾を下ろせば、それはすぐに見えなくなった。

    「行こう」
    「ああ、」

    パシャ、パシャ。また来た道を戻って行く。エレベーターのすでに口を開けて待っていた。

    「大丈夫だよ」

    エレベーターに乗り込むなり、類は俺にそう言った。

    「ずっと一緒にいるよ」

    オレは自分で思っていた以上に、不安そうな顔をしていたらしい。
    さっき回収した液体がどう使われるのか、使うとどうなるのか。誰に、使われるのか。考えたくもないことを考えずにはいられない。おそらく類もそうだ。だからこうして分け合おうとする。オレの痛みの半分を持っていこうとする。

    「…当然だ!」

    だからオレも類の半分を持っていく。強く手を握って、目を閉じて。






    ―――





    ポン、と音が鳴った。エレベーターを降りるがそこは普段降りるフロアではなかった。

    「まだ一般フロアの消灯時間前だが大丈夫なのか…?」
    「…上が降りろと言うのだし、仕方ないね」

    エレベーターの操作は上の人間の権限。ブレスレットを持たないオレたちは、ほかのフロアの人間と会わないよう、目的以外の行動をとらないよう、エレベーターの権限すら持っていない。

    「…ちょっと歩こうかな」
    「ダメだ、人が居たらどうする」
    「そのときはその時で」
    「はぁ…」

    エレベーターから降ろされたのはおそらく途中階で誰かが乗り込むから。鉢合わせを防ぐためにオレたちは一旦ここで足止めと言うわけだ。
    オレたちがここに降ろされたせいでこのフロアの扉すべてにはオートロックが掛かる。このフロアの皆、消灯時間前なのにすまんな。なんてことを思いながら、探索に歩いて行ってしまった類を眺める。
    迷子になるようなことはないだろうが、服装が服装なだけに、少し心配だ。

    足元を見ても、もう赤い足跡は着いていない。つくづく優秀な靴。裾にはねた赤色も、もともとが黒い布なせいでほとんどわからない。少し匂いは残っているが人と会わないのだからそもそもどうでもいいことだ。
    類がその色や匂いにまみれるというのは、少々気に食わないが。

    ―ポン。

    そんなとりとめのないことを考えている間にエレベーターが到着して、口を開けた。
    類を迎えに行かなければと彼が歩いて行った廊下をたどる。

    特に分かれ道もなく、右、もう一度右、と曲がったところに目標はいた。

    「類、」

    行くぞと意味を込めて呼びかける。
    すると彼はオレを振り返って、…そのさらに向こうに誰かがいた。

    「早く行かなければ、」

    その明らかに驚いて動揺した表情と服装を確認して、ああ、オートロックが掛かる前に会ってしまったのかと納得しながら類に歩み寄る。

    「誰かに見つかったら大ごとになるぞ、バレたら消さなければいけなくなる!」

    類に話しかけるフリをして、オレたちを見てないで早く部屋に戻った方がいいぞと言い含める。

    「そうだねえ、ひとに見つかる前に行かないとね、」

    類にはしっかりと意図が伝わったようだ。
    誰かは相変わらず少し放心したような様子でオレたちをみていたが、やがてハッとして部屋に戻っていった。扉がしまったことを確認して、踵を返す。

    「はぁ、」
    「どうしたんだい、ため息なんてついて」

    類が余計なものに鉢合わせたから肝が冷えた。なんてことは言わずとも分かっているだろう。
    本当ならオレたちと出会った一般フロアの人間は処分される。なんて今更確認しなおすようなことでもないし、類はここで人に会ったことを上には黙っているつもりだろう。
    類がそうするならオレもそうするし、あとはあの誰かが誰にも話さなければ無かったことになる話だ。

    「どうしたもこうしたもない!お前のせいだろう!!急ぐぞ、今日は新人が待っているのだからな!」
    「フフ、そうだね。あまり待たせては可哀そうだ」

    類はそう笑って、先を歩くオレの手を握った。
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