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    現代ファンタジー的なそんな🌟🎈バディもの。ふわっと読んでください
    続きはありません。突然終わります

    そらなき強い風が背中を押して、いくらか足が速くなった様な錯覚を得ながら五十数階のビルの屋上を駆ける。幸いもう日は落ちて、少し肌寒い。後ろから少し遅れて屋上に駆けつけた人たちは、待て!なんて使い古された台詞を叫びながら追ってくる。そう言われて誰が待つ相手がいるんだろうか。

    普段解放されていない屋上は、大したフェンスもなくただ簡単に乗り越えられる程度の柵があるだけ。これなら問題ないな、と脚を緩めず進めながら思う。何がって、柵を乗り越える間に後ろの人達に捕まらないかどうか、時間計算の話。

    あとはそう、タイミングの話だ。

    柵の下ブロックに足をかけて、柵に着いた両手で身体を持ち上げて、そのまま鉄棒の前周りの要領で体を倒し、ぐっと足をかけて飛び降りる。柵の外、ビルの縁に一歩、そのまま空中にもう一歩。当然空気を踏み沈み込む身体。空を仰ぐ様に身体をひっくり返して、重力にしたがってそのまま自由落下。

    「つかさくん」

    呼んで一秒。ドプンと、例えるなら軽く水に飛び込んだ様な感触と反動。痛みはなくて、ついさっきまで感じていた外の風の感触も消え失せる。同時に視界は夜の色よりも一層暗い影に包まれ、温度や匂い、感覚の全てが失われた。それもごくわずかな時間の話で、影はすぐに解け、人の体温と匂いがしてくる。見上げれば、夜はあまり似合わないくらいの、晴々とした笑顔。

    「待たせたな、類!」

    これが、僕たちの日常。


    _


    「類、」
    起きられそうか?なんて言いながらクッションを退け、顔にかかる髪を払いながらその表情を覗き込む。扉を開けてすぐ、八畳ほどある部屋いっぱいいっぱいに広がるクッションとマットレス。そこに埋もれるようにして眠る類は、無防備な寝顔ですやすや。いつも通りだ。軽く揺すっても、肩を叩いても、んん…と嫌がって、簡単には起きない。いつもどおり。
    「んぐ…、ゔー…、ゃ、」
    「いやじゃない、起きてくれ、ほら」
    「うん…ん………」
    いやだ、起きたくない、と周りに溢れているクッションの一つを引き寄せ顔を埋める類。ぐずぐず、意識は半分起きながら、覚醒しきらない頭を起こすための時間だ。無理に急かさず寝癖を手ですきながら待てば、やがてゆっくりと目が開いて、類が頭を撫でるオレの手を掴んだ。
    「…ダメだ、」
    ぽつりと言い放たれた言葉。この一言で今この瞬間、オレの今日の予定が変わった。
    「なんだ、ダメな日か?ダメな案件か?」
    「りょうほう……、今日は相性が悪いよ、死んでしまいそうだ」
    「物騒だな…」
    「端末…」
    貸してくれと言う類にオレのスマホを渡す。タプタプ、と当然のように把握されているパスコードロックを解除し、ショートカットを起動させて、耳に当て数秒。もしもしと挨拶をして、類は端的に今日オレが仕事に出られないことを通話先に伝えた。相手は寧々だろう。寧々に伝えればすぐにえむや他のメンバーにも伝達ししてくれるだろう。
    「…うん、うん……それじゃあ、よろしく頼むよ」
    「…寧々はなんだって?」
    「了解って。予定の事件は冬也くんのところに頼むそうだよ」
    「そうか」
    予定の事件というのは今日これからオレと類で向かう予定だった事件のこと。類を起こして事件の詳細を説明して、時間決めて向かう…って言う流れのはずだったんだが、今日はそうは行かない日だったらしい。
    「司くん、少し昼寝をしよう」
    「いや、現場に出ない代わりに他の仕事を…」
    「三時間後、東雲くんが来るまで部屋から出ないでくれ」
    「む……仕方ないか」
    類がそう言うのなら仕方ない。オレのブレインの言うことだから。オレの最優先。オレの指針。オレたちは少々、特殊なのだ。

    世界人口のうち、約八割は所謂一般人。普通の人間だ。残りの二割が、オレや類のような少し特殊な人間。外見的にはそう変わらないが、身体の造りが違う。大きく分けて脳と心臓という数値があって、脳とはその名の通り思考能力や知識を踏まえた予測力・記憶力の能力値で、心臓は行動力や生命力をはじめとした身体的な能力値。計100を最大値として、脳何パーセント心臓何パーセントという割合でブレイン、バランス、タンク、アタッカー等と呼ばれて分類されている。これはゲームで使われていた呼称をそのまま流用して使っているだけで、正式な名前ではないそうだが。

    ではこの数値がどう影響してくるのか。簡単に言えば数値が高ければ高いほど、一般人には出来ないようなことができる。ファンタジーなゲームでいう、ステータス。超能力とか異能力、のようなもの。

    脳の数値が高ければ状況、記憶、知識から未来予測、過去観測が出来るようになってくる。数値が高ければ高いほど精度は増して、70パーセント以上なら前後数時間は見れるらしい。

    逆に心臓の数値が高ければ、物理的な外部への干渉が出来るようになる。サイコキネシス、パイロキネシス等々、得意分野は色々細分化されていくが、これも脳と同じように数値が高ければ高いほど精度が上がっていく。

    オレと類はその中でも特殊な部類で、それぞれ90パーセント超えの極振りだ。ここまで偏ると、逆のステータスは10パーセント未満になってしまい障害が出始める。心臓94パーセントのオレは記憶障害を引き起こしやすかったり、脳92パーセントの類は身体を壊しやすかったり、怪我の治りが遅かったり。だから補完する手段として、オレと類はバディを組んでいる。
    唯一、たったひとりのパートナーだ。

    「あ、起きた?」
    「ああ…、類は?」
    「記録を始めてるよ」
    目を覚ますと寧々が居た。類は隣の部屋で作業に入ってるらしい。記録とはそのまま報告書のことだが、これを類が書くと所謂予言書になる。まだ起こっていない事件や解決してない事件についての結末を、未来を見た類が書き起こし、書いたものは誰にも見せないよう管理して、事が終わったら開いて、オレ達よりもずっと立場の高い上の人間が他の報告書や情報と照らし合わせ答え合わせをする。最善策を選べたかどうか。類の見た未来は正しかったのかどうか。類はこうやって、いつも上の人間に試されている。使い物になるか、上の人間にとって都合の悪い事をしないか。
    「寧々」
    「おつかれさま、類」
    カチャ、と控えめな音で部屋に戻ってきた類は、司くんおはよう、と言いながら寧々に報告書の入った箱を渡した。
    「類、」
    「ありがとう」
    類はマットレスに座り端末を取り出した。誰かに連絡をしているようだが、今頃冬也達がオレ達の代わりに仕事をしているはずだから、その件かもしれない。
    「類」
    オレはもう仕事に戻っていいのかと話しかけたら、司くんは今日は何もしないでと切り捨てられてしまった。いつにも増して即決だが、もし仕事をしたらどうなるんだオレは…。
    「じゃあ司は今日はもう訓練か休暇にしとくから、類も随時そうして」
    「ありがとう、寧々」
    「すまん、助かる」
    こうして急に休みになったり、逆に仕事になったりはよくあることだ。なんせ未来の分かるブレインが、うちにはなんと二人もいるのだから。その時々で効率良く仕事をするのがチームのスタンスになっている。逆に言えば全員完全な休暇はないようなものだが、そこは世界平和を願うしかない。
    「訓練、どうする?」
    「やるのなら付き合うよ、」
    「やる」
    「そうだよね」
    フフ、と笑う類はオレがそう答えることを知っていた様子だ。

    ​_


    訓練室に移動し、柔軟ストレッチをして有酸素運動を少し。身体が温まってきたころ、類に声をかけようと振り向くと同じようにストレッチやら何やらをしていた類が返事をした。
    「やらないよ」
    「まだ何も言ってな」
    「素手はちょっと…」
    「武器を使っても構わん!」
    「それくらいなら」
    今、オレは類のいいように発言を誘導された。別に誘導しなくとも、わかっているなら最初から提案してくれれば良いのではと思わないでもないが、そうすると今度はオレがまた違う発言をして類の思わしくない方向に進んだんだろう。もう慣れたことだから、構わないんだが。

    「よし、行くぞ」
    「ああ、どうぞ」
    向かい合って、五歩程度の距離。オレは素手だからここから距離を詰めるが、類はこの距離を保とうとする。なんせ類が使っているのは六尺の棍。といってもただの木製じゃなくて、中に金属が仕込まれていて見た目より少し重いオーダーメイドのもの。何度か借りたことがあるが中に仕込んである金属も均一ではなく、訓練用にストックされている棍棒よりもかなり癖のある代物だった。扱う本人曰く、リーチを活かしてブレイン特有のスタミナのなさをごまかすために計算して仕込んである、らしい。

    ふ、と息を吐いて半歩距離を詰める。そのまま左足を踏み込んで側頭部への蹴り。強引に詰めた初手の、少々大ぶりな回し蹴りは簡単に左側縦に構えた棍で防がれるから、蹴り上げた右足を棍ごとそのまま上へ滑らせて両手を上げさせ胴を開ける。これでついでに体勢を崩してほしいところだが、類も半歩引いて次胴に左足が来るのに備えているからそう上手くはいかない。右を下ろすのとほぼ同時に左を蹴り出すと、案の定棍をぐるりと回していなされた。受け流された左足はそのまま類の身体の横に踏み込んで今度は右手で鳩尾のあたりを狙って殴る。これは両手で支えた棍の中央でぐっと受け止められた。体の重心軸に充てようとすればするほど、相手は受け流すことが困難になる。さらにそれが重ければ重いほど効果を発揮する。これは今目の前にいる類に昔教わったこと。計算づくで動かなくても、同じ動作に出る時の一瞬にその知識が思い出せればより有効な一打になるから覚えておいてね、と。生まれつき心臓極振りのオレは、新しく覚えることが苦手で、必要なことはどれもひたすら繰り返し刷り込んで覚えたものがほとんどだ。けれど類が言うには、一度に覚えようとするのことが難しくても決して容量がないわけではないのだとか。実際八年前類と組むようになってからはかなり覚えることが楽になったし、記憶障害も起こしにくくなった実感がある。何事にもコツはあるものだ。

    さっきからいくら打ち込んでもいなされてしまう。類にはオレの次の動きが、というより一秒後に起こることそのものがバレているのだから当然のことなんだが、その予知に応えられるよう身体が動くのは、ひとえに類の努力の賜物だ。



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    recommended works

    はぱまる

    MOURNING昔書いたのを思い出して読み返してみたのですが、これ今から続き書くの無理だな……となったのでここに置いておきます
    後悔 酒は嫌いだ。正気を失うから。ショーに気を狂わせている方がよほど楽しい。
     そう笑う彼の瞳が輝いて見えて、ああ大きな魚を逃したなと思ったのだ。惜しいことをしたと思い知らされたのだ。
     司とは逆に酔う感覚がそれなりに好きな類は口惜しさにアルコールを摂取し、摂取し、摂取し、そこからはもうダメだった。もう一度僕に演出させてほしいと、君の演出家になりたいと、ズルズルと子供のように縋ってしまったのだ。はたまた恋人に捨てられそうな哀れな男にでも見えたろうか。なんにせよ、醜い有様であったことに変わりはない。
     類は知っている。高校生の頃、嫌になるほど共に過ごしてきたため知っている。司は人が好く頼み込まれれば基本的に断れないタチだ。しかも酷く素直で単純で、その気になれば口車に乗せることなど容易い。しかしこの男、どうにも頑固で仕方がないのだ。こうと決めたことは梃子でも曲げない。どんな話術を使おうと泣き落としをしようと首を縦に振らない。そして、司はワンダーランズ×ショウタイムからキッパリと縁を切っていた。
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