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    1YU77

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    1YU77

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    できてるやぎしずのとしこし。
    らぶらぶ。塩のおしずとめろめろのしょうぞう

    夜っぴて睦み





    「ん~~~……―――ハッ!」
     志津摩は飛び起きた。ばさりと布団が捲り上がると隣から不機嫌な呻き声が聞こえてくる。
    「ん~~~、ゃだ、さむぃ、しずま、ぅうー……しず、」
     振り向くとまっぱだかで転がった八木が目を閉じたまま眉を寄せ、手でパタパタあたりをはたいている。志津摩は慌てて捲り上げた布団を引き寄せ八木を包んでやろうとした。
    「ひゃ!」
     しかしそれより早く八木に見つかった。志津摩の肩をぺちりと手探りにみつけるとずるずる腕の中に引き込んだ。そのままぎゅっと抱き枕にしてしまうと八木はまた満足そうに心地いい寝息をたてはじめる。あのう、と志津摩は起こそうかと悩む。腹についたせいえきを拭いたい。やることやってそのまますっきり二人そろって寝落ちしていたのだ。
    「おーい、八木さん。あのー、あれほんとに起きてないの? がちめに動いてましたけど……」
     おずおずと八木の顔を見上げるがしっかり目を閉じすうすう眠っている。
    「ほんとにねてる……」
     志津摩はふうと息を吐いて八木の顔でもみることにした。
     八木はいつも先に起きるし後に眠るからなかなか志津摩は寝ているところをじっくり見る隙が無い。こういう時しかないのだ。うたたねする時。なんか嫌になったらしい八木をよしよし寝かしつけた時。そういう時はあまりないので珍しい。
     寝てしまうと八木は子供みたいな顔になる。案外まつげもけっこうある。切れ長鋭い目つきだけれど、閉じていても二重の溝がきっちり見えた。
     せっかくゆっくりぐっすり気持ちよさそうに眠っているのだからこのまま寝かせてあげたい気もあるのだけれど。
    「ねー八木さん、もうすぐ年越しますよぉー」
     素っ裸でぐっしゃぐしゃシーツのベッドの上。八木のせーえきが腹に入ったまま、自分のせーえきで自分の腹筋かぴかぴのまま新年むかえるってどういうこと。
    「はぁ。今度からちゃんと身体きれいにするまでがせっくすですよ!て約束しよ」
     呟きながら志津摩は身体を仰け反らせて上がり八木の頭を抱き込む。八木の頬にでもなすりつけてやろうかなんて悪趣味ないたずらも思い浮かべるだけにとどめて置いた。
    これだけ喋ってもぞもぞしているのに起きやしない。付き合いだしたころはちょっとのことで目を覚ましていたのに。
    「結局、蕎麦も食べてないしー……」
     八木の額をなでなで擦る。けっこう髪が伸びてきた。また剃るんだろうか。顔も怖いのに坊主でますます怖い。似合うからいいけど。顔がいいから坊主も似合うのか、なんて改めてまた覗き込む。寝顔はこんなにあどけないんだけどなぁ。
    「ふふ、」
     笑みが溢れる。だってたぶん志津摩しか知らない。
    「ねー八木さん、ほんと起きましょうよー俺せーえきまみれの新年ヤダァ~」
     こしょこしょ話しながら手を伸ばしてスマホを掴む。
    「十一時、二十八分……ほら、もうすぐ年越しちゃいます」
     1128。うーん何かが引っかかる。気のせいか。
     シャワーで流して身体拭いて、お着換えしていたらあっというまに新年になる。
     これはもう、いたしかたない。
    「総員起こし!」
    「ウワァッ!」
     八木が飛び起きた。
    「は? え、」
     目をまるまるさせた八木に志津摩はにやりと笑う。
    「お勤めご苦労様でーす。ラッパじゃなくても起きるなんて重症ですね」
     ごしごしとタオルで腹を拭う志津摩はベッドからバスタオルを引っ張り出す。
    「あのなぁ、総員起こし五分前から勝負なんだよこっちは」
    ぶつぶつ文句を言う八木をごろごろ転がしてシーツがいろんなもので濡れていないか確認する。さらさらと撫でて志津摩はほっとした。
    「うん、きれいきれい」
     汚れもなく胸を撫でおろし脱ぎ捨てられたパンツを八木へ投げ渡す。
    「八木さんほらベッドメイキングして! 起きたらすぐするんでしょ!」
    「うへぇ……せっかくやすみなのにぃー」
     ぶつぶつ言いながらも八木は糊を張ったかのようにシーツをぴしりと伸ばす。先にパンツはいてと言いたいけれどまあいいかと放っておくことにした。どうせシャワー行くし。
    「志津摩はひでえなぁ。おれの安眠妨害してよお、きもちよくねてたのに」
     まだまだ文句垂れながら枕もきっちり定位置に置く。志津摩はそれをそっと抱きかかえると眉を下げる。志津摩だってゆっくりしてほしい気持ちはやまやまなんだけど。
    「八木さん……また船のっちゃうんでしょ、ちょっとでもおきててください、」
     八木は甘いからすぐにへにゃりとだらしない顔になって志津摩を抱き上げた。いつものように頬にむちゅうと口づけた。志津摩の思惑通り軽々浮足でバスルームにむかう。
    「そういわれたらそうだなぁ貴重な連休、志津摩と喋らんでどうすんだ」
     無邪気な八木に志津摩の気も抜ける。決して嘘じゃないけど、身体をきれいにしたいというのが一番の理由とは秘密。なかだしする八木が悪いのだ。
     誤魔化すように八木の首へ腕を回し頬にキスするくらいはもう朝飯前。
     仲良くシャワーで身体を流しあってキャッキャはしゃいでいちゃいちゃするのもいつものことだ。湯船につかって手を伸ばして八木の頭をわしわし洗うのもいつもの日課。
     八木は長期家を空けることも多いから帰ってきた時は好きなだけ好きなようにさせてあげたいし、甘やかしたいし休ませてあげたいし、でもやっぱり一緒に笑いたい。
    「はー、すっきり。あれ、もう年越した?」
     脱衣所で呑気な八木に志津摩はまたスマホを見る。
    「まだ大丈夫です、何か飲みながらとかがいいなぁ~、蕎麦は!」
    「蕎麦、たぶん緑のやつある! ビールのみたい!」
    「緑のやつね! ビールは買ってますよ!」
     でかい男二人ではさすがに窮屈な脱衣所でも、二人はぎゅうぎゅう身体をぶつけつつ互いに着替えを手伝ったりなんかしたりして手早く着替え終えた。二人とも髪は短いからタオルでごしごししたらすぐで楽。風呂上がりにドライヤーで恋人の髪を乾かすあれはひそかに憧れているが八木はいつも髪がないのでしかたない。志津摩はしてもらったことがある。
     ひとまず、これで身体はきれいさっぱり新年を迎えることができそうだ。トイレで尻の八木汁を出そうかなと過ぎるがもういいかと諦めた。八木のせーえき入ったまま新年も悪くないか。なんて。言わないけれど。志津摩は被告人八木をちらりと見上げる。
     八木もこっちを見ていて何故かくすぐったい。ふっと目を逸らす。意味が解らないけれど、いつまでたってもこうなるのだから変な二人だと自覚はある。一緒に風呂まで入るけれどふと目が合うと照れくさくなる。ヘンな二人。付き合ってもう何年。いつまでたってもすき。
     カウンターキッチンにくっついたテーブルに緑のカップ麺をならべてケトルで湯を注ぐ。
     八木はスツールに腰掛けテレビをつける。
    「ああ! もう三分、三分!」
    「たぬきのできあがりに丁度ですねー」
     ビールをもってきて八木ジョッキに注ぐ。
    「それ年明け蕎麦にならねぇ?」
    「たしかに! ね、あっちいきましょ。隣がいい」
     志津摩は割りばしを咥え湯入りたぬきを二つもってソファのほうへ八木を呼ぶ。
    「なに志津摩、焦って起こしたくせそこはどうでもいいのかよ!」
     八木が志津摩からたぬきを奪いながら笑う。
     ローテーブルに二つならべてビールも準備してやっとソファにどさりと並んで座る。
    「え、いやぁ流石に素っ裸のまま年明けもなぁって!」
     はっぴーにゅーいや~~
     テレビが派手に新年を祝っている。
    「わ! あけましておめでとうございます!」
     志津摩が八木に笑うと八木はまた志津摩を抱き上げる。
    「わー今年もよろしく志津摩、去年も無事一緒だった、今年も来年もよろしく」
     八木はすりすりと犬のように志津摩に頬擦りしてべったりだ。いつからこんなに甘えたになったんだと思いもするが遥か昔から甘えただったような気もしてくる。だから志津摩も笑いながら八木の背中を撫でる。
    「気が早いですよ、今年はじまったばっかりですよ!?」
    「志津摩どこにも行くなよ、今年も約束な?」
     見上げて気楽なキスをされると志津摩はなんだか気恥ずかしい。
    「んー、まぁ今日は約束します」
    「じゃ明日も約束しよ」
    「じゃあ八木さんがおふねに乗ってる間は約束できませんね!」
     八木が凍り付く。手で目元を覆うと嘆いた。
    「あ~~もう、さぁ、志津摩はいつもそうやって俺をいじめるよなぁ!」
    「うわぁ!」
     どすどすと不機嫌な足取りで連れて行かれるのは。
    「も~~~~~! なんでまたもどってきたんですかぁ!」
     ベッドに寝転がされている。両手をはりつけられて見下ろされるよくあるあれだ。
    「強制性交やめてください! 同意しません!」
    「物騒なこと言わないで同意してください! 俺は志津摩くんの恋人です!」
     八木は強行突破でまたせっかく着たティーシャツを剥いてくる。
    「ちょっと、やぎさんてば! え、ほんとに!?」
     起き上がろうとすると指を絡めてぎゅっと手を繋がれた。
    「初寝しよ、」
     ほんのり赤い顔で宣言してきて声を張る。
    「もう!? さっきしたのに!!? いや、よくたちますね!」
    「わっ、ぼうげん! ふざけんな、もうやれるわ! 志津摩おげひんだぞ!」
    「いや、だれのせいで!おまいう!とにかくさっきまでしてたようなもんじゃないですか!」
     八木の頬を両手につかまえると八木はこれ見よがしに溜息をついてみせ眉を下げる。
    「さっきのはもう去年になっちまった、不安だぁ、また離れてる間に志津摩が逃げそうで不安だ、志津摩は俺を捨てても平気に違いない、抱かなきゃやってられん、愛情が感じられん! 不安だぁ、もう仕事にもいけん」
    「そんなめちゃくちゃな!」
     思わず喉を反らして笑うと八木がそこに顔を埋めてくる。
    「わぁ、石鹸の匂いする……」
     なんだかほっとしたような声を出され志津摩は綻んでしまう。八木の身体を抱きしめて志津摩もほっと息を吐く。湯上りでほかほかに温かくて心地いい。
    「……そもそも俺はすっぱだかで志津摩とくっついたまま年越しでよかったんだ」
     よしよし八木を撫でる。悪いとは思っている。
    志津摩は付き合い始めて三年ほどはいきなり逃げて姿をくらませ別れたいと八木を何度か突き放した前科があった。八木はそのたび必死に志津摩を探してなんとかして連絡をつけて追いかけてきた。だからなのか毎年毎年八木は年越し必ず志津摩と一緒に居たいとねだる。そうして今年も無事に一緒だった、来年も一緒が良いと嬉しそうに言うのだ。
    正月早々志津摩の手を引き神社にいって堂々「今年も志津摩と一緒に健康でいられますように」とお願いしにいく恒例がもう何年も続いている。
    志津摩はどうしてあのもててもてて困っていそうな八木が志津摩に拘るのかよくわからなかった。八木はもはや「理由なんかない」と言い切るのだが。志津摩だって色々考えがあるのだ。向き合って話すと心が痛いから話せないでいるけれど。
     いつの間にかしつこく追いかけてくる八木に志津摩の心もそろそろ諦めがついてきた。
     そもそも志津摩のほうが八木のことを好きなのだと自分では想っている。
     変なところで繊細な八木が突き放して別れようとする志津摩をよく諦めなかったなと思う。だから、今年も一緒にいても許されるような気がしてくる。
     とりあえず、一年。とりあえず、一か月。とりあえず、今週。志津摩は離れられなくて、そんな風に一緒に過ごしてきた。けれどそれがいつのまにか長い時になってしまった。
    「なんで八木さんそんなにしつこいんですか、」
    「はぁ? 後悔するからにきまってるだろ!」
     ぎゅうっと抱きしめられて志津摩はなんだか泣きたくなる。
    「俺は、ぜったい志津摩だと思ってんだ」
    「なにが?」
    「俺が人生で一番すきなやつ!」
     子供みたいな言葉に志津摩は破顔する。しょうがない人だ。
    「八木さん……」
     いざ抵抗をやめてやるとおずおず照れくさくなる八木が愛おしい。
    「……とりあえず、たぬきがのびるからあとにしませんか」
    「………………」
     八木が恐い真顔になる。
    「むり。あとでコンビニ行ってかってくる」
    「え~~~!」
    「今度はちゃんとゆでるヤツかってくるから!」
    「えー……」
    「えびも乗せる!」
    「うーん」
     もぞもぞ志津摩の下着をずらしてくるのに仕方なく自分から脚を抜いてやる。
    「やくそくですよ! 冷えたたぬきもちゃんと食べて下さいね」
     八木はうぐ、と苦い顔をしたけれど。
    「交渉成立!」
     結局、したい方が強いらしく志津摩にうれしそうに口づけた。
     年明け零時、数分のころである。










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