ハートの女王♂×アリス♂のドラロナ【シーン01】
ここはおとぎ話の世界、赤ずきんの森
木陰で並んで座っている姉妹(♂)
水色のエプロンワンピースのポケットからハンカチを取り出し、
うさぎを作ったりして退屈をごまかすロナルド
ちら、と横を見ると整った凛々しい横顔
長い銀のまつげが伏せられて、
ぱら、と彼の手元で本がめくられていくのが見えた
相変わらず、兄ちゃんはかっこいいなあ……
感嘆が、思わず口から漏れていたらしい
隣に座る赤ずきんがふっとこちらを見て笑った
こら。〝おねえちゃん〟じゃろ?
でも、俺も兄ちゃんも男なのに
ここじゃあ、そういうもんなんじゃ
ふうん……
おとぎ話の世界には、
俺にはよくわからない仕組み(ルール)がたくさんある
兄ちゃん――いや、〝おねえちゃん〟だっけか――が
色々教えてくれるものの、
俺には覚えきれないことがほとんどだった
いじいじと手元のハンカチを引っ張っる
〝おねえちゃん〟の青い瞳が、少しだけ細くなった
こらアリス。それは簡単に出したらいかんって、ねえちゃん言ったじゃろ
う……ごめんなさい
おまえの真名を縫い取ってある、特別なハンカチじゃ。
絶対に、人に見せたらいかん。わかったか?
う、うん……。でもさ、ねえちゃん。
なんで真名を見せたら駄目なんだ?ただの名前じゃねえか。それも生まれついてのものじゃなく、俺が勝手に決めたやつで――
首を傾げるロナルドを遮って、赤ずきんが真剣な目で言う
この世界では、心がすべてに影響する。だからこそ、生まれついての名前より、おみゃあが自分で選んで、自分でつけた名の方が、よほど力を持っとるわ。真名を知られるってのは、魂を握られるのと同じことじゃ。これと決めた相手以外には、絶対に知られちゃならん
ふうん……そういうもんなのか。知られたらどうなるんだ?
おみゃあの魂から何から、全部そいつのものになる。そうなったら、許可がなければ指先ひとつ動かせんくなる。だから、気をつけるんじゃぞ
……わかった
ハンカチの結び目を解いて、いそいそとポケットに戻す
俺より小柄な〝おねえちゃん〟は、嬉しそうに目を細めると
「いい子じゃ」と頭を撫でてくれた
それきり、赤いずきんの横顔は読書に戻ってしまう
俺は退屈しのぎのハンカチもなくなってしまったので
ただぼうっとするしかできなかった
そのとき
ヌー! ヌヌヌヌヌ!(いそがなきゃ!)
愛らしい声に顔を上げる
そこには、ちょこまかと走るアルマジロの姿があった
小さな頭にうさぎの耳をくっつけて、しきりに時計を確認している
(か、かわいい……!)
ちら、と隣を確認する
おねえちゃんは読書に夢中だ
俺はそっと立ち上がると、てちてち走るうさぎマジロを
追いかけ始めたのだった
【シーン02】
……どうしたもんかな
大量に居並ぶドアを前にして、俺はひたすら考え込んでいた
そこには「B型処女しか入れないドア」とか
「マイクロビキニを着ないと入れないドア」とか
「股間からが花を咲かせないと入れないドア」とか
果ては「ニッチでえっちな話を百個披露しないと入れないドア」まであった
なんなんだこれは……悪夢かよ
ぼそっ、とつぶやく
ちらりと見上げた上にはぽっかりと大きな穴が続いていて
這い上がることはできそうもなかった
うさぎマジロを追いかけた俺は、
その愛らしくも丸い後ろ姿に目を奪われたせいで、
ものの見事に穴に落ちた
とっさに受け身を取ったからなんとかなったものの、
穴は相当に深く、戻ることなどできそうもない
〝おねえちゃん〟はきっと心配してるだろう
早く帰りたいと思うが、このままここにいてもどうしようもない
進むしかなかった
だが、目の前にあるドアの群れが曲者だった
こんなに大量に扉が並んでいるくせに、ひとつも開かないのだ
それぞれのドアにはプレートが下がっていて、
どれもこれも罰ゲームとしか思えない文言が並んでいる
俺はため息をついて自分でも通れそうな扉を探したが、
自分に当てはまるプレートはついぞ見つからなかった
どうしよう……ハラ減った……
がっくりと座り込む
いわゆるヤンキー座りをした膝の間に頭を垂れて、
はああ、と重苦しいため息を吐いた
俺、ここで餓死すんのかな……
そう思ったとき
キイ、と小さな音がした
振り返れば、さっきまでなにもなかった壁にクローゼットができている
恐る恐る開いてみれば、中にはさまざまなものが並んでいた
花の種、マイクロビキニ、謎のマニアックAVの山、などなど
どうやら、この中のものを使ってドアを通ってね、ということらしい
いや、にしたって全部ロクでもねえな……地獄の煮こごりかよ
つぶやきながら、少しでもマトモそうなものを探す
性癖と性癖のぶつかり合いみたいなアイテムをかき分けていると、
ころん、とひとつの瓶が転がり出てきた
ラベルには「わたしを飲んで」と書いてある
中身はピンクの液体で、光に透かしてみると、
中に散らばる粉末がちらちらと不思議な色に輝いていた
すごくきれいだ
これならまだマシだろうか
俺は意を決して、ぱきっ、と瓶の蓋を開けた
とろみのある液体から、ふわりと制汗剤みたいな匂いが漂ってくる
思い切ってごくりと一気に飲み干した
しばらく待ってみるけれど、特に変化はない
……騙された?
さすがに、こんなうまい話はなかったか
やっぱりビキニでも着なければならないだろうか、と思ったとき
かちゃっ、と錠が回るような音がした
はっと振り返る
扉のひとつが開いていた
プレートには「14歳の美少女しか入れない扉」
……え? 俺?
いや、ウソだろ
なんかのバグだろうか
まあ、ウソでもバグでも、開いたんなら都合がいい
俺はとくに深く考えることもなく、
ドアの隙間に身を滑り込ませた
【シーン03】
しばらく走ったが、見慣れない平坦な風景ばかりで
俺が来た上まで登れそうな気配はない
ただここはずいぶん手入れが行き届いているようで、
辺りは季節の花が咲き乱れ、生け垣はすべて綺麗に刈り込まれていた
誰かが管理を命じているのだろうか
見渡した生け垣の向こう、なにか白いものがちらり、と見えた
もしかして……!
ひょこひょこと動く白い耳が見えてほっとした
突然知らない環境に放り込まれたのだ、
ちょっとでも見たことのある相手でも、見かけると安心する
がさがさと生け垣をかき分け、なあ、と声を上げた
よかった!さっき森を走ってただろ?
俺、ずっときみを探して――
「え? ボクを?」
振り返ったのはあのうさぎマジロではなかった
うさぎマジロのものと良く似た白い耳をつけた、
見たことのないおじさんだった
おじさんは赤く血走った目で食い入るように俺を見つめている
ぞわっ、と生理的な恐怖が走って、俺はスカートの裾をぎゅっと握ると
ふらふらと数歩後ろに下がった
あ……えっと……ごめんなさい、人違いっていうか、ウサギ違い――
――きみ‼ 14歳の美少女だね⁉
えっ
はあ……はあ……ぼくはモブの3月ウサギ……
14歳の美少女を怯えさせたい……
ウワーーーッ変態だーーーー⁉
うさ耳をつけた謎のおじさんはすごい勢いで俺に詰め寄ってきた
はあっ……はあっ……
お、おじ、おじさん!落ち着いて!落ち着いてください!
はあ……はあ……発情ウサギ特有のギラついた挙動で詰め寄りたい……
14歳の美少女に、畏怖と怯えに震える瞳で見つめられたい……
その瞬間、思い浮かんだのは紫の瓶
あれを飲んだ瞬間に開いたドアには、
「14歳の美少女しか入れないドア」と書いてあった
あの瓶はてめえの性癖かーーーッ‼クッソ飲んじまった!
はあ……はあ……ぼく怖い?ぼく怖い?
やめろ来んな来ないでください‼
はあ……はあ……いい匂いだねえ……第二次性徴期の少女の香り……
あっこれ駄目だ暴力で解決するしかねえーーーッ‼
ごめんなさいおじさん、と心の中で謝りながら拳を繰り出す
その拳は見事におじさんのアゴを捉える――かと思いきや
ぱしっ、といともたやすく受け止められてしまった
え……?
もう、困ったコだなあ……でもそんなところもイイね……はあはあ……
う、ウソだろ……⁉
愕然とする俺の身体を、おじさんがあっさりと芝の上に押し倒す
うそだ
俺は強い
確かにねえちゃんほどではないけれど、
だからって、こんな筋肉のキの字もないようなおじさんに、
いいようにされるなんてあり得ない
なんで、うそだ、どうして――
(あ……っ)
もしかして
思い浮かんだのはピンクの瓶
もしあの液体に、
「飲んだ者の存在を〝14歳の美少女〟という概念に無理やり当てはめる」
という効能があったとすれば
(もしかして……マジでヤバイ……?)
すーっ、と血の気が引く
やめろ、と叫んで抵抗してもあっさりと封じられ、
うそだ、うそだろ、と愕然とする
ああ、いいねえその恐怖に歪んだ顔……
この三月ウサギさんに、もっとよぉく見せておくれよ……
ひ――ッ
もぞもぞとスカートの内側に入ってくる、知らない人の手
恐怖のあまり声も出ず、がくがくと震える
ドロワーズのゴムに手がかかり、ずるりと引き下ろされそうになり
たすけてねえちゃん、と叫びそうになったとき
――おやおや。いくら発情期とはいえ、私の庭で盛るのはいただけないな
薄い笑み混じりの、からかうような声がした
俺にのしかかったおじさんがびくっと硬直する
おじさんが、怯えるようにそろそろと背後を振り向いた
な、なに……
つられて視線を向ける
おじさんの後ろには、痩身の男が立っていた
品の良さそうなマントをまとい、頭には小さな王冠を載せている
黒と赤で構成された衣装はどれも仕立ての良いもので、
かなり身分の高い人物なのだと察せられた
男は顔色の悪い頬を歪め、くすりと低く笑う
おじさんをしっしっ、と追い払う男
大丈夫かい、と手を差し伸べる
ありがとうございます、と手を取ろうとして
指先がかたかた震えていることに気が付いた
怖かったんだね。かわいそうに。もう大丈夫だよ
男は俺を助け起こすと、やけに上品な仕草で一礼した
私はハートの女王。この国を統べる者さ
女王……? 男なのに?
ここではそういうものさ。まあ、君が抵抗があるのなら、
〝王様〟と呼んでくれて構わないよ
うなずく
そういえば、赤ずきんのねえちゃんも同じようなことを言っていたっけ
じゃあ、王様……助けてくれてありがとうございます。
俺は、えっと……みんなアリスって呼んでます
ああ、敬語じゃなくて普通に喋ってくれていい。そっちの方が楽だからね
え? あー……んじゃ、そうさせてもらうわ
うん、いいお返事だ。さて、アリスはここの子じゃないね。どこから来たのかな
赤ずきんの森から。うさぎマジロを追いかけてたら、穴に落ちちまって……
上を指差して言うと、王様はなぜかぱちぱちとまばたきをした
そして「……へえ?」とささやき、口の端を持ち上げて笑う
なんだよ
いや。うさぎマジロをねえ……
首を傾げるアリスをよそに、そうか、そうかい、となにか頷いている王様
わかったよ、それじゃあ君はこの国の大事なお客人だ。おもてなしをしないとね
え? 俺、うさぎマジロを追っかけただけだぜ?
それが大事なんだよ。さ、お茶会をしよう。こっちへおいで
はあ……
するりと手を取られる
まるで女の子にするようにエスコートされ、俺はいささか戸惑った
俺、男だけど
今の君は〝14歳の美少女〟だからねえ。
よりによってあの薬を飲むとは。気の毒に
……俺の力が出なかったのって、やっぱり……
薬の効果さ。今の君の運動能力は、思春期の女の子と同等レベルだよ
うげ……! な、なあ、それいつまで続くんだ?
この国に入るために効能を得たんだ。この国を出るまではそのままだとも
マジかよ……
振り返って笑う王様
大丈夫。私が君を守ってあげよう。なにせここは私の国、王たる私が後ろについていれば、誰も手出しはできないさ
あ……ありがとう
ほっとして移動開始
【シーン04】
さ、城についたよ。お茶にしよう
目の前には信じられないほど巨大なお城
真っ白くてきらきら豪華で、それこそお話に出てくるみたいな絢爛さだ
うわ……これがおまえの城⁉
そうとも。不思議の国のお城だよ。正式名称は別にあるんだけどね
当たり前のように門を開けさせ、俺の手を引いたまま中に入る王様
内装も予想に違わずものすごくて、あまりのスケールに圧倒される
お、俺、ほんとにおまえにタメ口きいてよかったのか?
いいんだよ。君は特別
あっさりと言い放ち、王様はどんどん奥へと進んでいく
そうして、長い長い廊下をゆき、
何度も角を曲がって、ドアをいくつか抜けたあと
俺は中庭のガゼボに通された
辺りにはバラの花が咲き乱れ、テーブルの上には
空の皿と未使用のティーセットがあった
はい、座って
流れるように案内され、ふかふかの長いソファに座らされる
赤いソファは表面がすべすべのベルベットで、
金の豪華な猫脚がついていた
王様が手ずからお茶を用意してくれる
さくさくのクッキーといい香りの紅茶
今まで食べたどんなものよりもおいしい
思わず目を輝かせると王様はとてもうれしそうに笑った
うさぎマジロの話になる
あれは私の使いでね。ちょっと用事を言い付けていたんだ。
なかなか戻らないから心配していたのだけど
あー、だから時計見ながら急いでたのか
かわいかったなあ、と目元を緩ませると
あとで会わせてあげる、と言われて嬉しくなる
君とうさぎマジロ、きっと仲良くやれると思うよ
よろしくね、と笑いかけられ、王様が小首をかしげる
つんと立った黒いくせ毛がゆらゆら揺れた
二本のツノみたいに立った黒髪はどことなくウサギに似ている
なあ、うさぎマジロへの言い付けってなんなんだ?
俺も手伝ってやれたらと思って尋ねると、
王様は意味ありげに息を吐き、ひどく満足げな目で俺を見た
うさぎマジロは私のお嫁さんを探して走り回ってたんだよ
彼は立派に職務を果たしたようだね
……ん?
頬を撫でられ、目を覗き込まれる
ああ……まさかこんなにかわいいお嫁さんが来てくれるなんて
え、え、お嫁さんって……俺……?
ふふ
ヤバい
あきらかに、雰囲気がおかしい
少し顔を傾けた王様の顔が、ゆっくりと近づいてくる
脳内でガンガンと警告が鳴って、
俺は頬に添えられた手をとっさに振り払おうとした
だけど
――無駄だよ
ぱしっ、と手首を掴まれる
白手袋越しの骨ばった指は驚くほど細く貧弱で、
いつもの俺なら跳ね除けるどころか、
へし折ることだって簡単なはずなのに
今はどんなに頑張っても、拮抗するのが精一杯
ああ、本当に気の毒にね。よりによって、あの薬を飲むなんて
っ……!
いくらかわいいお嫁さんが来てくれても、
嫌がられたらどうしようもないと思っていたんだ。
私は貧弱だから
でもね、と続ける
こんな偶然、いや、僥倖があるなんて。神様に感謝しなきゃ
や、やめ――
猫脚のソファに引き倒される
首筋にキスされて、エプロンドレスの紐を解かれて
いつもなら簡単なはずの抵抗がまるでできない
混乱のあまり泣き叫ぶ
た、たすけて、ねえちゃ――……っんぅ⁉
強引にくちびるを塞がれて目を白黒させる
息が詰まって、ふぐ、と喉が鳴った
そのままえげつないべろちゅーされる
ふは、とくちびるが離れて、げほげほ咳き込んでいる
アリスを組み敷いている王様が笑う
初夜のベッドで花嫁が他の男の名前を出すなんて。重大なマナー違反だぞ
今はぜんぜん夜じゃないとか、ここはそもそもベッドじゃねえとか
突っ込みたいところは山ほどあったがなにも言葉にならない
というか
(他の〝男〟って――)
ねえちゃんのこと、知って……
知っているとも。あの赤ずきんめ、秘蔵っ子がいるのは知っていたが、
こんなにかわいいだなんて聞いてなかったぞ
あ――
フラッシュバックみたいに赤ずきんの顔が浮かんで、涙が出て
やだ、家に帰る、帰して、と叫んで身をよじる
痩せっぽちの男ひとり跳ね除けるだけだ
どうして、どうしてこんな簡単なことができない
悔しさと恐怖で泣きながら歯噛みする俺の頬を、
手袋越しの冷えた手がゆっくりとなぞっていく
【以下R18】
抵抗しながら組み伏せられていくターン
いいよ、君が望むなら、いくらでも帰してあげよう
え……
ただし――〝お世継ぎ〟が産めたらね
私はこの国の女王なんだ。世継ぎを残す義務があるのさ
君に協力してほしいんだよ
で、でもおれ、おれは、おとこで――
おや。なんにも知らないんだねえ君は
ここは不思議の国。どんな不思議なことも起こりうる。そうだろ?
そう……なのか……?
そうさ。たぶんね
あ……
抵抗が薄れて泣きながら身を任せるターン
【エピローグ】
終わったあと、疲れ果てて眠りに落ちる中で声を聞く
ハンカチ……ああ、アリスが落としたのか
ん? ロナルド……へえ。ふうん……
君の真名、もらっちゃった
ああ、もう逃げられないねえ
ふふ……かわいそうに
甘ったるく髪を撫でられて、すうっと意識を失って引き