「今日って大和さんの日なんだって」
「へ?」
夕食後。風呂に入り、2人で俺の部屋でくつろいでいると、ミツが突然口を開いた。あまりの突拍子のなさに思わず読んでいた台本から顔を上げる。
「俺の日?なんで?」
「大和さん名前に2が入ってるだろ?で、今日は2月22日だから大和さんの日らしいよ。ファンの子たちがラビッターで言ってる」
床に座り、ストレッチをしながらスマホを見ていたミツは、そう言って画面を俺に見せた。今日はやたら熱心にエゴサしているのかと思いきや、そんなものを見つけたのか。
「ああ、なるほどな」
「みんな面白いこと考えるよなー。それだけオレたちのことずっと考えててくれてるんだって思うと嬉しくなるよ」
「そうだな、ちょっと嬉しいかも」
なんでもない日であっても、ちょっとしたことで俺たちを思い出してくれているのだ。それは素直に嬉しい。
「あ、大和さん笑ってる。ほんとに嬉しいんだ。写真撮っちゃお」
下から覗き込んできたかと思えば一瞬でカメラを起動した。パシャリとシャッターの音が響く。
「あ!?おい、やめろ撮るな」
向けられたスマホを奪おうとするが、ミツも負けじと必死に腕を振り回して逃げる。
「なんでだよ、いいじゃんちょっとくらい」
ミツは笑いながらひょいひょいと俺の手をかわす。くそ、すばしっこいな。
「やだよ。ミツ、飲みの席で俺の写真見せびらかしてるだろ!知ってるんだからな!」
俺が酔っ払って締まりのない顔をして笑っている写真。八乙女が何故かその写真を持っていて見せてもらったが、あまりの情けなさにこんなの俺じゃないと言いたくなった。八乙女の他に千さん、他にも色々なスタッフさん達。一体何人に笑われたことか。
「お兄さんにだって羞恥心があるんだけど!?」
座ったまま後退りするミツを追いかけてマッサージチェアから降りる。するとミツはスマホを隠すように胸に抱えて、え〜、と唇を尖らせた。
「なんで恥ずかしいんだよ。大和さんかわいいんだもん。みんなにも知って欲しい」
「だもんって、かわいこぶってもダメ!」
「でも本当にやばそうなやつは誰にも見せてないから」
だからいいだろ?と言いたそうに、えへっと笑っている。
本当にやばそうなやつってなんだ…?
「ちょ、ちょっとそのスマホ見せろ」
「やだ!」
ミツの身体に乗り上げ、俺からすれば短い腕を精いっぱい後ろに伸ばしているのを追って手を伸ばしたところではたと気づいた。ミツの顔がすぐ目の前にある。
「あ……」
動きすぎて上がった息が顔にかかるほど近い距離。オレンジ色の大きな瞳に俺の動揺している顔映っているのがわかった。その瞳にじっと見つめられて、じわじわと恥ずかしさがこみあげてくる。微笑んだままじぃっと視線を逸らさないミツ。そのまま顔が近づけてくる。
あ、キスされる。
反射的に目を閉じると唇に柔らかな感触が当たり、何秒か経って離れて行った。
目を開けるとさっきよりも距離が近くなっていた。少しでも動けばまたキスしてしまいそうだ。
「大和さん照れてる」
「うるせー……」
くすくす笑うミツの息が唇にかかって、今更心臓がドクドクを音を立て始める。顔を見られているのが恥ずかしくて、肩に額を乗せて顔を伏せた。
すると背中に腕が回り、ぎゅっと抱きしめられる。脚を投げ出して座るミツの太ももに、浮かせていた腰を降ろした。密着する小さな身体から俺に負けないくらい速いスピードで心臓が脈打っているのを感じて安心した。ドキドキしているのは俺だけじゃない。
「この間の写真さ」
抱きしめられたままミツが話し始める。
「さっきはああ言ったけど、本当はみんなに見せたこと後悔してる」
「なんで?」
「……だって、かわいい大和さんを知ってるのは、オレだけでいい」
「〜〜っ」
またとんでもないことを言うから、思わず顔を上げると、ミツは照れ臭そうに、優しく笑っていた。
その時ミツの気持ちがわかった。これは見せびらかして、自慢したくなる。ふっと頬がゆるんだ。
「かわいいのはお前だよ」