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    gorogoro_ohuton

    @gorogoro_ohuton

    オタクのたわごと

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    本アカからの再掲。死ねた
    【狂聡】73と48の小話

    【狂聡】73と48の小話ただいま、と暗い部屋に向かって呟いてしまうのは、最早ルーティンでしかない。玄関の電気も、リビングの電気もついていないこの寂しさは未だに受け入れがたかった。聡実は洗面所で手洗いうがいを済ませ、リビングに足を踏み入れる。おかえり、という低い声が今でもきこえてくる。
    リビングの一角に小さな祭壇を作った。真っ白い骨壺に手を合わせる。ただいまと改めて帰宅を告げると、写真立ての中で笑う狂児と目が合った。
    四十九日法要を終え、少しずつ聡実の生活は落ち着きを取り戻しつつあった。狂児が亡くなった後始末はそれなりに骨が折れて、亡くなったことを悲しむ余裕もなく、あっという間に時間は過ぎ去っていった。
    享年73歳、亡くなるにはまだ少し早いような気がする。死因は、大動脈解離ときいている。
    祭林組から足を洗った狂児は晩年、小さな喫茶店を経営していた。大の甘党のクセに、コーヒーの美味しい喫茶店で、小さいながらも繁盛していたようだ。ただ、カラオケ設備がないのに店名が喫茶カラオケなんて、なんの冗談だろうと思ったが、カラオケは聡実くんとの大事な大事な思い出やんと笑った顔を、今でも忘れられないでいる。
    数人のアルバイトを雇っていたが、ほとんどが前科持ちだった。詐欺や暴行、窃盗など、彼らには一生ついてまわる過去が付きまとっている。狂児は流石若頭補佐を拝命していただけあり、頭もよく、世渡りも上手い。しかし、いくら足抜けしたとはいえ、祭林組若頭補佐だったという過去は一生ついて回る。だから、彼らのような〝はみ出し者〟がどれだけ世間から冷たい目を向けられるのかは重々承知の上で、その受け皿になっていた。
    狂児はどうやら店の開店準備中に倒れ、出勤してきたアルバイトの男性がその亡骸を発見した。救急車が到着する頃にはすでに心停止してからかなり時間が経過していたようで、賢明な蘇生措置の甲斐なく、呆気なくこの世を去った。
    病院のベッドの上で寝かされていた狂児の表情は安らかで、まるで、ぐっすり眠っているようだった。アルバイトの男性は聡実がくるまでずっと狂児に付き添っていてくれて、聡実の代わりにわんわん泣いてくれた。
    もう二度と狂児が目を覚まさないことはわかっている。しかし、実感がわかなくて、彼のように今日の今日まで泣けていない。あの日、祭林組のカラオケ大会の時のように、どこからともなくぬっと姿を現すような気がしてならなかった。
    聡実のことを見守る遺影は、喫茶店の開店10周年を祝った時に店の前で撮影した写真だ。狂児は60を過ぎてからすっかり頭がグレーになり、ロマンスグレーという言葉が似合う男になった。年をとってもなおすらりとした体躯に皺ひとつない白いシャツ、腰高のギャルソンエプロンにベストと蝶ネクタイといういで立ちは、若い頃を髣髴とさせる輝きがあった。少し陰のあるミステリアスな雰囲気は、女性客を虜にしていたときく。これは、アルバイトからの確かな情報だ。
    そっと、聡実は聡実くんへと丁寧な筆跡で書かれた白封筒を手に取る。パートナーシップ制度を利用し、一応公的にパートナーですと名乗れるような手続きをした頃、お互いにあてた遺言状を作成した。聡実が狂児にあてた遺言状は狂児の棺の中にいれ、荼毘に付した。まだ、狂児からの遺言状を読んでいない。読んでしまったら、いよいよ狂児の死を受け入れないといけない気がしたから。
    「とっくの昔に鎮魂歌は歌ってしまったなぁ…」
    狂児が好きだった紅は、平成初期にリリースされた曲で、もちろん、その頃聡実は産まれてもいない。ヒットメドレーのようなテレビ番組できいたことがあったかもしれない程度の認識で、ほとんど馴染みがなかった。しかし、狂児がカラオケに行く度に歌うものだから、歌詞もメロディーも覚えてしまった。
    今なら、心の底からこの歌詞の意味がわかる。もう、この思いは二度と届かない。愛を叫んでも、応えをもらうことができない。ただ、聡実は涙を流すことができないでいる。
    「ーーーーーーーー」
    高校に進学してから、合唱はやめてしまった。音楽の授業がなければ歌う機会なんて早々ない。狂児と再会してから狂児にカラオケ行こと誘われても、聡実は頑なに首を縦に振らなかった。
    出がらしのようなボーイソプラノで歌った紅を、狂児は好きだと言い続けた。だから、その記憶を脳裏に焼き付けてほしかった。狂児のことを思いながら歌った紅だからこそ、覚えていてほしかった。聡実のささやかで子供じみた反抗だ。あの頃は、それでしか狂児のことをつなぎとめられると思っていなかったから。
    口ずさむ紅は、かすかに震えていた。
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    gorogoro_ohuton

    MOURNINGモブ目線※捏造
    【狂聡】紳士服売り場の多部田くん
    【狂聡】紳士服売り場の多部田くんお客様のお出迎えために駐車場で待機して早10分。僕はソワソワと遅々として進まない腕時計を眺めていた。僕と一緒にお客様をお出迎えするのは、外商部チーフの茂田さんだ。茂田さんはここ阪京百貨店勤続20年のベテランで、物腰柔らかなな50間際の男性だ。すらっとした痩せ型の体でスーツをビシッと着こなし、営業トークもとても上手い。外商部で1番の売り上げを誇っている稼ぎ頭だ。
    不景気ということもあり、全国の百貨店に共通していえることだが、外商部はどちらかといえば縮小傾向にある。一昔前はお客様のご自宅にカタログや商品をお持ちした時代もあったときいているが、それは僕が生まれるよりも昔の話だ。もちろん、長年のお客様の中にはご自宅にお伺いし、商談を進めることもあるらしいが、そのようなお客様もほんの一握りだ。近年は、カタログをお送りしてからご自宅にお電話をし、こちらにお越しいただくことが多い。僕が働くスーツ売り場でも、茂田さんや外商部の方たちがお連れしたお客様を対応することがある。そのほとんどが僕のような新卒2年目のペーペーではなく、ベテランの先輩たちが対応していた。
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